リスタート
「君との婚約を解消するよ。」
ああ。なんていい気分なのかしら。
ふふ…おバカな王子様。早くその女をどこか遠い異国の地にでも飛ばしてくださいな。
「エルシアーナ、国のためなんだ。
君には辛い思いを…背負わせてしまい…すまない。」
「…わかっております。殿下。」
まあ。泣くなんてはしたない。
あなたごときが弱ってみせたところで、もう彼は私のもの。
ぜーんぶ、わたしが奪ってあげたわ。
だって、わたしはこの世界の主人公だもの。
「今も変わらず…心からお慕いしております。エイデン様」
俯いたまま応えていたエルシアーナが顔をあげ、キッと視線を私に向ける。
その瞬間、少し離れたところで息を呑んで私たちを見ていた生徒たちが、急にワッとざわつきだした。
弱々しく泣いていた元婚約者の令嬢が、
凛と胸を張り、殿下の腕に絡みつく私に向かって歩き出してきたのだ。
(あら。最後に頬を叩いて復讐でもするつもり?
んふふ。じゃあ、殴られてあ・げ・る
可哀そうな私を、殿下が慰めてくれて…私はまた悲劇のヒロイン。最高だわ)
怯えるふりをして、一歩、二歩と殿下から距離をとった私に
カツ、カツ、とヒール音を響かせて歩いてくるエルシアーナ
グサッ
この日のために誂えた白いドレスが、徐々に赤黒く染まっていく
胸が、熱い。くるしい。
息が、できない。助けて、、苦しい。
熱い、、寒い、、憎い。怖い。視界が、黒い。
なに?どうして…?
また、デッドエンド…?
私はこの世界の主人公なのに…
なんでまた、殺されないといけないの…。
・・・また?
こんな辛い思い、わたしは初めてなのに。
「―――――あー!もう!リスタートリスタート!!
なんで毎回殺されるの、このゲームー!!」
げーむ…?
そっか。私はこのげーむの主人公で…
“正解”を選ばなかったから、また、殺されて。
ああ…でも、どうして?
クリアルートのヒントくらいあったっていいのに…
擦れていく視界の中で、立ったまま私を見下ろす彼と、
座り込み、震えてこちらを見ているエルシアーナに違和感を覚えながら、私の意識は白く掠れていった。