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段取り編3 禁止イベントリストに追加

 「そう何回も行く事が出来る旅行では無いんだから、予算的には相談に乗るからな」

 「そう言って貰えるのはとても心強いよ。でもそんなアホみたいな予算が掛かるイベントは基本しないつもりだけどね。で今の内から聞いておくけど、会長にとってNGなイベントってどれ位あるの?遊園地の類がダメなのは知っているけど、それ以外に」

 

 そう聞くと、会長はいつもの様にガムのボトルから数粒取り出し自身の口に放り込んだ。


 「俺の耳が鼓膜破れてるのは知ってるだろ?だから、プールとか水が入る可能性があるイベントは全部無理だな。後、他にはオペラとかバレエとかオーケストラの様なのもダメだね」


 そう、父の片耳の鼓膜は高校時代の部活動で先輩から「弛んでいる」という名目でボールを至近距離から顔面に向けて全力で投げつけられるという「御指導」を受け、そのボールが直撃した事によって破損してしまったのだ。

 今の時代からすれば民事&刑事両方で訴える事件であったのだが、昭和も30年代位はその様な暴力的指導やシゴキ、度の超えた体罰が教師は元より先輩後輩間でもあらゆる理由を付けては日常茶飯で行われる、という旧日本軍の悪癖の如き蛮行が当たり前の様にまかり通っていた狂った時代であった様だ。

 まあ昭和末期に中高生だった私の頃ですら、その様なコテコテテンプレート体育会系脳味噌きんに君な手合いが一定数存在していたから、そこから更に30年以上も前ならもっと酷かったとしても理解出来る話だと思う。

 無論、納得も同意も絶対にしないけど。


 ダイビングやシュノーケリング、プールアクティビティは元より、カヤックとかSUPの類も選択肢から除外されるな。

 今回の旅行には関係無い選択肢であるが、川下りとかも急流で水しぶきがジャンジャン掛かるレベルのイベントとかもダメだ。

 池とか静かな湖面とかでボートをのんびり漕ぐレベルなら平気なんだろうけど。

 いずれにしても水が顔にかかる様なイベントは全部禁止イベントリストに追加決定だな。


 オペラとかがダメなのは音楽が聴き取り難いから、と言う物理的な話では無く単に英語が全く判らんから直ぐに飽きてしまい、会場で堂々とデカい欠伸やらかしたり、最悪寝落ちしてしまうリスクがあるからなのだろうな、と思いつつ流石にそれは武士の情けで言わないでおこうと思った。


 「ミュージカルとかも厳しそう?」

 「何か良く知らんが、そもそも英語でセリフをバーバー言ってても俺なんか全く判らんから、つまらんだろう?」


 つか自分で言い切っちゃってるよ、この人。


 「オフブロードウェーとかだと、パフォーマンスメインでセリフとか無い演目もある様だから、英語が全く判らなくても楽しめるプログラムとか幾つかあるみたいだけどね」

 「うん、そう言うのがあるのならば、孫がもし行きたければ検討しても良いぞ」

 「ん了解した。真夏の時期に行くにせよ、水絡みのイベントは入れないで置くよ。それにオペラだとかバレエだとかは息子にも一応は聞いてみるけど、まあ多分彼も興味を示さないだろうから、そういった『高尚な』イベントも基本パスの方向で。じゃあ早速、8月10日日本発、8月16日アメリカ発翌17日日本着でチケットを取るようにするよ。で、行きは羽田、成田どっちが良い?」

 「ん?どういう事だ?」


 私の質問が的を射なかった様で、会長が聞き返す。

  

 「ああ、ニューヨークの往復便は羽田から、ボストンの往復便は成田からなんだよ。だから、行き帰りでの空港は違う事になるね」

 「そういう事か。・・・それなら孫にも行きにJALのラウンジを体験させてやりたいから、羽田の方にしなさい。成田のラウンジよりも景色が良いから。ただ・・・」


 会長が珍しく言い淀む。


 「ただ、何?」

 「中国の方に今でもノービザでは行けないのは知っているよな。商業ビザを使うと言う手もあるんだが、以前申請の手間で難儀した事があってアレは基本的に選択肢に入らない。だが、もう世界中行き来が出来る事にはなっている。だから、コロナ禍による停止猶予期間が終わったんだよ」


 ・・・あー、何となく答えが見えて来た。


 「要は中国出張が出来ないけど今まではコロナ禍による猶予期間があったから、問題無かった。でもその猶予期間が終わってしまったから、今度はしばらく飛行機に乗ってマイルを貯めないとグローバル会員の特典ランクが有効期間切れになりダウングレードしてしまうって事か」

 「ああ、そうなんだ。今年の夏までにはもう確実に切れているから、残念だが羽田のファーストクラスラウンジを孫に体験させてやる事は出来ないんだよなぁ・・・」

 「まあ、仕方が無いよね。猶予期間が終わっているんだから。サクララウンジでも十分息子本人にとっては貴重な体験になると思うし、もし本人が何時かはファーストクラスラウンジにも行ってみたいと思えば、だったらガンバレよ、と言ってやれば良いだけの事だと思うよ」

 「ファーストクラスラウンジだと基本空いているから、シャワーとかも好きな時に好きな様に浴び放題で利用出来るんだけどなぁ・・・」

 「ブチブチ言ってもしゃーないじゃん。まあ確かに、あそこのビックリする位落ち着いた雰囲気だったり、昔の搭乗券や操縦室の機器、当時夢の機体と言われたボーイングの超音速機モデルの模型なんかがディスプレイされていてその中でヴィンテージモルト片手にチェスなんかに興じる事が出来るゲーム室とか、それだけで行く価値があるサービスだとは思うけど、俺的には朝っぱらから酒、肴、〆の飯がフリーって時点でサクララウンジでも十分天国の様な場所だと思うよ。そこで一生引き籠れば良いと思える位に」

 「バカ言ってんじゃないよ。そんな事より、チケットはビジネスクラスが取れるのか、も確認してくれ」

 「判った。でも、コロナ禍前の残マイルやコロナ禍の間にクレカで貯めた分とか合算してもビジネスは期待出来ないと思ってて欲しい。上手く会長だけでもプレ(ミアム)エコ(ノミー)確保出来るだけのマイルが残ってれば良いんだけど、現状それすら厳しいかも知れない」


 時計を見る。ゲッ、もうお昼休み終わる時間じゃねーか。


 「その辺りも確認後報告してくれ」

 「判った。じゃあ8月10日東京羽田発ニューヨークJFK行き、8月16日ボストン発東京成田行きの特典航空券がどの席で取れるか確認するよ。通路側が良いんだよね?」

 「ああ、アメリカ東海岸とか13時間位掛るだろう?便所に何回行く事になるやら・・・」

 「俺の場合は基本、酒の肴に機内食喰ったらそのまま寝ちまう事が多いから、あんまりトイレの事とか気にした事無いんだよね。だから、真ん中の席で問題無いよ」

 「おお、そうしてくれ」

 「じゃあ、今夜作業するから一緒に確認してね」

 「?・・・作業が終わった翌日の報告でも良いだろう」

 「・・・貴方のマイルで特典航空券を購入するんだから、本来貴方がやる作業なんだけど。私はあくまでもパソコンの作業が一切出来無い貴方のやるべき作業のお手伝いさんに過ぎないんだから、本人いないと駄目でしょうに」

 「夜に俺がわざわざ時間を割いてお前の作業ぼーっと見るのと、お前がチャッチャと予約を入れて翌日お前の作業報告聞くのと結果は変わらんだろ?」

 「えーっと、そもそもそういう問題じゃ無いから」


 頭を抱えてしまう。

 多分この人どんな説明しても判らないんだろうなぁ・・・


>ボーイングの超音速機モデル

ボーイング2707のJALカラーで塗られたモデルで、滅茶苦茶カッコイイです。

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