召集
場所は変わってここは冒険者ギルドの2階の会議室。
窓の外からはガヤガヤと騒がしい声が先ほどより大きく聞こえる。無理もない、ギルドマスターが真っ昼間に殺されたのだ。噂を聞きつけて、ギルドの前には人が増えてきているようだ。
隣のギルドマスターの部屋では、何人かの自警団によって書類などの調査が行われているようで、断続的に話し声が聞こえてくる。
入り口と窓から遠い奥側にはその時居合わせた冒険者達。入口側には受付嬢と黄色い服を着た男。
入り口を塞ぐように中年の口ヒゲを蓄えた男が立ち、その両脇には補佐の若い団員が二人ついている。
遅れてエプロン姿の男が入ってくると、ファリシアの横に立つように促された。
中年の口ヒゲの男は、鋭い目つきで全員を見渡してからエプロン姿の男に聞く。
「ダストン、ここに居るのが関係者全員か?。」
ダストンと呼ばれたエプロン姿の男はゆっくり頷いた。
「冒険者達が出払って、普段は我々3人しかいないことが多い。今日に限って珍しく速く帰ってきた冒険者が何人かいたぐらいだ。」
口ヒゲの中年男は、一歩前にでる。
「初めて見る顔もあるな。私の名前は、サリカー=フランクと言う者だ。この街で子爵の下、自警団の団長を努めている。皆も知っての通り、ここのキルドマスターが何者かに殺された。」
場の空気が一気に緊張した。何人かは目か泳いではいる。サリカーはそのまま言葉を続けた。
「君たち以外にも犯人が居る可能性があり、君たちが犯人だとは決めつけるつもりは無い。しかし犯人の手がかりとなる情報は何なりと持っていると思われる。少なくとも嘘偽りせず、気がついた事を話してほしい。」
そういうと、軽く頭を下げた。場の雰囲気がすこし和らいだ。
サリカーは何人かの方を舐めるように見る。
「ふむ。職員の中にも何人か、見かけない顔が居るな。ギルドマスターは最近新人を雇ったのか?。」
ダストンはまず、自分の近くに居たファリシアを指差した。
「ギルマスか就任してから、ほとんどの人間が入れ替わった。こ娘は4ヶ月前から受付として働いてもらっているファリシア=ストルだ。この街ではなく東の村の出身だ。」
ファリシアは軽く会釈をした。
「初めてお目にかかります。ダストンさんとはお知り合いなのですか?」
サリカーはダストンの方をチラリとみた。ダストンは軽く頷くのを確認すると、ダストンを親指で指差した。
「私は、コイツが冒険者やっている時の臨時パーティメンバーだったからな。何回か遠征に行ったくらいだ。当然、亡くなったギルマスがその時のパーティリーダだったな。」
次に、ダストンは黄色い服を着た男性を指差す。
「半年前から雇っている鑑定士のエスト=カフェスだ。古参の鑑定士はもう一人いるが、今日は非番で出ていない。」
エストと呼ばれた男はサリカーから目を離さず、軽く頭を下げた。
次に部ダストンは部屋の隅に固まっている冒険者を指差す。
「3週間前から滞在している冒険者達だ。サリカーさんに自己紹介を。」
ダストンに言われて、3人は顔を見合わせたが、銀髪の男が最初に声をだした。
「ルイルだ。ルイル=フェンゲル。南の方、カリエス公国出身の冒険者だ。この二人はパーティのメンバーだ。」
戦士風の背の高い方は軽い会釈をして、ぼそりと声を上げる。カラコロと鳴る鎧の音より小さい声。
「アダル=エバーです。」
もう一人、ティスも続けて自己紹介する。
「ティス=エバーといいます。」
サリカーは何か思いついたのか、アダルの方に質問した。
「お前たちは夫婦なのか?」
アダルは質問の意味が解らず、眉を潜めるがそれでも理解できなかったようで、横に居たルイルの方を見る。
ルイルはそんな様子を見かねて割って入った。
「このふたりは兄弟だ。アダルとオイラは幼なじみで、そしてティスはオイラのフィアンセの・・・。」
言いかけて、床に沈むルイル。その後ろにはティスの姿。
「誤解されるような事は言わないのっ。だれがフィアンセよっ。」
ティスは軽く咳払いをして続けた。
「私は兄と一緒に冒険者をしています。私たち3人は同じ村の出身で、来週中にもこの街を発ち、国境を越えて隣の国へ行く予定たっんたのですが・・・。」
ダストンの方に目をやる。ダストンは少し首を傾け、後頭部を掻いた。
「ギルマスが不在となると、承認が降りないからしばらくは足止めだな。どうしても急ぎなら中央都市に行ってギルドの出国手続きが出来なくはないが。」
そのあと、サリカーか続けた。
「この事件に目処かつくまで、申し訳ないがこの街に止まってもらう事にはなる。とくにそこに蹲っている男。お前の容疑が一番高いからな。」
その話を床で聞いていたルイルは飛び上がった。
「冗談じゃない。来週には隣国町で残りのバーティメンバーと合流する予定なんだ。」
サリカーはそんなルイルを冷たい目見下ろす。
「犯人が解ればすぐにでも発ってもらって問題はない。もっとも、自分が犯人だと言ってくれればそれで処理を進めるが。」
ルイルは何かいいたそうにしていたが、そのまま言葉を飲み込み黙り込んだ。
サリカーは全員をもう一度見回すと、徐に左手を上げて自分の甲を見せる。そこには刺青で模様か描かれてある。
「皆の左手の甲を見せてもらおうか。一応魔導士が何人いるか確認したい。」
皆はそれぞれ、小手を外したり、手袋を脱いだりして左手を見せる。
ルイルとアダル以外の手の甲には全員刺青があった。刺青の模様は基本的同じ模様だが、所々違っており、
ティスの模様が一番複雑な模様となっている。
逆にサリカーとダストンは比較的簡素な模様となっている。
日常でも魔導を生活に利用している者も多く、冒険者として仕事をしている場合、大抵は魔導を習得している。魔導の会得から使い方、倫理などを習得した証として、魔導士会館より使用許可を受けた者が、左手の甲に刺青を入れる決まりとなっている。
サリカーは魔導士の数を報告書に記すよう、部下に命じた。その後、近くに居るエストに話しかける。
「ギルドマスターが殺される前まで、そうだな、昼の2番鐘が鳴る頃には何をしていたのかね。」
急に話を振られて、エストはおどおどしながら返答する。
「わ、私は隣の部屋でギルド証券の検品をしていました。他のギルドでもギルド証券の検品はしていたのですが、ここのギルドでは証券の扱う数が多くて。も、もう一人と各日交代で作業しています。検品は魔導を使うので、し、集中しないとダメですから。じ、事件の時はファリシアさんの声を聞くまで気づきませんでした。」
サリカーはダストンに聞く。
「ここのギルドはそんなに多いのかね。」
ダストンは小首を傾げる。
「ワシはその辺は関与してないので何とも。ただ買い取り量や冒険者の数は、ワシがここで買い取りに就いた時からと、そう変わっていないように思うが。」
サリカーは何か思い当たる事かあるのか、考え込む。続いてファリシアに声をかける。
「君は何を。」
ファリシアはあれから時間が立ったので、ずいぶん落ち着きを取り戻していた。
「私は、受付にいました。この時間はとくに何もすることが無いので座って本を読んでいたぐらいです。」
「何か気になることは無かったのか?」
ファリシアは右上の方を見て少し考えていた。
「特に気になるような事は・・・特に。いつも通りでした。」
サリカーは軽く頷いた。しかし何か腑に落ちない様子で質問を続ける。
「二階でこれだけの事が起きているのに気づかないのも不思議だな。」
ファリシアは天井を見上げる。
「ですよね。真上辺りがギルマスさんの部屋なんですけど、全く気づきませんでした。エスト君も隣の部屋なのに物音に気づいていない様ですし。」
サリカーは続いて冒険者の3人方に目をやる。リーダであるルイルか答えた。
「オイラ達は獲物を捕まえて、そのまま東側の門を潜ってギルドに向かってただけだ。」
「他にそれをバーティ以外の者で見た者は?。」
ルイルの視線は左上に上がる。
「門番の奴らなら見てるだろ?」
ティスはルイルの方を指差す。
「門番の人って私たちの事をいちいち覚えてるかしら?。」
「そりゃギルドに入る時だって、誰かに見られてるだろ。」
「じゃ、ルイルも街を歩いている人の顔をいちいち覚えてるの?」
「確かにそうだ。覚えちゃいないな。」
「じゃ、誰が証言するのよ。」
分が悪くなったのが、二人のトーンが次第に下がってくる。
「今すぐ通りにいる奴をかき集めて。」
「その時間に居た人なんて、もうとっくにどこかに行ってるわよ。」
「そうでもしないと、証言が・・・。」
ゴニョゴニョ相談する二人に見かねたサリカーは、軽く咳払いをした。
「とにかく、お前たち以外にはアリバイか無いんだな。」
ティスは申し訳なさそうに言う。
「すみません、」
「まぁ、普通に街道を歩いている証拠を出せといわれて、出る物でもないな。アリバイが無くても犯人だとは決まらないから、そこは追求はしないでおこう。」
そんな様子をまるで他人事の様にボーとしているアダル。