サリカーの見解
ちゃららら ちゃららら ちゃららら ちゃららら
夜の闇を 切り裂き走る
白い布を なびかせて
戦いの中で勝利を掴もう
自由な心で、決して
報奨金の話でルイルとダストン揉めているとき、アダルがサリカーに声をかけた。
「サリカーさん、ギルドマスターの机に新しい刀傷はありませんでしたか?。」
サリカーは驚いたような様子でアダルの方を見る。
「気づかなかったが・・・・もう一度調べてみよう。」
「それと・・・。」
アダルは何か下の方に視線をずらす。そして再びサリカーの方を見ると、
「ギルドマスタが食べていた料理、メニューは何でした?。」
「確か、隣の食堂の名物である巨大腸詰だったな。あそのこ食堂のソースは絶品でな。」
「それ、ソースは何味でした?。」
「ソース?・・・そういえばソースが入った皿がなかったな。」
サリカーはすぐに近くにいた部下に声をかけると、ギルドマスターの部屋を指差して何かを伝えた。
その後、自分も会議室を出ていった。そしてすぐに会議室にすぐに戻ってきた。
「アダル君、君の言う通り机に深い刀傷があったよ。ちょうどギルマスが座っていた椅子の前に。」
続いて、部下からの報告が上がった。
「ソースは見つかったそうだ。血が混じっていたがほとんど残っていなかったそうだ。私もあの料理は好きだが、油分が多くてソースなしでは食べれたものじゃないからな。」
ダストンは訝しげな表情を浮かべる。
「いつも夕方頃までかけて食事をとっていたので、食器の返却は、買い取り報告書の提出のついでに行っていたが、ギルドマスターは、決まって半分以上ソースは残していたが。
「報告では、腸詰は1口ぐらい食していたが、ソースはほとんど残っていなかったそうだが。」
ルイルが割ってはいる。
「そんなに美味いなら、2本か3本ぐらい食べたのじゃないのか?。で、残り一本でソースが無くなったと。」
ファリシアは、
「マスターはいつも一本だけ、時間をかけて食べています。朝ご飯とお昼ご飯を兼用でとっていますから。」
サリカーは意見を聞いていたが、低いトーンで喋る。
「机についた傷と、食べ残した食事。誰とも合っていないか。」
その後、顔を上げ徐に、
「となると、ギルドマスターは自殺ということか。」
部屋にいるサリカーを除く全員の声がはもった。
「えっ。」
声をあげた中には、サリカーの部下もいる。銘々が口々に文句を垂れる。
「ナイフの握りに手が届かない状態で、自分自身に刺せるわけないだろう!。」
「ギルドマスターは、他人を犠牲にしても生き残るような奴だ。自害などするものか。」
「状況証拠はどう見ても他殺なのだ。」
「こんな茶番で今頃まで?。」
「上の部屋から何も聞こえませんでしたよ。」
そんな様子を両手で宥めるようにするサリカー。
「まぁ、話を聞きたまえ。」
サリカーはゆっくり話し始めた。
「まぁ、私の見解だ。意見は後で聞こう。
まず、ギルマスだが、おそらく自分で自分の胸をあのナイフで刺したのだろう。
両手でナイフを握り締め、自分にむけて振り上げて。」
ナイフを持ってサリカーは振って見せるが、どうやっても切っ先が顔面にしかこない。
ナイフは鳩尾付近に刺さっていたし、まっすぐ突き刺すにはナイフは長すぎる。
ルイルは冷めた目でサリカーの方を見る。
「切っ先が顔面にきてるけど。そんな面倒な刃物じゃなくて、自殺するなら、もっと短いナイフで首筋とか切った方が確実だと思うけど。」
サリカーは持ち方を変えた。片手で持ち、曲がった方を机の上にゆっくり振り下ろすようにする。
振り下ろしたナイフは机に当たると角度が変わり切っ先が自分の方に迫ってくる。
「おお、これだ。つまりギルドマスターは大きく振り下ろした時に机に当たり、誤って自分に刺さってしまったのだろう。事故で亡くなったのが理由だ。机についた傷の説明もつく。」
振り下ろした刃物は角度が変わるものの、それでも自分の喉元あたりに切っ先が位置する。
ルイルは額に人差し指を当てて、首を左右に振る。
「切っ先が喉元だけど。第一それなら机を激しく叩く音がするはずだが。そんな音聞いた?。」
ルイルがダストンとファリシアの方を見る。二人は揃って首を左右に振った。
ティスはルイルにそっと耳打ちをする。
「サリカーさん、一挙動するたびに、こちらをチラ見してくるけど、ちょっとうざくない?。」
ルイルは頷いき、ひそひそ話を続ける。
「噂で聞いた優秀な自警団の団長って、もう一人の方なんじゃないかと・・。」
サリカーは今度は切っ先を自分の胸元に当て、ナイフを両手で抱える。ナイフのグリップを股に挟みこんだ。その状態で、ファリシアの方を見る。
「これならどうだ。この状態で背中を押されると充分切っ先が刺さるとは思わないかね。」
ファリシアは黙ってサリカーの方を見つめる。重い口調で、
「そ、そうですね。」
そういうファリシアの顔を見つめるサリカー。
ルイルはその背後に回ると、サリカーの背中を両手で押す。
手にしたナイフが鳩尾に刺さりそうになり、慌てるサリカー。
「な、何をする。危ないではないか。」
「そんなナマクラナイフだと傷どころか服さえ切れねーよ。現に今切れてないだろ。」
確かに、サリカーの服には傷ひとつついていない。サリカーはダストンの方を見た。
「今のは手で持っていただけだ。例えば前に机とかがあったらどうなる?。」
ダストンは、眉をひそめ、手で顎を触る。
「たしかにそれだと傷ぐらいはつくと思うが、ギルマスがそんな状況で大人しく押されるのを待つとは思えないが。」
ティスが口をはさむ。
「でも気絶したり眠っていたりすれば、出来るかも。あ、そうだルイルって眠りの粉を持ってたわよね。」
ルイルは慌てて言う。
「持ってねーよ。香辛料を粉にした目潰し用の粉だ。頼むから、紛らわしい言い方やめてくれる?」
サリカーはルイルの方に向き言う。
「では君の意見は?。」
ルイルは少し黙り込んだ。
「いや、オイラもまだどうなったのかまったく判らなくて。ギルドマスタは椅子に座ったままで、激しく暴れた形跡が無かったから多分顔見知りじゃないかぐらいで。」
ティスがルイルに聞く。
「でも、食事に薬か何か入っていて眠らされていたら、顔見知りでなくても犯行は出きるわよね。」
ルイルは小声で返事をする。
「だーかーらー、ティスはオイラを犯人にしたいの?。そういうことにしておけば、俺たちは犯人候補から外れるだろ。」
「私は客観的な意見を言っただけよ。」
「何か客観的だよ。完全にオイラたちは当事者なんだぞ。」
ダストンの訝しげな表情は変わらない。
「ワシの知るギルマスでは、自殺も事故もありえんと思う。対人関係で感情的になり、刃物を振り回すような奴ではない。もっと狡猾にずる賢く立ち回るような奴だった。」
サリカーは再び考え込む。そして、
「ではダストン。君はどう考える。」
「ワシはそこまで頭が良くないので判らん。だが、少なくてもギルマスはそういう奴ではないというのだけしか言えん。」
サリカーは、ナイフを手にしたまままわりを見渡した。
「他になにか意見がある者はいないか。」
皆黙り込む。サリカーがアダルに向けて聞いた。
「アダル君、君はどうかね。」
急に聞かれ、すこし慌てたが、頻りに左手を気にしている。
「ナイフが突き刺さり心臓まで達するぐらいですから、かなり強い力で押されたと思うので、体当たりとかじゃないですかね。」
サリカーは考える。
「たしかギルドマスターの背後はすぐに書類棚だったな。体当たりするにも、人が入るほどの隙間が無かったが。」
アダルはルイルの方を見る。
「そうなのか?。」
ルイルは頷く。
「ほとんど書類棚のギリギリに椅子があった。まぁ、書類棚は壁に作りつけられているから割り込んで入っても倒れてくることは無いけど、立ち回りするほどのスペースは無かったな。」
ルイルは会議室の壁を指差す。
「入り口が部屋の中央よりにあるので、机とローテーブルを置くとどうしてもスペースがないからな。
でも、普通は窓を背にして入り口向いて机を置かない?。部屋もそうなるように縦長に作られているのになんでわざわざ狭い方に並べてるんだろう。」
ダストンがその疑問に答える。
「ギルドマスターはジェリーフィッシュに狙われていると言い出したころ、部屋の模様替えをしたのを覚えている。何でも窓を背にすると外から魔法や弓で狙われるからだと言っておったが。」
ルイルは小首を傾げる。
「人通りの多い表通りから矢魔法をギルドにぶっ放す大体な暗殺者ってまったく忍んでないよな。」
ティスが口を挟む。
「背後から近づいて、奇声をあげながら突っ込んで行く暗殺者は目の前でみたことはあるけど。」
「それは、事情があったんだよ。」
「気づかれて逃げられたのに?。」
「なんで、兄弟揃って過去をほじくり返すかなぁ。」
サリカーは、
「そういう話は、置いておき。今までの状況を纏めてると、
血は部屋に飛び散っていたが、足跡などは無かった。
消えたソース。
鳩尾を肋骨を折ってまで刺さるほどの威力で振り抜かれたナイフ。
魔法が使われた痕跡は無い。
騒いだ形跡も暴れた様子もない。
こんな所だろうか。」
ルイルが付け足す。
「隣や下階に人がいるのに、気づかれていない。しかも道具を残したまま逃走。うーん、プロの仕業か?」
ダストンは、
「プロだと商売道具は残さないだろう。そもそもその大ぶりのナイフは以前冒険者から借金の形に買い取ったものだ。そういう品がギルマスの部屋にはいくつか置いてある。」
サリカーが言う。
「つまり、残したのではなく、持ち帰れなかったと考えるのが自然だろうな。」
そして部屋の中の人物一人一人をゆっくりと見回した。
「つまりそれは・・・。」
ルイルが鋭い眼光で言い放つ。
「借金の形に取られたナイフを取り返しにきたと。」
サリカーはカクンと拍子が抜けた様子を見せる。ティスもつい、突っ込んでしまう。
「必要だから取り返しに来たのじゃない。どうしてそれを置いてゆくのよ。」
「おろ?。あ、そうか。」
「でしょ、よく考えなさいよ。それだとただの逆恨みじゃないの。」
ファリシアがイラついた様子で言い出した。
「もう帰っていいかしら。延々と下らない演劇を見せられつづけるのって時間の無駄じゃない。」
ルイルは窓の外を見ると、既に日が落ち、黄昏時になっている。
ファリシアはそうとう不機嫌な様子で、焦っているようにも見える。
サリカーは、魔法で小さな明かりを指先に灯す。部屋の中が薄明るく照らし出された。
「余計な事で遅くなってしまったな。今日はこの辺で切り上げよう。」
そういうと、会議室に置いてあるランプに近づき、指先の光をランプの芯に近づけ、明かりを移した。
「明日は、もう一度ここに集まってもらうことになるだろう。監視をつけるので、逃げたりしない様に。
逃げた場合は、犯人だと断定させてもらうのでそのつもりで。」
そういうと、会議室の扉の近くに立ち、出て行くよう扉を指差した。
皆は自警団の団員に引率されて、ゾロゾロと会議室から出て行った。
階段を降りてエントランスに集まる。足の悪いダストンの姿は無い。
エントランスには誰もおらず、入り口には自警団の団員が勝手にはいらないように見張っている。
降りた途端、4人は追い出されるように全員ギルドの外に誘導された。
外では疎らな人達が中の様子を伺おうとしているぐらいだが、追い出されたあと、ギルドの入り口が閉じられた。
ルイルが見回す。
「あれ、エストとファリシアは?。」
見上げると、ギルドマスターの部屋の左右は明かりが灯っている。
ティスは左の窓を見上げ、天井に映る影を見る。
「そういえばファリシアさん今日はデートって言ってたけど。」
ちゃっちゃ ちゃ ちゃー ちゃっちゃっちらちっちゃー
ちゃっちゃっちゃー ちゃっちゃっちゃっちゃー
冒険の中で絆は繋がる
心の中の想いを歌おう
希望の光が射す
自分らしく生きる、笑顔で明日へ