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段取り編7 良きに計らえ

 折角色々準備した挙句、息子には某食通な陶芸家の様に「私はあの中からは選ばない」的な事言われて正直へこんだのだが、まあ、こういった話は公私共によくある事なので気を取り直して、息子の希望に関して具体的な内容について聞いてみる。


 「買い物となると、何処か目当てのブランドとか買いたいものとかあるの?」

 「うーん、先ずナイキはマストかな。ニューヨークの店舗でアメリカ限定だったりニューヨーク店限定だったりのスペシャルモデルのスニーカーとかがあったら絶対にゲットしたいし、ノースフェイスでパーカーとかトレーナーとか帽子なんかも買いたいし、後スプリームとかステューシーもニューヨークの店舗に直接行ってみたいし、日本で手に入らないモデルがあれば絶対買いたいんだよなぁ・・・」


 何かサッカーやゲーム、特定ジャンルの音楽とかの話をしている時以外では久方ぶりに目ぇ輝かせながら饒舌に話す息子を見た気がしたぞ。

 普段は食事の時にもダルそうにテレビばかり観ていてこっちに顔を向ける事すらもあんまり無い癖に、まあ子供らしい無邪気な可愛らしさだことで。

 しっかしまあ、なる程そうかコイツはストリートファッション系が好きなのか。

 今話をして初めて知ったよ。


 一々今日何処行ったの、誰と会ったの、何やったの、的な事は質問の仕方によっては単なる尋問に成りかねないので、余り口煩くは高校入学以降聞いていないんだが、高校在籍期間はそもそもコロナ禍によって交友関係がズタボロだったので、友達関係筋からと言うよりも彼自身が色んなネット情報を調べてファッションに興味が湧いたのかも知れない。


 そう言えば私がコイツと同じ位の年だった時ってファッションとかどうだったかなぁ・・・ああそうだ、昔も今も着れりゃ何でも良かった系統だったわ。

 昔っから「恰幅の良い」体形である私の場合「着れればヨシ!入ればヨシ!破けなきゃヨシ!って言うか店にワイのサイズが在庫としてあればヨシ!」という基準がベースとなっていたので、オシャレとか何それ喰った事無い、ってレベルなのだ。


 今回、不幸中の幸いと言うべきか旅行の予定がズルズルと後ろ倒しになったお陰で、息子の身長や体格がこの3年で劇的に変化した後にそういう買い物が出来る機会がある訳で、これは奇貨としたい所だ。

 仮に高校1年の時に旅行に行きます、とかだったら多少大きめのを買ったとしてもサイズ的に半年と持たなかっただろう。


 「だから、ニューヨーク行ったらショッピングモールとかも行きたいんだよね」

 「あーそうなんだ、そっちの方はまだこれから調べてみないといけないから、今言ったブランド以外にも行きたいお店があればラインで送って頂戴。肝心のショッピングモールにお目当てのブランドとか無いと意味無くなっちゃうから」

 「ん、判った」

 「で、これなんだけど・・・」


 ノートパソコンの画面を息子の方に向け各施設の説明を一通りする。


 「で、先ずは展望台から。何処かリクエストはある?」

 「うーん、この中だったら全面鏡な造りになってるサミットは何か違うかなぁ。もっと『普通の展望台』の方が良いかも。だからそれ以外の選択肢だったら何処でも良いよ」

 「了解。取り合えずサミットは第1候補からは除外だね。ただ、荒天時とか屋上に出れない可能性もあるから、その場合は表に出なくても建物の中から景色を楽しめるサミットは荒天時オプションとしてキープはしておくよ」

 「んー、判ったぁ」


 展望台については、残った4つの中から他の選択肢との兼ね合いで立地条件勝負になるかな。


 「あ、そうだ。御朱印集めの様に展望台5か所コンプリートとかは・・・」

 

 こう言うと首を横に振って

 

 「いらん、いらん。そんなに高層ビルに思い入れ無ぇーし。せいぜい1か所で十分でしょ?」


 と全否定だったので、展望台は1か所のみで決定かな。

 多分父も高層ビル御朱印集めは乗り気では無さそうだし、私も1か所で良いかなと思っているから、特に絶対にここだと言う決め打ちをする必要は無く、観光の導線によって行く所を決定する、と言う流れの方が良いかも知れない。

 となると、他の候補を挙げて貰って、展望台に関しては各地の調整で最終的に何時のタイミングで何処の展望台にするかと言う流れで決定する方が良いだろうな。


 「では次に美術館だな。これに関してリクエストは?」

 「て言うか、どうせボストン美術館行くんだし、ニューヨークで美術館とか要らなくね?」

 「いやいやいや、それぞれの美術館で収蔵、展示されている美術品は全然違うし、それぞれ代表的な収蔵品があるんだよ。ほら見てみ、メトロポリタン美術館ならゴッホの『麦わら帽子をかぶった自画像』とかフェルメールの『水差しを持つ女』、ルノワールの『花を持つ少女』、ターナーの『大運河』なんかも収蔵されている」


 絵画の写真が掲載されているネットのページをスクロールしながら息子に見せる。


 「全部知らない」

 「なら、今回の件を切っ掛けに美術作品を鑑賞する楽しさも知って損は無いと思うぞ。家の近くの上野には国立博物館の他に国立西洋美術館だったり、上野の森美術館とか東京都美術館なんかもある文化芸術の街なんだから、色々観に行く機会があれば見識も広がるし、その事によって価値観の多様性だったり、文化の奥深さを知る事が出来る。そして何よりそんなにコストを掛けずに楽しむ事が出来るコスパの良い娯楽の一つだ」

 

 知らない事は知らないで若い間なら全く問題は無い。

 ただ、知ろうとする姿勢さえ忘れなければ、どの様な時にどの様な形であれ学ぶ事は出来るし、知る事で新たな楽しみも出来る。

 私も大概色んな趣味を上辺だけで食い散らかしている、その筋の数寄者、趣味人からすれば失笑受けるレベルな俗物なのだが、今後彼も様々な事を知る機会があればその中でひょっとして趣味として生涯の伴走者を、あるいは人生におけるランドマークの様な存在を得る事が出来るのかも知れない。

 親である私からすれば息子にとって何かしらの切っ掛けが出来ればと願わずにいられないのだ。


 「他にもグッゲンハイム美術館は建造物そのものがフランクロイドライトによる設計で国の歴史的建造物に指定されていて、ユネスコの世界遺産としても登録されているんだ。フランクロイドライトって建築家は知ってるか?」

 「いや、知らない」

 「お前も帝国ホテルのビュッフェに行った事あっただろ?あのホテルの2代目本館を設計したのが彼だったんだよ。彼の設計した本館、これは『ライト館』と呼ばれるんだが、落成披露宴当日が寄りにも寄って関東大震災でね。それでもほとんど被害らしい被害も無く、周りの建物が瓦解、炎上する中でその圧倒的な存在感は人々に感銘を与えたんだ。でその事を後日弟子からの連絡で知った彼は狂喜したそうだよ。正に建築界の三大巨匠の一人と言われている偉人の作品だね」

 「そのライト館ってもう残っていないの?」

 「建物の老朽化もあってうち等が生まれる前には閉館して取り壊された。ただ、中央玄関部分だけはそっくり切り取って愛知県の明治村って所に移築されている」

 「何か勿体無いなぁ」

 「まあね、実際建て替え計画が持ち上がった時には歴史的建造物を取り壊すなんて何たることか、と日本のみならずアメリカでも反対運動が起こって、当時の佐藤栄作首相他政界まで巻き込む大騒動になったみたいだよ。でも閉館当時ですら老朽化がかなり進んでいたみたいだし、仮に今の耐震基準に合わせようとすれば、その為に81年基準および00年基準に合わせる形で更に莫大な改修費用が必要になる事は避けられなかっただろうし、何よりも都心の一等地にあるホテルにしては客室数が余りにも少なすぎて(注・約270室だったそうです)、ビジネスとして時代にそぐわなかっただろうね。仮に今の世にライト館の存在が許されるとするなら、それこそ世界中の超富裕層のみを相手に全室最低一泊数百万から、預け金は数千万から、とかでそこに宿泊出来る事自体が世界的ステータスというブランドの物語を構築出来るのならばワンチャンあったかもだけど、仮にその様な話でロイド館が閉館されずに保存、改修が進んだ場合、俺達みたいな庶民は絶対に入口に立つ事すら許されない存在になると思うぞ」

 「あー、じゃあ良いや」


 息子のその変わり身の早さに思わず苦笑する。

 

 「まあ、どっちみちさっきも言ったが荒天時のオプションとして屋内型の観光スポットも予備で複数入れといてプランを立てて置く必要もあるから、荒天時イベントの枠としてこの2か所は入れて置こうと思う」

 「うむ、良きに計らえ」


 何様だよ。

 つか誰に教わったんだよ、それ。

 ・・・あれ、ひょっとしてワイ?

 つか、元ネタ候補が結構あってどれだっけ?って考えてしまった。

 

>元ネタ候補が結構あって

 某両生類が主人公なアニメ主題歌とか、世知辛い地獄の日常のお話とか、某国営教育番組アニメ内のセリフとか、某メディアミックスアイドルアニメ内の某声優さんによるアドリブセリフとか、まあネタ元どれだっけって作者もド忘れる事結構な頻度だったりする。

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