魔導士の見解2
ちゃららら ちゃららら ちゃららら ちゃららら
夜の闇を 切り裂き走る
白い布を なびかせて
戦いの中で勝利を掴もう
自由な心で、決して
会議室から鑑定士とサリカーが出て行った。
出て行くとすぐにルイルはアダルとティスを手招きする。なぜかエストも近くにくる。
「今の鑑定、どう思う?。オイラの感じではどう考えても戦士系で出きるような芸当じゃないんだけど。」
ティスも何か思い当たる節があるようで、
「魔導で何もでないというのも変よね。ふつう鑑定だとその人が近くに居るだけでも何かしらの反応は出るはずだけど。」
エストも何か引っかかる様で、
「た、たしかに。僕も鑑定使っている時は、その人のまわりに縁取るように色が見えますし。そ、その人の持ち物にもうっすらと色が見えますから。」
ルイルはこっそり、エスト方に近づき、小声で聞く。
「オイラってそんなに臭い?。」
急に聞かれて、エストは苦笑いを浮かべる。
「せ、先生は魔力を香りで感じるので、そうなるんです。ぼ、僕は色で観るので、ニオイは感じませんよ。」
「色か。じゃ、オイラは何色に?。」
「ま、魔法か使えない人は、すべての色が混じり合うため、僕の鑑定では黒く見えます。ま、魔力の強さがそのまま色の濃さに現れます。」
エストはルイルの方に手を翳し、自分の額に人差し指を当てて、眉間に皺を寄せる。
「せ、先生ほども精度はないですけど、ちょっと観てみますね。」
そういうと、詠唱を始めた。鑑定士よりも時間がかかる詠唱の後、エストはゆっくりと目を開ける。
エストは複雑そうな顔を見せる。
「な、何か白い靄のようなものが全体に見えます。あ、でも部屋全体が霧に被われている感じですね。」
こ、こんなことは普通無いのですが。」
ルイルはエストを覗き込むように見る。
「どうだった?」
何か言いにくそうに言葉尻が濁る。
「だ、大丈夫です。ルイルさんの色はすごく目立ちます。げ、下水路の端に産みつけられている貝の卵のような、どぎついピンク色に見えます。」
色を聞いて、ティスは思わず吹き出す。一人納得のいかない様子のルイル。
ティスは笑いをかみ殺して行った。
「ルイル、泣いてもいいわよ。」
ルイルはティスに抱きつこうとする。
「せめて、その胸の内で。」
ティスはすこし屈んだと同時に肘をルイルに向けて振り出す。その肘はルイルの顔面を捉えた。
「そういう趣味は無いわよ。」
エストは視界に入った人の色が見える様で、
「て、ティスさんは黄色なのですね。二人とも色がすごく濃いです。あ、アダルさんは紺色でみんな色が濃いです。次に濃いのが緑色で・・。」
茶番の最中に、サリカーが大ぶりのナイフを一つ手にして入ってきた。
会議室の端にある机の上に置く。置いた瞬間、鎧がカラコロと鳴る。
「これがギルマス殺害に使われたナイフだ。この刃物に見覚えはあるか?」
言う前に、アダルはすぐに前に進み出てその武器を手に取った。
今までの気だるそうな目の色が変わり、隅々まで舐めるように眺めた後、軽く振ってみせる。
2、3回振って、再度みる。
再び刃先を見ているが、一ヶ所で目が止まる。刃先を凝視していたが、その後には元の眠そうな目に戻ると、持っていた刃物を机の上に放り投げた。
机の上で2回ほど跳ねたところをルイルが拾い上げる。
アダルほどではないが、刃先などを眺めた後、同じように振って見せる。
「なんだ、このナイフ。バランスが悪いなぁ」
アダルは興味が無くなったような目をしている。
「どこかの模造品だ。おおよそ、形だけ真似て売りさばいたものだろう。それだけ刃が暴れていたら使い物にはならんな。」
ルイルは言われて、刃先を上にして外の光に翳してみる。
「あ、本当だ。刃先が左に曲がってるや。」
アダルはそのまま吐きすてる。
「しかも、鋳造で作っている。ただの土産物品だな。こんなのは刃物じゃない。」
二人の会話を聞いていたサリカーは、
「ずいぶん、刀に詳しそうだな。」
アダルはサリカーの方を向いて口調を変えて言った。
「この形のナイフは俺たちの地方で使われているナイフです。本物は鉈としても使うから、先はこんなにも曲げないし、これだと鉈じゃなくて鎌ですね。」
アダルは腰の剣の下にある、もう一本の刀の塚に手をかける。
ルイルは慌てて止めようとしたが、間に合わなかった。アダルはすらりとナイフを抜いた。
そのナイフは先が同じように曲がってはいるが、別物に見えるほどに輝いている。ギルマスを殺したナイフより大きく、また曲がった先が長い。
ナイフを見た途端、サリカーの目の色が変わった。
ルイルは思わず目をおおい、口を開けて天を仰ぐ。
「このナイフは藪を切り開きながら進むために考えられた形状です。間合いが狭いが攻撃可能範囲が広いのが特徴です。」
アダルは肩越しに自分の背中に刃先を向けてみる。
「本物なら楽に背中の中央まで刃先が届くはず。これでサカリがついたガキが木の虚に股間のモノを突っ込んで抜けなくなった時でも背後から来た魔物と対峙できるほど、攻撃できるぐらい広・・・」
ルイルかアダルの胸ぐらう掴み上げる。アダルの方が背が高いために、威圧になっていない。
「なっ、てめぇ、さらっと人の過去ばらすんじゃねぇ。」
「なんだ、武勇伝じゃないのか?」
「武勇伝はかっこいいもんだろ、前半の説明はいらねーんだよ。」
まわりを見ると、話を聞いていた皆が、かなり引いている。
「とにかく、とにかくだ。この武器は模造刀で殺傷能力はかなり低いというわけだ。」
サリカーは考え込む。
「なるほど、模造刀か。」
すこし間を置いてから、サリカーは自分の剣を抜いて見せる。細身の剣で鏡のように光っている。
一回振ると、刃の方を持ち、アダルの方に柄を向ける。
「この剣、お前はどう見る。」
アダルはサリカーから剣を受けとると、先ほどと同じように舐めるように見る。
再び、軽く振ってみる。その後、腕に刃先を乗せて、窓の光に翳してみる。裏表を確認すると、刃先を親指の爪に軽く当ててみる。
一通りの作業が終わるとクルリと回転させ、鍔のところを持ち、柄をサリカーに向けて差し出す。
「いい材質の剣ですね。名は掘ってないようですがミノト市で精錬された青鉄を材料に、東方の技術で作られていると思います。」
サリカーはアダルから剣を受け取る。
アダルは言葉を続ける。
「だが、研ぎ師は変えたほうがいいでしょう。磨きは良いが、裏表で研ぎ方の癖が違います。」
サリカーは剣を鞘にしまい、軽く微笑む。
「そうか、アドハイスをありがとう。なかなか詳しいようだけど、アダル君は鍛冶屋かなにかかね?」
「俺の父は研師をしていいます。」
ルイルはまた割ってはいる。
「あ、オイラの親父はその村で村長やってたよ。」
ルイルの話を無視して、サリカーは机の上のナイフを指差し、アダルに聞く。
「このナイフで殺傷するのはどう見る。」
「相手が動かなければ一撃で仕留めるなら、腹や首を狙って横に薙ぎます。それでも力は要りますね。抵抗されるとさらに厄介ですね。俺なら迷わず別の道具を使います。」
ルイルも言葉を付け足す。
「オイラも同感だ。胸とかは骨があるからまず狙わない。人間の骨って結構固いから。」
アダルは軽く模擬戦のような動作をしてみせる。
「ん、縦だと狙っても肩口かな。下から腹を狙うのも手かもしれない。」
ルイルはアダルにどこをどのように刺されていたか、説明をしている。
サリカーはエストにも聞く。
「エスト君、このナイフは使ったことがあるかね。」
エストはナイフを見たが、触ろうとはしなかった。
「ぼ、僕は無理ですよ。護身用の小型ナイフを持ってるだけですから。」
サリカーは次にティスの方を見る。ティスは武器を持ってみるが、結構重いそのナイフは持ち上げたがすぐに下ろした。
「私は振り回すので精一杯です。」
ファリシアが会議室に戻ってきたのは、会議室の窓が赤く染まる頃だった。
入るなり、ファリシアはおずおずとサリカーに進みよる。
「あ、あの・・・・冒険者の一人が帰ってきてないのですが。サリカーさん、自警団の方で捜索隊は編成出来ますか?」
「そういうのは、冒険者ギルドの仕事だろう。」
遅れて入ってくるダストン。入り口の戸を閉めると、サリカーの方に歩み寄る。
「ギルマスが不在だから、捜索隊の編成許可も依頼を出す者もおらんのでな。規定では明日の夕方まで帰らなければ、明後日の朝に捜索隊が出発するのが常なのだが。」
サリカーはすこし考えて、
「わかった、事が事だ。明日に私の自警団の方で捜索隊を編成するよう、手配しよう。その未帰還者はどこに行った者だ。」
ファリシアはファイルから1枚の紙を取り出す。
「エッサカの方に行ったと思いますが。」
ルイルが話に割ってはいる。
「エッサカって、確かこの街の東側にある丘の方か?。」
ダストンは、ルイルの方を向いて言う。
「傷に効く薬草などがよく取れる丘だが、知ってるのか?。」
「俺たちは今日はその丘の向こうにある、少し深い谷にまで狩りに行ってたんだが。」
「あの禁忌の谷へか?」
「え、禁忌って事は、入っちゃダメだったのか?」
ダストンは少し複雑な表情を浮かべる。
「いや、禁止はしていないが、あそこの谷は中級以下には勧めてはいないんだ。最近強い魔物が増えてきていたので、あの辺へのクエストはギルマスが全て断っていたはずだが。」
ルイルは窓の外の方を指差しながら、
「あの丘辺りでうろうろしていたのだけど、魔物どころか、人の気配も無くて、すこし足を伸ばしたのだけど。」
「そうか、それでこの辺には居ないブンブンを。」
「大型の魔物もいたけど、持って帰るにはすこし面倒そうだったから、手頃なやつってことで。」
「ほかには、どんな魔物がいた?。最近あの方面にいく奴が居なくて、情報が不足しているんだ。」
ゴホンとサリカーの咳払いが聞こえた。
「今は、ギルマスが暗殺された件で集まってもらっている。そういう話はこの件が終わってからにしてもらいたい。」
今度はエストが小さく手を上げる。
「あ、あのサリカーさん。う、受付が終わったら今日の分の経理をしないとダメなんですけど、ちょっと抜けていいですか?。ぼ、僕は隣の部屋に居ますし、も、もし心配なら入り口を見張っててもらえれば。」
ダストンが言葉を足す。
「このギルドでは少ない人数で回しているので、普通でも1日遅れで支払いを済ませているんだ。ただでさえ遅れ気味なので、エストにも少し時間をくれないか。」
サリカーは少し考えたが、
「そうか。ならば仕方がないな。また終わったらここに戻ってきてくれ。」
今度はエストが監視つきで隣の部屋に行った。
一通り、事情を聞く事が出来た様で、サリカーは皆の前に
「今日は情報提供してもらって助かった。未帰還者の件もあるので、明日また続きを聞かせてもらいたい。」
ルイルは東の方を指差す。
「捜索なら、俺たちがでるぞ。ここでその話を聞いたのも何かの縁だし、あの丘の周辺は今日は通っている。それに本来は冒険者がやるべき仕事だしな。」
ダストンは複雑な表情を浮かべた。
「出てくれるのはありがたいが・・・そのだな・・。」
ティスはため息混じりに言う。
「また、そうやって首を突っ込む。それに私たちは容疑者なのよ。そんな捜索なんて『はいどうぞお逃げください。』って言ってるようなものよ。行かしてくれる訳ないじゃない。」
ダストンの表情は変わらない。
「それに、今のギルマスになってから、捜索時の報酬金があまり出せないルールなんだ。普通のギルドでは捜索はけっこういい仕事になるけれども。」
ルイルの表情が曇る。
「え、どれぐらい?。」
「1日二人で、ギルド紙幣1枚だ。」
「なんだそれ、普通の半値以下じゃないか。ついでに何かの依頼とセットで受けないとやってらんねーな。」
そんな話をしている最中、アダルが会議室の床に落ちてある先ほどまで無かったメモ用紙の切れ端を見つけた。
拾い上げて内容に目を通す。その後、部屋のあちこちをキョロキョロと見舞わしはじめた。
首を動かす度に、鎧が軽い音を奏でる。
ダストンとルイルの値段交渉にはティスも加わり、駆け引きをはじめている。
そんな様子を快くない表情で見守るサリカー。
結局、ジェリーフィッシュの有力な情報は、ここに集まったメンバーはだれも持っていなかった。
ちゃっちゃ ちゃ ちゃー ちゃっちゃっちらちっちゃー
ちゃっちゃっちゃー ちゃっちゃっちゃっちゃー
冒険の中で絆は繋がる
心の中の想いを歌おう
希望の光が射す
自分らしく生きる、笑顔で明日へ