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前日談13 死ぐかと思った

「これから戻って、家に着いてからドラッグストアに行く段取りだけど、その前にどこか寄る所とか買っておくものとか大丈夫?」


 病院の駐車場を出て、しばらく2車線道路を運転し、もう直ぐ主要幹線道路に入る前にもう一度確認を取って置く。

 この年代あるあるの1つとして、今まで完全にその存在すら忘れていたのに必要なモノを購入するのに該当する店舗等を通過してから、「あー忘れてた、○○で△△買わなきゃいけなかったんだ。ねぇ今直ぐ戻って(簡単でしょ?)」と急に思い出しながら言われ、その結果余計な手間暇を掛ける羽目になる、という事が挙げられ、個人的にこれには辟易とする思いを何度も何度も何度も味わされ続けて来た。

 つか昔、高速道路に入ってから、「あ、忘れ物したから今すぐ戻って」とか言われた時にはどうしてくれようか、と思ったものである。

 しかも結局、「ああトランクの中に仕舞ったカバンの中にあったわ、ケラケラ」とかのオチ付で。


 そういった、その場思い付き/思い出しブンマワシ被害者の会会長である我が身からすれば、バカみたいに何回も何回も念を押さないと同じ事をいとも簡単に繰り返してくれるので、少しでもそのリスクを低減したいから故に壊れたレコード盤の様に同じことを何度も言う羽目になるのだ。


 「大丈夫ね、問題無いわよ」


 で何時も答えは変わらず同じ。

 何時もと変わらぬ答えが来る。


 しかし、その「何時もと変わらぬ答えが返って来る何気無い日常」がとても儚く、そもそも危うい存在でしかなくって、単に私がそう「信じ込みたい」だけだったのだ、と今回の出来事で痛感させられた。


 当たり前の話だが、私も両親も妻や息子にしたって皆平等に毎年必ず1歳分年老いる。

 その積み重ねによって、あちこちガタが出たり、更にポンコツになっていったり、思わぬ大病患ったりするのも確率的に上がる事はあれど下がりはしない、と言う事は目を背けたくなるのだが、避ける事が出来ない事実であるのも理解出来る。

 私の息子にしたって毎年確実に「老いて」いく。

 そして何時か必ず「死ぬ」

 私がゲームをしている最中に自身の動体視力の衰えを感じ始めたのは20代前半、反射神経も含め様々な点で衰えと老いを感じたのは20代後半の頃だった。

 老いなどと言うものは存外早く訪れる予期せぬ来客の様な存在だったりする。


 無論、健康寿命について普段からの健康に対する意識の強弱であったり日常の食生活や運動習慣等であったり、それが実行出来る時間的、資金的、精神的余裕の有無、強弱なんかが影響を与える為に、全てにおいて平等などあり得ない話なのだが、それにしたって、親の背が縮む、シミやシワが目立つ様になる、走れなくなる、食えなくなる、気力が衰える、という事はそれらの大なり小なりの不平等を差し引いたところで方向性としては皆同じである事は間違いない話だ。

 そしてそれは私にとっての両親がそう見えるのと同じ様に、私の息子にとっても私がそう見られている、という事でもある。


 「会社の方はどうだ?中国の事務所から顧客工場に直納した分は全部伝票は入れたか?」


 先程まで車内で中国事務所スタッフともう2段階程控えて欲しいレベルのボリュームで会話をしていた会長が此方に話を振って来る。

 入院していようが仕事は止まる訳にもいかないから、彼の把握していない案件も入院中にそれなりに増えていた。

 それ等の最新情報について状況把握を真っ先にやりたい、と考えているのだ。


 「中国直納分は全部納伝済み。日本納品分に関してもせっつかれてる分から順次作業を進めているから、問題になるレベルのトラブルは無い。貨物の日本到着スケジュールは現時点では予定通り。入金も会長がいない期間の分は、全部着金確認済みだね」

 「次の企画進捗はどうなってる?」

 「部長の方から次期に向けてのサンプル企画だったり、新規事業のプランだったりの話は聞いてるよ」

 「新規顧客に関してはお前も向こうの責任者と必ず面通しはしておけよ。あくまでもビジネスは会社対会社なんだからな。それと試作するのにもコストが掛かるんだから、事前にどれ位製作費用が掛かるのか、それが何時までに回収出来るのか、その辺りももっと詰めないと駄目だ。必要だからと言って良いわ良いわでやってたら何処に利益がすっ飛んでいくか判ったもんじゃ無いからな。その辺りはもっとお前はシビアにやれよ」


 次々と出るダメ出しの量が、いかに彼が会社不在中の間、様々な事柄で術後痛に苦しみながらも心配していたかという証左でもある事が痛いほど良く判る。

 

 「特に試作コストとかその辺りについては、試作代で一括回収が出来るケースと量産品に織り込んでいくケースで対応や見積もり方が変わって行くんだろうけど、仕入れるコストの問題が大半である以上、私と部長と工場との3者間コミュニケーションを上手く取って落としどころを見つけて問題解決していくしかないけどね」

 「行き当たりばったりな仕事なんかが儲かる訳が無い。俺の親父が生前常に言っていた言葉に『一に勘弁、二に勘弁』というのがあったのは何回も言った事があるから知っているはずだ。それは一にも二にも段取りが重要だ、という事だ」


 事実その言葉は彼から何回も聞いたから忘れようも無い。父のそして会長の幾つかある座右の銘の一つである言葉なのだから。

 勘弁と言う言葉自体昔にはやりくり、算段と言う意味があった様だから、当時は当たり前の様に使っていたんだろうな。

 でも今だとその言葉の変遷も含めて話をしないと理解され難い、誤解を招きやすい言い方になってしまうかも知れない。

 今額面通りの使い方だと「一にも二にも許す事です」的な解釈になってしまう。

 神様商売している宗教家じゃねーし。


 「言わんとする事は判るよ。信玄だって『常に事が起こる前に全てを準備することで合戦の前に勝利を確定させる事が出来る』的な事言ってたし、信長だって『合戦はそこに至るまでに積み上げて来た事象の帰結』的な事言ってたし」

 「ああ、矢張り昔の戦国大名も同じような事を言ってたのか。そらそうだろうなぁ」


 と会長は満足そうにうなずく。

 私は心の中でボソリと「漫画の中での信玄や信長のセリフなんですけどね」と注釈を入れた。

 これは会長の性格上、人から聞きかじった事をさも昔から自分は知っていました、とばかりに偉そうなマウント取りを他者に対して行わない事を知っているから言えるネタなんだけどね。


 「所で、痛さ加減とかどうなの?母からの報告でも徐々に改善している様なのは判るけど、事前に色々と調べて聞いてたり読んでたりしていた他の前立腺ガンのケースと比較しても、どうも術後痛については会長は平均以上な状態に感じられるんだが」

 「ああ、ホントに今回の手術が終わって麻酔明けてからの痛みは死ぐかと思ったなぁ」


 思わず出身地である山梨の方言が出て来る位なのだから、掛け値無しに痛かったし苦しかったのだろう。結果論ではあるが、あの時副作用の事もあったのだが、もっと強力な痛み止めを使用する事をリアルに検討してた方が良かったのだろうか?今となっては、その事については何とも言えない。


 「あの時は、麻酔が切れかけた時には既に痛がり始めてたからねぇ」

 「ああ、もう全身のあちこちが痛くて、痛さの余り脂汗が止まらなかったし、手で擦って貰ったりしている間だけはその個所と周辺は痛みが紛れたんだが、そうこうする間に他の箇所も痛くなってくるし・・・何処が次に痛くなるかも判らない状態がずっと続くし、足にやるあの機械のお陰で夜に寝返りもうてないし、そもそも全く寝れなかったし。一事が万事痛くて苦しい事だらけで、ああ、このまま俺は死ぐのか、と思ったなぁ・・・」

 

 多分あの時、医師も看護師も私も母も、そんな事は微塵も思わなかったはずだ。


 仮に本当に生死に直結する様な緊迫した状況、症状であれば、真っ先に医師や看護師がそれに対応する可能性が高い。

 で無いのならば、やはり「術後痛でこれ位の反応は想定内」と彼等が判断したのは結果として妥当だったのだろうし、私達もその判断を納得して受け入れたのも、少なくとも選択肢として大間違いでは無かった可能性が高い。


 ただ、それでも肝心の本人が死ぬほど痛い思いをした、継続する痛さ、苦しさの為に死を自覚した、と言う事もまた事実なのだ。


 医療関係者からの客観的な分析に基づく判断が「正しい」とした場合(無論大抵の場合「正しい」)、それをどの様にして伝え、実行していくべきなのか、に関しては患者1人1人によって「その正しさの伝え方」「その正しさの実行方法/手段」はある程度細分化された方が良いのかもしれない。(無論コスト面、人的リソース面での問題があるから全ての患者が納得するレベルでの提供は難しいのかも知れないけれど)


 『君のその痛みは私達の想定内だし、決して貴方が考えている様な死に直結する様な事も無い。薬の副作用の事もあるから、痛み止めの投与は基準通りに。後は我慢してね』


 だと、幾らそれが「正しい判断」であったとしても、患者サイドからすれば「じゃあ、この痛みや苦しみで私自身が死を自覚する事は『間違い』なのか?」という思いも出て来る可能性が否定出来ない。


 今後、彼の術後痛がどれ位の日数で、どれ位のレベルで落ち着いてくれるのか現時点では判断出来ないが、少なくとも自宅でのケアと病院での治療は細かく情報共有する必要があるだろうし、治療の方向性等で双方の相違が埋まらない場合はセカンドオピニオンも含めて検討する必要があるだろうなと感じた。


>漫画の中での信玄や信長のセリフなんですけどね


>信玄の元ネタ

【VOL.77】武田法性院信玄

https://pocket.shonenmagazine.com/episode/3269754496886111055


 私的最凶信玄は彼ですね。こんなひたすらに小便チビルレベルのオッカねぇ信玄像ってよく作者ひねり出したものです。彼の才能に頭が下がる思いです。当然実写版があるとすれば信玄役はマーロンブランド位しか演じられる役者は思い浮かびません。当然です。吹き替えの声も麦人氏一択です。


>信長の元ネタ


ドリフターズ 2 (ヤングキングコミックス)

https://www.amazon.co.jp/dp/4785937149


 ハイ、私的最カッチョイイ信長は彼です。確定です。リアリティ?喰った事ねぇから知らん。面白くってカッチョイイならそれは無問題です。

作者自身TRPGやボードシミュレーションの造詣や愛情がダダ洩れる程豊富な方だから、こういう作風が出来るんでしょうね。彼もまた天に愛された才能の持ち主の一人ですね。素晴らしいです。


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