剣士の見解
サリカーは全員の簡単なアリバイを聞いた後、質問を続けた。
「いくつか聞きたいことがあるが、ギルマスは食事の途中のようだったが、あの食事は彼が自分で用意しているのか?」
ファリシアは軽く手を上げた。
「食事は近くの食堂て作ってもらっています。私が昼の出勤前に、あらかじめ食堂て作ってもらった食事を持ってゆくのが日課です。今日も同じように食事を運ばせてもらいました。」
「その時、何か変わった事は?。」
ファリシナは右上に目をやり、思い出しながら言う。
「食事を置くと、ギルマスはいつも通り、報告書に目を通しながら作業を続けていました。とくにいつもと変わりなく。食事を届けたら、そのまま下に降りて受付に入るだけです。」
サリカーは説明を聞くと次はエストの方に目をやった。エストは視線を感じると軽く頷いた。
「ぼ、僕は朝からの出勤です。きょ、今日はもう一人は非番なので鑑定室には誰もいないと思います。い、いつもギルドマスターの執務室の扉は開いているので、しゅ、出勤したときに、ギルドマスターに挨拶をしてから、鑑定室にいきました。」
サリカーの目が変わった。何か気づいた様子。
「鑑定室に何か変わったことは?」
エストは、少し考え込んでいたが首を傾げながら言う。
「べ、べつに変わったことは気づきませんでした。いつも声だけで挨拶するだけですので。
あ、相棒は非番なので、昨日僕が作業したままの状態のままでした。な、なのでそのまま昨日の続きを始めただけです。さ、さっきまでずっと部屋にいました。」
その返事を聞いて、サリカーは少し落胆した様子を見せた。
「そうか。賊か何かが隠れていると思ったのだが。」
エストは部屋の入口を指差した。
「ぼ、僕の作業部屋は証券を扱うので、へ、部屋の鍵は常に掛けてますし、部屋に入った後も中から鍵をかけます。か、鍵はかかってましたし、ふ、ファリシアさんの声を聞いたときも鍵を開けて出るのに手間取って。」
サリカーは再び考え込んでしまった。
「エスト君が犯人である可能性は・・・。」
ダストンは軽く頭を振り、ため息をついて答えた。
「それはまずないですな。ギルド証券の鑑定士はギルドのお金のようなもの。十分に吟味した人物を厳重な契約の元で行います。不手際を起こせば当人だけの問題だけでは済みませんからな。」
エストはすごく頷いている。そんな様子をチラリと横目で確認するダストン。
「エストとギルマスとの契約なので、ワシは詳しくは知らんが、不手際を起こせばここのギルドどころか他のギルドからも制約・・・・というか命を狙われる可能性もあるほどの仕事だ。信用か無くなれば交換レートが下がる。全世界の冒険者からも恨みを買うだろうな。」
腕を組み、空を見上げて考えていたサリカー。
「そのリスクを上回るほどの動機があるとすれば。」
「ワシなら、殺害したいのであれば、すぐに人がいる今ではなくとも。エストはギルマスの家を知っている。帰り道や寝込みなどを襲えば、すぐに見つかるようなリスクを追わずに襲えるでしょうな。そのまま夜闇に紛れて逃げれば、明け方頃には隣町にまでは逃げ切れる。」
今まで黙っていたルイルが口をはさむ。
「動機なんて、あまり関係ないだろ。すこし街から離れると魔物みたく、目かあっただけで襲ってくる奴もいる。」
サリカーは考えていたが、ルイルの方を組んだ腕のまま指差した。
「そういう君、ルイル君達だったかな。君はどうなんだい?。」
ルイルは軽く型をすくめてみせる。
「オイラか?オイラはギルドマスターとは面識どころか、会ったこともないんだ。動機なんてある訳ないだろう。」
横で聞いていたティスが割り込む。
「ついさっき、動機が無くても人殺しするっいってたじゃない。」
「いや、会ったこと無い奴を殺す動機なんてある?」
「あら、目があっただけで襲ってくる奴かいるって言ったばかりてしょ。」
「ちょ、ティス。どっちの味方?オイラか疑われるとパーティ全員拘束されるぞ。わかってる?」
「あなたがトラブルに巻き込んだんでしょ。前の街でも酔っ払いの喧嘩に首を出して、パーティ同士で決闘になったり、その前はその前で怪しい奴がいるって勝手に尾行して魔薬取引の疑いかけられるし。」
「いいじゃねーかよ。そのおかげで上級クエストをゲット出来たんだし。」
「だれがそうなるように掛け合ったと思ってるの?ギルドで何枚報告書を作ったとと思ってるの?。第一今もこうやって巻き込まれたのも、すぐに二階に駆け上がるから・・・。」
サリカーは言い合いを続ける二人を制止する。
「まぁ、ルイル君、君にも聞きたいことがある。そういえば、どうしてあの時に部屋にいたのか。そして普通なら逃げるだろう。今までそういう奴は随分見てきたが。」
ルイルはサリカーに向けて指を2本立ててみせる。
「そうだな。理由は二つかな。一つは逃げた所でギルドには身元かバレている。どうせ懸賞金かけて多勢て追い回されるだけだし。それに言い訳するにも状況が解らないと反論も出来ない。もう血か固まりかけていたから、オイラ達が帰ってくる前じゃないと辻褄が合わない。これだけでも十分な言い訳になるだろ。」
サリカーは感心した様子を見せる。
「なかなかおもしろい理論だな。」
ルイルは立てていた指を一本折って、不敵な笑みを浮かべた。
「もう一つ、この街には頭がちょっと切れるてる自警団があるって話を聞いた。」
ティスは背後からルイルの肩に手をやり、首を左右に振る。
「それ、褒め言葉じゃないわよ。」
「おろ?」
サリカーは鼻下に手をやり、少し考えていたが、ルイルの方を2本指を揃えて指差した。
「ではルイル君、この事件の君の見解を聞かせてもらおうか。」
ルイルは待ってましたとばかりに、大きく息を吸い込むと、語り始めた。
「オイラは今回の犯人は魔導士だと見ている。俺たち剣士ではギルドマスターは殺せない。」
「ふむ。それはどうしてかね。」
ルイルは実物がないので、空に指で形を描いて見せる。
「ギルマスか殺されたダガーは変な形をしていたのが気になって。普通のダガーではなく途中でくの字に曲がってる。釜よりは角度が緩いが。この手のダガーは近接戦用で間合いが狭い。藪の中など回りに障害物か多い場所で使うダガーだ。オイラたちか使ってるサーベルより間合が狭い。この手のダガーはククリナイフというが、曲がりか大きいけど、鎌よりは緩い。」
ルイルはアダルを呼び寄せると。カラコロと音を立てて前に立たせる。そして斬りかかるような仕草を見せる。
「このナイフで切り込むには距離が非常に近い。ギルドマスタの前で切りつけようとすれば机が邪魔で切り込めないんだ。机に血しぶきが飛んでいるので、机とギルマスの間に入って切り込むことは考えにくいし。」
説明する通り、ルイルとアダルの間合いは狭く、椅子一つぶんぐらいしかない。
ルイルはアダルを軽くお辞儀をさせるような体制をとらせる。
「こうやって前かがみで切り込めば、このダガーでも切り込むことができるが、その場合は肩口あたりになる。ギルドマスタ傷は鳩尾付近。このあたりには攻撃できない。」
サリカーは物を投げるような仕草をした。
「何も直接攻撃しなくとも、あのダガーは投げることも想定しているだろう。」
それを聞いて、ルイルは腰につけてある鎧の裏から一本のナイフを取り出した。手のひらに入るくらいの小さなナイフで刃先が極端に短い。取っ手にはぼろ切れか巻きつけられており、その先端はほつれてしまっている。
それの柄を持つと、誰もいない壁に向けて投げつけた。
スタッと小気味よい音を立てて壁に突き刺さった。
「通常、ナイフは柄を持ってまっすぐに飛ぶように投げるんだ。少しでも刃が斜めになると刺さらないからな。」
ルイルは続けてもう一本、同じナイフを取り出した。
「ギルマスが殺されたククリナイフはちいっと変わった形をしていて・・・。」
今度は刃先の方を持ち、同じように投げる。
壁に刺さったナイフ隣に、もう一本ナイフが刺さる。
「ギルマスが殺されたダガーはまっすぐには投げれない。切っ先の向きか曲がっているので、回転させて投げる方法しかない。」
ルイルはさらに一本投げナイフを取り出し、同じように刃先を持つ。そして一歩、後ろに下がると同じように投げた。
今度はナイフは刺さらず、壁で跳ね返り床を転げる。ルイルは落ちたナイフを拾い上げた。
「このように、回転させて投げる場合は、どうしても距離が重用になる。距離が合わなければ刺さらないんだ。多少の調節は可能だけど、ギルドマスタの肋骨を折るほどの威力で投げようとすると、とても小細工で調節できるようなものじゃない。」
そして、アダルとルイルはある程度距離を開けて立つ。部屋の広さの半分ほど。
「あのダガーで攻撃できる距離は、ここ。この位置にはローテーブルがあり、攻撃できない。しう一回転分後ろに下がるさとも可能だが、それをすると部屋の外から投げないと刺さらない。とまぁ、こんな理由で俺たちではあのナイフではギルドマスタは殺せない。」
サリカーはルイルの話を黙って聞いていたが、
「君たちの話は鵜呑みに出来ないが、意見としては聞いておこう。しかし随分と詳しいな。」
「そりゃそうだ。たとえ拾った武器でも使いこなせないとそれは即、死に直面する。嘘だと思うなら
部下にでも命令して試してみるといい。それにもう一つ、気になることがある。」
「はて、それはどんな事だ。」
「ギルマスの血飛沫の飛び方が不自然だ。心臓を一突きにされてもあんな派手な血の飛び方はしない。あんただって人が死ぬところぐらいは見たことがあるだろう。」
サリカーはルイルの話に黙って頷いた。