段取り編18 皆さん、あたしの話を聞いてください。んぅぅ…聞いてくださぁいぃ!
4月に入りようやくソメイヨシノが満開になったと思ったら直ぐに、ホレどうだ散らしてやったぞ、有難いと思えと言わんばかりの風雨が東京に来てあちこちの河川に花筏を拵える時期、息子の大学入学式が学生のみの参列で挙行された。
ようやくコロナ禍が明けたと思いきや全面的な解禁と言う訳では無く、保護者はインターネット配信にて観て下さい、と言う有難くって涙が出てくらぁな御配慮を賜り少なくも無い人数の保護者達に交じり私は1人で会場近くの公園で降ったり止んだりの小雨の中、傘を差しながら携帯で式典の様子を観ていた。
妻の方は「えーっとぉ、入れないんだったら、いいかなぁ」と言う誠に合理的かつ清々しい理由で不参加。
予定ではもう少しで式典が終わるはずで、合流出来たら連絡して家に居る妻と私の両親、弟との合計6人で夕食を取る予定になっていたりする。
で、父と息子の両名が揃うこのタイミングで、メイン&サブイベントの相談をしようと考えていて事前にこの事を伝えているのだが、両名共に『えーっ面倒だから全部の段取りそっちで用意してくれればその範囲内で答えない訳では無いけれど、食事の方優先したいから後日の方が良くない?』的な事抜かしやがってるので、正直な所、全部私が一方的にツアー内容組んじゃって押し付けてやろうかしら?とも一瞬思った。
しかし、どうせ一方的に決めたら決めたで後出しジャンケンで「あーじゃなかった、こーじゃなかった」とグチグチ言われるのも判っているし、判っていて言われるも何かシャクなので、2人そろった段階で先ずはザックリとしたスケジュール感(1日の中であまり予定とか組めないから様々なジャンルから優先度の高いコンテンツを複数リストアップして貰い、それを私が優先順位を考慮しつつ取捨選択しスケジュールを作るよ、と言うお話)を共通認識として持って貰いつつ、その上で後日個別にヒアリングして優先順位に沿ったリクエストを確認する段取りの方が良い様な気がして来た。
そうこうする内に無事入学式の式典も終わった様で、着なれないリクルートスーツで身を固めた初々しさが服着て歩いている様な男女達が会場からゾロゾロと出て来る。
保護者の人達も同じ様に出入り口付近で待ち合わせているもんだから、入口周辺はごった返していてこりゃ少し距離を置いた所で待ち合わせた方が良いな、と思い少し離れた飲食店の写真を撮って「ここで待ち合せよう」と息子のラインに送る。
しばし待つと息子を含めた団体が会場を背に記念撮影をする様子が伺えたので、撮影スタッフの近くに移動し携帯で撮影をする。
同じ学部の同級生達だ。
撮影した写真を「全員集合」と言うタイトルと共に妻にラインで送る。
すると直ぐに絵文字で「ありがとう」が送られて来て、すぐ下のメッセージで「そっちで2人が合流出来るタイミングでこっちも身支度開始するからその時は連絡頂戴ね」と書かれていた。
で、直ぐに待ち合わせ場所に移動して様子を見ていたのだが、まだ記念撮影やらなんやらで入り口付近を中心に人混みが絶えない状況が続いていて、少しずつ人が疎らになっているようにも思えるのだが、息子達はまだいくつかの集団で談笑していて、パラリパラリと小雨が降ったり止んだりの状況下で私はぼーっと待ち合わせ場所で待ちぼうける羽目になり、こりゃ直ぐには連絡出来ないかな、と思った。
結局写真を撮ってから20分位待ってようやく息子達も三々五々散って行き、ようやく合流出来た時にはまた雨がしとしとと降り始めた頃だった。
「何かえらい時間が掛かったな。何か情報共有する必要がある内容だったり連絡事項の伝達とかがあったのかい?」
と聞くと、
「いや、特に何も。単に駄弁ってただけ」
と息子が答える。
いやまあ、こっちも待ってるんだからさぁ、と言う言葉を飲み込む。
互いに傘を差しながら地下鉄の駅に向かい歩き出す。
アスファルトには散った桜の花びらがあちこちにかなりの量落ちていて、桜の絨毯とまでは言わないけれど、それなりに目を楽しませてくれている。
「ふーん、って事はもう同級生で友達になりそうな人が何人かいそうな感じだったの?」
「・・・うーん、そうだなぁ。まあ入学式以前に開講式があったからそこで何人かとは話をしていて、今日も同じ人と話す機会があったからそれで色々駄弁ってたって感じかなぁ」
「大学の授業とかだとマジで先輩からの情報とか同級生同士での連絡網とか重要だから、何人か真面目な子達と交友関係を作っておくと便利みたいだね。定期試験だったり提出課題だったり1人で全部ゼロから情報収集してこなすよりも色々事前に有益な情報があった方が余計な苦労をしなくて済むみたいだし」
「あー、それ話に出ていたわ。とは言え先輩だったり同級生との会話の目的がことごとく『情報収集』それだけですって無粋で無味乾燥な話だけじゃ、会話が持たないだろうけどね」
「そらそうだ。あからさまにそんな目的の為だけに貴方と関わってますって露骨に出すアホがいたら速攻ハブられるわ。交友関係を広げるって事は君にとって悪い話じゃ無いと思うよ。それ自身色々な価値観だったり考え方だったりと触れる事も出来るし、その中から気の置けない親友を作る事だって出来る。・・・まあだけど実際の所、世の中は多少なりとも相手が自分にとって苦手だなぁって思う言動や事柄があったとしても感情的にならず、適切な距離感を保って無難に関わっていった方が結果として双方メリットになるって人間関係の方が圧倒的に多いんだよ。面倒だけどね。だからその為のスキル経験値を今の内から積み上げていく事は決して君にとって悪い話じゃ無いと思うけどね」
「うわーなんかそう言うのダルいんだよなぁ・・・」
と息子がその語彙力の無さ加減にツッコみたくなる様なボヤキをしながら傘を畳む。もう地下鉄の入り口に入る所で私も傘を畳み、2~3回程傘を上から下に向けて振って雫を落とす。そこでようやく傘の胴ネームバンドを使って仕舞う事が出来る。これをやっておかないと電車車内で濡れた生地があちこちに当たってしまい、特に混んでいる時など私や周りの人達に水滴が付く可能性が高いんだよね。
電車内では直ぐに息子はイヤホンで音楽を聴き始めたので特に会話も無し。
私もそのタイミングを利用して妻に「これから地下鉄に乗り家に戻る」とラインを送り、今週まだ未読だった様々なニュースやコラムとかをざっと目を通し処理する。
こんなのも昔だったら電車に乗る時に紙ベースの新聞や雑誌、書籍をわざわざカバンに入れる等して移動する必要があったのだが、今では全部スマホで完結出来るのでこの様な移動時間で処理出来る情報量は昔と比較して格段に増えたと言える。
家に到着した時には既に妻は出かける準備が終わっていて、玄関にゴミ袋が準備してあった。
カバンとか夕食時に不要な荷物を一旦置いて、全員で外に出る。
「ゴミ捨てに行くから先に行って向こうで合流しててね」
「うぃー」
先に妻と息子を待ち合わせ場所である海鮮居酒屋に向かわせゴミ袋を一時保管室に持って行く。
ここのマンションの管理人はキチンと管理をしてくれている為、保管室内は非常に清潔に保たれていてゴミ出しでのストレスが一切無い環境になっているのでとても有難く思う。
そこから店舗に入ったら既に私以外全員席に着いていて、メニューを見ていた。
「おう、取り合えずレモンサワーとかで良いか?」
と父が仕切る。
ええ、何でも良いっすよ。ビールでもハイボールでもレモンサワーでも何でもござれ、ゴチになるのにそんな自分勝手な事、想像すら致しません。
「ああ、お願い。他のメニューとかもう頼んだの?」
「まだ。あ、わたくしはコーラで」
「俺もコーラ」
「私はウーロン茶が良いかなぁ」
「最初はお父さん達と同じの飲もうかしら。レモンサワーで」
「じゃあレモンサワー3つ、コーラ2つ、ウーロン茶1つで」
両親と私が酒を飲める口で、妻は酒で直ぐに顔が真っ赤になってしまう位弱いので、ノンアルコールの飲み物がデフォ、弟と息子はいつも安定のコーラとなる。
他にも色々な肴を頼み終わり、一旦手を洗いに中座して戻った頃には既に全員分の飲み物がテーブルに置かれていた。
と言うか、もう乾杯も終わり皆飲み始めていたみたいだ。
・・・うんまあ良いんだけどね。
席に着いて自分のジョッキを掲げながら
「じゃあ、とりあえずお疲れ」
「ん」
と何がとりあえずなんだよとか、何に疲れてんだかよとか、そう言うツッコミガン無視なコテコテテンプレートで日本国中何時でも何処でも使える無難ランキングでは常に上位に位置する鉄板乾杯音頭でジョッキを相手のとコツンと合わせる。
昨今だと中身がこぼれる程に盛大にガツンとジョッキをぶつけ乾杯をするシーンも見なくなったけど、これも御時世と言う奴だ。
今の時代はこういうのでいいんだよ、こういうので。
そうこうする内に料理が来始めたので全員で獲物を借る狩人の様に「仕留め」に係った。
釜揚げしらすサラダはしらすの塩味と海苔の香りが効いていて葉物野菜が面白い様に胃袋に入って行く。
ゴボウスティックは衣の味付けがピリ辛になっていてそれがゴボウのしっかりとした歯応えの良さと相まって酒が面白い様に進む。
川エビのから揚げはサクサクと軽い歯応えが良く軽妙な味付けで、あらかじめ分配しておかないと全員が勝手に人の分まで全部平らげそうな位に止め時が判らない食べ易さになっていた。
そして刺身の盛り合わせはこの値段でこれだけ出るのか、と言うコスパの良さがこの店の看板メニューと謳うだけあって、皆思い思いに刺身を堪能出来た。
これらの料理を着た順に片っ端から瞬殺しながら両親がレモンサワーのお替わりをする頃(ちなみに私は3杯目だ)、彼等が酔っ払ったら話が出来ない事が明白だから今回の旅行の件について話を始めようとする。
「・・・で、色々と今回の旅行について段取りを考えているんだけど、行った先での滞在時間とか次の場所への移動時間、夏の暑さの事を考えた休息とか諸々の条件を考えてたら、実はそれほど多くのスケジュールを1日の中で入れられない事が判ったから、今の内にその事について私と両名との共通認識を持って貰いたいなと思ってこの場でザックリと話をしておきたいんだよ」
「ああ、それに関しては全部任せるよ。で、寿司は何を頼むかオーダーシートに書いておいてくれ。書き終わったら板前に渡すから」
と、何時でも何処でもあくまでもエブリデイゴーイングマイウェイな父は意識は既に赤貝、ホッキ貝、ボイルエビを2カンずつ頼む事に集中している始末だ。
息子の方は息子の方で、
「俺は先ず赤身4カンとサーモン2カン、イクラ軍艦とトロ鉄火・・・」とかオイオメェ人の話全く聞く気ねーだろモードになっていて、思わず某ゲームの巡洋艦キャラのセリフが頭に浮かんだ。
こらアカンわ、この場での話はダメで食事の後でもお茶する時間とか設けてそこで話をしないと1ミリも進まないや、と頭を切り替えた。
「じゃあ飯終わったらお茶しばきに行くから、そこで話するわ。良いね?」
「おお」
「・・・んん」
「・・・」
と実に有難い好レスポンスな反応が双方から返って来て、私は思わずオーダーシートに大トロを8カン、タイ、カンパチ、エンガワ、ホタテ、アジを2カンずつ、トロ鉄火1巻で書く所「から」注文をスタートする事にした。
良いんだよどうせ御代は父持ちでゴチなんだし、向こうの反応がこんなんだったなら、こっちもそれなりに臨機応変に対応してやるのは当然の事なんだし。
>某ゲームの巡洋艦キャラのセリフ
いやぁ、サービス開始が2013年って、そらプレイヤーの方が年も取るよねって超長寿ゲームの代表格になりましたね。
私の友人は今でもイベント全甲をキープしていて、淡々と修羅の道を突き進んでいるその姿にある意味尊敬と畏怖を感じていたりします。