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段取り編19 行動点が足りません。HPも足りません。MPも足りないじゃないですか!

 結局、酒や魚や〆の寿司でまあまあなレベルで腹パンパンになった私達は海鮮居酒屋を出て近くの喫茶店に入り各人好き勝手にコーヒーやらソフトクリームやらアイスココア等をオーダーし終えて、ようやく私の話が出来る形となった。

 つか息子よ、居酒屋で単価の高いものばかり頼む割にはそんなに喰っていないのに喫茶店でソフトクリームとか勿体無くね?って思ったりする。

 喫茶店でソフトクリーム喰える胃袋あればもっと寿司喰えたんじゃね?とか思ったり。

 君はスイーツ女子か?

 そもそも中高大学生の食事なんてのは周りの大人が止めに入らない限り大人2人前『から』スタート、がデフォなんじゃないのか?

 1日5食(朝食、早弁、昼食、おやつ、夕食)が基本なんじゃないのか?

 ちょっと食べるよねって学生だと1日7食(朝食、朝コンビニ、早弁、昼食、おやつ、夕食、夜食)だったりするんじゃないのか?

 牛乳は1日1リットル『から』がデフォなんじゃないのか?

 私も妻も双方の同級生達も揃いも揃って大抵食欲魔人だったぞ。

 大盛ラーメンがおやつだったぞ。

 サンキューセットやサンパチトリオが放課後学生達の心の友だったぞ。

 妻に至っては夜寝る前のレディーボーデン1パイントかM&Mミルクチョコレート1袋は日課だったらしいぞ。

 うん、私達世代のエンゲル係数って凄かったんだろうな。


 「で良いかな?要は出発日8月10日の木曜日の午後にニューヨークのホテルにチェックインしてから、15日火曜日一杯ボストンのホテルで就寝するまで、合計5日と半日、そっからニューヨークからボストンへの移動時間や空港でのチェックインやセキュリティー通過に必要な時間、ボストンのホテルまでの移動時間やホテルのチェックイン作業時間等を全て抜かした時間で考えれば合計で約5日、これが今回の旅行で私達に与えられた時間的猶予な訳だ。その中で体力的に無茶をしない範囲でスケジュールを組もうとした場合、1日にメインとなるイベントは最大で3つ位しか入らないと考えている。その前後にメインイベントのエリアの近辺でサブイベント的なのは組み合わせる事が出来ると思うけど、それでもあれ?思った程予定が入らなくね?って感覚が出て来ると思う。だから、事前にそういうもんですよって認識を共有して欲しいと思ったんだよ」


 と言ってコーヒーを一口すする。うん、ここのコーヒーは昔ならではの『あんまり濃過ぎない飲みやすいコーヒー』を出してくれる喫茶店でまるで実家の様な安定感を出してくれる有難い存在だったりする。

 

 「なんか、お前の言ってる事の全体像が今の話の内容だと全く見えて来ないんだが、そんなに予定は入らないものなのか?」

 と父がごもっともな質問をして来る。

 ただこの聞き方は彼自身は何となくでも私の言わんとする事の内容が漠然とであっても理解出来ているが、息子が同時に聞いているから意図的に質問する形で話をもっとかみ砕いて進める段取りを取ってくれているのだろう。

 まあ、息子の様子見てると、明らかに頭の周りを?マークがピヨピヨ飛び回ってスタン状態なのが伺えるからな。


 「ああ、入らない。で、今から順を追って説明するから頭の中で想像して欲しい。先ず6泊8日ってそこそこ旅行の日程としては長いと思うじゃん?でもその内丸1日24時間以上、実際は羽田空港への移動時間、チェックインとかセキュリティーゲート通過、出入国審査、実際に飛行機に搭乗している時間、入国後のバゲージクレームとか空港からホテルまでの移動時間も加わるし、逆に帰国時にはボストンのホテルから空港までの移動する時間から自宅に戻るまでの区間で同じ事を行うからザックリ35時間以上は日本の自宅からアメリカ東海岸都市でのホテルまでの往復移動『だけ』で純粋に取られてしまう」


 とっくにアイスココアを飲み終わった弟は、もう用事は済んだとばかりに我関せずと船漕ぎ始めた。

 うん、お疲れならもう先に帰ってもええんやで。

 妻にここの御代をもう先に払って貰ったから、彼が一足先に帰って貰っても全く問題は無いし、確かに彼は今回の旅行では直接の関係者では無いから、この場に居なくても何の支障も無い。

 まあ土産とかで欲しいものがあればヒアリングしようか、とは思っていたけど、そこまで優先度が高い話では無いから、特に引き留めようとも思わなかった。

 結局、一声かけて先に帰って貰ったのだが、まあ今更ながら父のゴーイングマイウェイ加減を一番引き継いでいるのは実は彼なのかも知れないなぁ、と思った。


 「えーっと、日米間の移動に合計1日以上取られるって話をしたんだけど、それ以外に当初話に出ていた様にニューヨークからボストンまでの移動時間で大体半日が必要になる。当たり前の話なんだけど、観光するのも観光をする場所に移動するのも、食事を楽しむのも、何なら風呂やトイレや睡眠時間なんかも全部『時間』と言うリソースを消費する事と代替で行われる。これはトレードオフの関係にあると言って良い。だから、1日で出来る事には限りがあるし、移動時間もリソース消費の対象である以上、スケジュールを組むのにタイパの悪い組み方をするとそれだけで時間のロスが多くなってしまう。それはより少ない観光目的や体験目的しか実現出来ない事を意味している。・・・ここまでは大丈夫?」

 と息子の方を見て問う。

 「ああ、今の話は判るよ。判るけど、それがどんな感じで思った程予定が入れられない、に繋がるの?」

 

 息子の問い掛けに対し何となく妻の顔を見る。

 私が見落としていた件について彼女から助言を受けた事を改めて思い出した。


 「どこの施設だって24時間365日稼働している訳じゃ無いのは判るよね?午前9時からの場所や午前10時からオープンする所、逆に朝7時位から午前中までしかやらないイベントとか、夕方早い時間に閉まってしまうお店もあったりする。で、その事だけを考えて、兎に角目一杯詰め込む事だけを考えた場合、それでスケジュールを組み込む事は可能だと思う。でも、人間毎日時間が勿体無いからって理由で昼ご飯を全部抜く訳にもいかないし、トイレ休憩だって必要だ。それに、幾ら日本よりも湿度が低いとはいえ夏のクソ暑い時期に初日だったら兎も角、何日か行動していると午後には動きが鈍くなったり、体力面でもどんどんしんどくなって来るのも事実だ。それに初めて行く場所が大半だから、その観光やイベント消化に、あるいは移動にどれ位の体力を消費するのか、と言う肌感覚が全く判らないと言う側面もある」


 彼に分かり易い説明をするのに何となく良い手段を思い出したので、テーブルに置いてある砂糖壺を手繰り寄せ、中に入っている今となっては珍しいコーヒーシュガーを中に添えられているスプーンを使って山盛り一杯分をすくい左手で零れる分を受け止めながらテーブルの真ん中にそれを全部撒いた。


 「ちょっと何・・・」


 と非難めいた言葉を出そうとした妻を片手で制止し、テーブルの中心部にに撒かれたカラメルの粒を1粒、2粒、3粒のグループに分ける。それらは大きさもそれぞれ違うカラメルの粒なので大小さまざまなグループになり、テーブルの中心部から同心円内に点在する形となった。


 「私も君も大好きなゲームの事を思い出して欲しいんだ。ゲームには様々なルールがあってその中に、HPとかMPとか行動点と言う制限、経験値であったりVPの様な評価点もある。これらは全部プレイヤーに対して制限を加えるものだったり、プレイヤーにとって評価基準になるものだったりするのは判るよね?」

 「ああ、言ってる事は判る」

 「うん、じゃあこのテーブルに置かれたコーヒーシュガーのクラスターを見て欲しいんだ」

 と言い、点在しているグループに目を向けさせる。

 そして息子が食べていたソフトクリームのコーン部分に巻かれていた紙を折り目を付けて手で3cm四方位にちぎる。

 ちぎった紙をテーブルの真ん中に置いて私のソーサーに置かれていたコーヒースプーンを息子の手に渡し、

 「じゃあこの真ん中に置いた紙がスタート地点とするね。で、この紙の上に君の好きな分だけ好きなクラスターのコーヒーシュガーを載せて貰いたいんだ。でも、制限があって、1日分の行動点として君は紙が置かれた真ん中のスタート地点からコーヒースプーンの横幅合計15本分の行動点が支給されその分しか移動出来ない。その移動範囲中でクラスターに辿り着いた分だけ回収出来る。兎に角数多くののシュガー粒を取りたいから3粒の所を優先的に行くでも良し、1粒でも大きくて食べ応えの良いクラスターに向かっても良いし、方向を決めて複数日程で最大体積分を確保する為に効率の良い動きをするでも良いんだ」


 そこで一息ついてコーヒーを一啜りする。もう結構冷め始めてしまったが、心地良い苦みを楽しむ事は出来る。


 「で、疲労度の影響で1日の移動可能距離は初日は横幅15本分と言ったけど、2日目は13本分、3日目は11本分と減少していくものとする。そして余った行動点は翌日には繰り越せない。1日は28時間にはならないからね。この条件で、今君が取りたいと思うコーヒーシュガーの粒を確保する為のルートを作るとしたら何を優先事項として何を取捨選択するべきか考えて、どの様に決断したいと思う?」

 「毎日スタートする場所は真ん中で良いんだよね?」

 「そう。スタート地点がホテルだと思ってくれれば良い。ニューヨークでもボストンでもそこがベースキャンプであり、拠点でもある。当然大量のお買い物とかしたら、一旦ホテルに戻って荷物を置く必要もあるからそのまま次以降の目的地に行こうとするとマイナス修正が入る。勿論、1日の行動前にサイコロ振って雨天だったらその日の移動可能距離はマイナス修正が入る」


 私のゲームに例えた話に息子は手を顎に当て考え始める。

 目の前のコーヒーシュガーのクラスターを見ているけど、それを通してニューヨークであったりボストンであったりの数々の選択肢を想像する様子が判る。

 会話が無くなったら急に店内に流れる有線の昭和歌謡と思しき音楽が耳に入り込んで来た。

 まあ、確かにこのレトロな内装、昭和な雰囲気の店内にユーロビートとかヒップホップとか違和感の塊だろうしな。


 「・・・これ、結局最終的にまとめる作業するのはお父さん1人だけになるよね。てか、3人でワイワイ言ってても何一つまとまらないし、時間ばかり無駄に経過するだけじゃん。それに何でも出来るけど何にも出来ないよね。体力面や時間面での制約でどれを捨てるか、諦めるかと言う選択をどの様な根拠で判断するかって話なんだね。で、お父さんが最終的に全部の情報を集めて決定するから、俺達はお父さんが必要とする情報の提出に専念すれば良い、って事になる・・・ああ、お父さんが言わんとする事が何となくだけど判った気がする」

 「うん、そういう事を情報共有して貰いたかったんだよ。でもって両名には各ジャンルの希望リストをこっちで用意するから優先順位を付けて貰えば、後は私の優先順位と合わせてどのジャンルのどれにしようか、とか1日の中でのスケジュール分散とか雨天時の別スケジュールとかそういう段取りに関して私の方で作り上げる事が出来るから。来週以降こっちでリストを用意するね」


 そう言いながらテーブルに広げられているコーヒーシュガーの中から一番粒の大きい奴を手に取り口に運ぶ。

 ポリポリとかじると、独特の甘みが広がり心地良い。


 「ねー君ぃ、さっきのお店であれだけおつまみ食べてお酒もガパガパ飲んで〆のお寿司も結構な量食べて、そっから喫茶店でお砂糖かじったりって今よりももっともっと太りたいのかなぁ?」


 とにこやかに妻が笑った。

 うん、笑ったと書いちゃいけない気がするんだが、表面上は笑っている。

 家に帰ってから後が怖ぇえけど。


 「コーヒーにコーヒーシュガーを溶かすのも美味しいんだけど、実はコーヒーシュガーをかじりながらコーヒーを飲むのも結構イケるんだよ。やってみる?」


 と言いながらコーヒーを啜る。

 うん、コーヒーシュガーの持つカラメル由来の香ばしい甘みと砕け残った細かい粒子がコーヒーの苦みと舌の上で合わさり野趣に富んだ味わいを楽しむ事が出来る。

 実はこの飲み方個人的に結構好きなんだけど、昨今の喫茶店ではスティックシュガーがマジョリティだし、無論衛生的にもそっちの方が好ましいと言う理由も含めて、やはり少数派になっているんだよね。

 実は個人的に何時までも残って欲しい昭和な喫茶店文化の一つだったりするんだけど。


 「じゃあ、お前のリストとやらが出来たら、早く持って来てくれ。後4か月しかないんだぞ」

 「判ってる。リストアップは大体終わっているから、来週か再来週には相談出来ると思う」


 父が最後に〆の言葉でまとめたんだが、まあ、確かに8月の出発までもう4カ月しかないんだよねぇ。


 <テーブルに散らばった残りのコーヒーシュガーは後程スタッフが全部美味しく一粒残らず平らげました>

 <その件で家に帰ってから妻から結構な時間、教育的指導を承りました>


>サンキューセットやサンパチトリオが学生の友

 両方共1987年に開始されたサービスです。サンキューセットはマクドナルドで、サンパチトリオはロッテリアで行われていて、バーガー、ポテトS、ドリンクがこの値段で食べる事が出来たのは当時、多くの食欲魔人である中高校生達にとって正に福音の様なサービスでした。


 でもこの低価格サービスが実はバブル経済真っ只中の1987年に開始された、と言うのは今から考えると結構驚きでしたね。


>M&M‘Sミルクチョコレート


 これも80年代に一部地域でテスト販売だった商品が好評で、プレーン、ピーナツ共に1987年に全国展開されたそうです。美味しいですよね、アレ。妻氏が一袋ザーッと上を向いて大きく開けた口に向かって注ぎ込む食べ方をしてたっていうのもうなずけます。


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