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段取り編1 ぼうけんのしょをてにいれた!  

 今回から新章、段取り編になります。

 前日談よりも、当時私がこんな風に考えていたんだと言う内容が多いですね。

 ですので、計画立案が上手くいかずに空回り&右往左往&七転八倒する姿をゲラゲラと御笑読頂ければ幸いです。

 正月がここ数年の狂乱っぷりと比較して極めて穏やかに過ごす事が出来、全国津々浦々様々な御馳走や御酒が大名行列で私の胃袋詣でをする日々に、悲鳴を上げかけていた消化器達を七草粥で慰める頃、具体的なプランを作成する為にガイドブックを買おうと近くの本屋に赴いた。


 今回の旅行の最低目標として、3世代で同じモノ観て同じ飯食って同じ体験をして互いに語り合いながら相互理解を行い、父と息子との間でコミュニケーションを取る物理的な時間をある程度確保する事、が挙げられる。

 故に、ニューヨークであろうとボストンであろうと、移動に相当の時間を掛けるオプショナルツアーとかを組み込むのはタイムパフォーマンス的に厳しいと感じた。

 ネットで様々な旅行会社であったり、イベント企画会社がそれぞれの都市出発の魅力的なツアーを販売していたが、飛行機を使う事が前提のツアーだと、空港までのアクセス、チェックインやセキュリティー通過までの時間、航空機に実際に搭乗している時間、現地空港へ到着してから目的地までの移動時間、これらの「時間」を支払ってまで得られるパフォーマンスがあるのか、となると少なくとも今回の旅行においては避けた方が良いのではないか?と考えるに至った。


 いよいよ寒さも厳しくなるであろう時期、皮下脂肪をアイスバインにさせないようにしっかりと着込んでから出かけた。

 ほとんど雲も無い絶好の外出日和となったお昼過ぎに、コロナ禍からの回復でちょっと遅い初詣の参拝客や浅草寺等への観光客で地元浅草に人が戻りはじめて来た中、活気が長い冬眠から目覚めた様な人込み具合のアーケードの中を歩き、商業ビルの中に入っている書店に到着し、観光ガイドのコーナーに行く。

 久しく観光ガイドのコーナーには行っていなかったのだが、昨今は国内でも色々な地域のガイド本が出版されていて驚いた。

 それだけ旅行のニーズが細分化されている、という事か。

 色々なガイドブックが並ぶ中で海外旅行の棚を見る。

 ざっと目に付く所では、地球の歩き方、るるぶ辺りから選ぶ形になりそうだ。


 先ず、地球の歩き方から手に取り内容を読んでみる。

 手に取りやすい大きさは現地移動中でもカバンから取り出し易そうで、そこはポイントが高い点。

 女性にはちょっと重く感じる、というネットでのコメントもあったが、個人的にはその様な事は一切感じなかった。

 ただ、ようつべなんかで「地球の歩き方 ばらし」でググると紹介されていた歩き方のコンパクト化動画は便利そうなので、地域毎にバラシて背表紙をテープで止めるやり方は真似するかも知れない。

 多分作り方的には、盆暮れにビッグサイトで開催されるコミケのカタログを開催日毎にぶった切ってまとめる作業と同じ様な感じで問題無いだろう。


 内容的には、細かい情報も含めニューヨーク全体の観光情報が具体的に記載されているので、これで大まかな情報を集め、細部に関しては必要に応じてより具体的な情報をネットで調べる形を取り、ニューヨークの旅行プランをゼロから構築するのには最適解な印象を受けた。


 気になる点があるとすれば、冊子の大きさがるるぶと比べ小さい故に写真情報が細かく、ビジュアルでイメージするには他のガイドブックやネット情報を併用する事が前提になっているという点か。

 他には、現地に行くのは初めてですという場合、事前にガイドを読んでいて自分が現地に観光で赴いている姿、というザックリとしたイメージを想像し難い点も含まれるかも知れない。

 父や息子に具体的なビジュアルイメージを見せる必要があった場合、ネットの画像を検索&プリントアウトしてこんな感じですよ、と教える手間が増える可能性が考えられる。

 息子だけならネットのリンク先を送るだけで済むのだが、スマホを手にした瞬間干からびて死んでしまうレベルのインターネット音痴である父相手にはそんな事出来るはずも無く、アナログにプリントアウトした情報に文字情報も添えてホチキスで留め、その上であーですよこーですよ、と一から私が教える必要があるだろう。


 次にるるぶを手にする。

 歩き方と比べて1ページの紙面が大きくフルカラーページを前面に出しているのが特徴で、現地に旅行に行った時の自分、というものを想像し易い紙面作りになっているのが特徴に思えた。

 これは間違い無く旅行に対するイメージを脳内で想像するのに一番良い触媒になるだろうし、何処に行きたいのか、何をしたいのか、どう言う料理を食べたいのか、どんな体験をしたいのかという事を決断する背中を押してくれるツールとしてとても便利に感じた。

 特に現地には初めて行きます、という観光客にとっては恐らく最高の入門書になり得るだろう。

 他方、そちら方面にメリットを全振りしている為、どうしてもトータルの情報量では歩き方の方が圧倒しているのも事実。


 双方共甲乙つけ難いガイドブックになっている上に互いの方向性が全く違うので両方買った方が良いかな、と一瞬迷ったのだが、現地で2冊のガイドブックを常に持ち歩く事は想定していないのと、1冊をホテルに置いておくというのも、だったらそもそも日本に置いておけば良いじゃないか、という事になるので迷った挙句、今回は地球の歩き方にした。

 るるぶの様なビジュアル情報に関してはネット情報をプリントアウトするしかない。 


 一方、ボストンに関してはガイドブックが置いていなかった。

 もとより、るるぶでもボストン専門ガイドは販売されていないので、選択肢が事実上地球の歩き方だけになるのだが、それが置いていなかったので今日はニューヨークのガイドだけ購入する事になった。

 レジで会計を済ませ、カバンの中にガイドを入れた時、何となくだけど頭の中にファンファーレが鳴り響き「ぼうけんのしょをてにいれた!」というコメントが流れた様な気がした。

 手にする情報を生かすも殺すも結局は使い手側の技量の問題であるのならば、せめて元は取れる様にしたいものだ。

 その為にも、事前の段取りを手を抜かず大事にしなければならない。


 書店からの帰り道、冬至とさして変わりが無い時期故に大して遅くも無い時間帯にもかかわらず既に夕闇が眼前に迫る中、帰路に就く。


 行きとは違う道順で帰る途中、通りからふと柔らかな甘い匂いがして、何処からこの香りが来るのか見渡す。

 街路樹の上の方に薄黄色の花が一面に咲いていて、恐らくこの香りなのだろう、と思った。

 携帯を取り出し写真を撮る。

 上を向いて撮影したそれは、星の瞬きが月明かりに欠き消され、茜色から淡い群青色に染まった天空の中、可憐に咲くちっぽけな花々の薄黄色がとても良く映え、妻にコメントと一緒に画像を送った。


 『ワイでも判る位良い匂いがするんだけど、何の花?』


 送ってからそれほど時間が掛からずに返信が来る。


 『蝋梅だよ、それ。この時期に花が咲く有名な植物だよ。確か花言葉って『奥ゆかしさ』とか『先見』とかだったかな?そうか、君の鼻でもその花の香りが判るんだ。凄いね、蝋梅』

 『だよね、ワイですら判るんだから鼻の利きが良い君ならもっと良く判るんだろうね』

 『今度の週末とかそっち方面にお散歩でも行こうよ。取り合えず早く帰っておいで』

 『りょ(了解)』


 最後の送信を送って、携帯を仕舞う。

 蝋梅か。

 花の柔らかく甘い匂いに包まれて、冬の寒い時期なのにも関わらず私は思わず欠伸が出てしまった。

 春眠にはまだ早いんだけどね。


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