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与えられた物は「勇気」のみ!~最強スキルで旅をする~  作者: ド・ド・弩レイダー
第三章 誰も知らない夜明け
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伽藍堂ノ心

「龍司、起きて。」

誰かに頭を撫でられている…。

暖かい手だ。不安を吹き飛ばすほど、心地よい。

「母さん…?」

「わたくしですわ。大丈夫?」

ゆっくりと目を開くと、結貴が不安そうに俺の顔を覗き込んでいた。

「っ…!ここは…?!」

「ここはわたくしの結界の内側。物理攻撃は無効化されていますの。

安心して、何が起きたのかしっかりとわたくしに説明してください。」

「えっと…やっと常ノ理(世界システム)にたどり着いて

そしたら、俺の父親が居て、それで…

俺の名前、やっと思い出せたんだ。でも…なんだっけ…」

「いいですか、龍司。魔王キュクロスから説明されたのですが、苗字を含めて、自身の名前を口に出すことで貴方の力のリミッターが解除されます。

貴方の力は特殊な場所から流れており、現在の貴方はその力を受け止められるほど強くありません。

この話を忘れずに、名前は思い出しても言わないように。

今、貴方の仲間たちは岩月龍之介と戦っています。彼らを信じて、今は少しだけ休憩してください。」

「でもっ…!」

「自身を!よく見てください!手足は震えて、呼吸が荒い。

心に大きな傷を負っているんです。大丈夫、大丈夫…。」

立ち上がった俺を抱き寄せ、ゆっくりと頭を撫でる。

未熟な俺に現実は厳しすぎて、心が壊れそうだった。

しかし、彼女の言葉は、行動は、ヒビの入った心を優しく包んでくれた。

「ありがとう、結貴。

ちょっとだけ…ううん、すっごく勇気が出た、安心した。

俺、父さんともう少し話したいんだけど、いいかな。」

「ええ、もちろん。何かあったら、呼んでくださいね」

俺の頬に手を添えた彼女は儚げに微笑む。

やがて結界は消え、再び蜃気楼(ファタモルガーナ)が俺の前に現れた。


「やっと戻って来やがったか。遅せェぞ、リョージ!」

「ごめん、ギルガメッシュ、グレア。でももう大丈夫だから。」

「ねぇ、アナタ、あの男と話せるんでしょう?!

もう何言っても反応が無いの。ただ攻撃が続くだけ。」

彼は元の父親とは、いや、元の岩月龍之介とは似ても似つかない姿で、こちらを見ていた。

「あ、起きたんだ。ちょっとさ、君、危険すぎるよ。

どこにそんな力を隠してたんだい?悪いけど、このクリスタルは繊細なんだ。

仮に僕が君の父親だったとしても、この世界のために僕は君を殺す。君がクリスタルの力を吸い尽くす前にね!!」

片手を天に掲げ、何やらブツブツと唱えている。

エネルギーが収縮していき、赤黒いエネルギーの球となる。

重い動作で振られた腕から飛ばされたエネルギー弾は、その大きさからは想像できないほどの速さでこちらへ迫ってきた。

「リョージ!」

「大丈夫、俺に任せて。

不思議と恐怖は感じないんだ。」

剣を構え、目を閉じ集中する。

「…風…?」

「何言ってるの、天袮(あまね)ちゃん。ここは地下なの…に…」

構えた剣を軸として、風が起きる。

風が空を切る音がいつもの何倍もうるさい。

そう、それでこそ俺。これぐらい、できて当然。

勢いよく剣を振り下ろし、放たれた大きな竜巻が岩月龍之介の方へ進んでいく。

エネルギー弾を巻き込むが、それでも消えることはない。

「ちょ、ちょっとちょっとちょっとちょっと!待って待ってよ!」

彼は竜巻に飲まれ、自身の放ったエネルギーと、風に全身を切り刻まれる。

しばらくして風が消え、蹲った状態の彼がそこに居た。

「くっ…フラフラする…」

「おい、大丈夫かよ?」

よろけた俺をギルガメッシュが支え、少しずつ蹲っている彼の所へ歩く。

「はぁっ…どうだ…。」

「うぅ…も、もう…なァ〜んて。」

嫌な笑みを浮かべた彼はまるで誰も掴んでいない状態で放水するホースのように、不規則にビームを放ち始めた。

「危ねェっ!しまった、グレア!」

警戒しながら進んできたため、ギルガメッシュはとっさに俺の盾になってくれた。

しかし、ビームの飛んだ先にはグレアが立っていた。

「あっ、あぁっ、怖いっ!」

目をぎゅっと瞑り、咄嗟に出された右手によってビームは掻き消されてしまった。

「あれ?」

「よかっ…」

「危ないッ!!」

安心したのもつかの間、再び叫び声が上がる。

「え?痛ぁっ!」

「すまない。…愛している。」

小此木(おこのぎ)をビームから守るために体当たりをして弾いた山条(やまじょう)は身代わりとなり、その一身に受けてしまった。

胴を貫かれ、上下で別れてしまった身体は散り散りに消えていく。

聞こえるものは岩月の押し殺す笑い声と、慟哭だけだった。

久宗(ひさむね)ぇっ!あ、アンタ…天袮ちゃんに、なんて言われたか忘れたワケ…?!」

「ごめンな、美姫(みき)…。」

酷く弱った様子の小此木をそっと抱きしめようとするが、その手は振り払われる。

「いらない、アンタの慰めなんか必要ない!

なんで、なんで最低のアンタが生きてて天袮ちゃんが死んじゃうの!!

最悪。アンタが死ねばよかったのに…。」

崩れた身体から落ちた片方の耳飾りを手に取り、彼女は自分の耳に着けた。

「くくく…ごめんごめん。でも、僕に先に手を出した君たちが悪いんだよ。」

「だめ、あなたみたいな人は、死んじゃえ」

いつの間にか岩月に触れていたグレアがぽつりとそう呟く。

「あ、あぁ…あああ…!」

一瞬にして弱々しい声になり、彼は白目をむいて倒れた。


「死んだ…?」

「いや、何かおかしいぞ…」

「はぅぁっ?!な、なに?!えっ!誰!?」

目を覚ました岩月は、先程の記憶を無くしている様子で、悪意や殺意は一切感じなかった。

「アンタのせいで天袮ちゃんがっ…!なに忘れて逃げようとしてんの…!!」

「僕のせいで…?」

「結貴!」

「はい、どうかしましたか?」

俺の声に反応し、受け取った指輪から現れる。

「俺と、岩月を結界に入れてくれるか?」

「逃がさないんだから!!」

怒り狂う小此木を衛藤(もりふじ)が抑え、早く行け、と俺に目で合図した。

こくりと頷き、俺と岩月、結貴の三人で再び結界へと入った。

「いったい、何があったんだい?気付いたらあんなことになってて、本当に僕にはなにがあったかわからないんだ。」

「わたくしに任せてください。先程の記憶を貴方の頭に流してさしあげます。」

結貴が彼の頭に触れて数分、彼は激しく動揺した。

「僕があんなことを…?もう、嫌だ…帰りたいよ、ミスミ…。」

頭を抱え、ブツブツと後悔を呟いていた。

「そうだ、君が、クリスタルの力を受け継いでくれないか。

僕と血の繋がりがあるから何の問題もなく扱えるはずだし、僕と違って心強い仲間が居る。どうか、頼む。」

「どう思う、結貴?」

「もう…これは貴方たちの問題ですわ。ですが、キュクロスはその力と正しく向き合えて居ました。」

「よし、ありがとう。結貴。

岩月さん、俺がその力受け継ぎます。」

「そうか、そうか…。ありがとう…。

クリスタルの所へ行かせてくれ。管理権限を君に移す。」

結界から出て、クリスタルの元へ。

「君のお母さんは、元気か?」

「うん、凄く元気だよ。俺のこと、自慢の息子だって。」

「それはよかった…。…お父さんのこと、好きか?」

「えっ、うん。好きだよ。」

「ちゃんと、僕がお父さんとして君を育てたかった。」

「そっか…。俺の父さんだけど父さんじゃないんだよね…。」

「よし、これで管理者は君だ。生かすも殺すも君次第だよ。それじゃあ、また。」

「待って!これからどうするの?」

「クリスタルの力で日本へ戻る。そして…ミスミと暮らせたらいいな…。

…君は戻っちゃダメだ。イジワルを言いたいんじゃない。

既に君は大切な家族を作っている。これから帰る場所は僕やミスミの所じゃないってこと、覚えていてくれ。

父さんからのお願いだ。…これはイジワルかも。」

「うん、うん…わかった。ありがとう…父さん。」

いつの間にか溢れていた涙を拭い、俺は強く父さんを抱きしめた。

前話からの繋がりで少々不自然な所があるかもしれないので一応補足

覚醒した世界システムの力により、無意識的に龍司はフルネームを思い出すことができなくなっており、周りの人はフルネームを教えようとしません。

結貴はキュクロスから説明があったためそれを理解しており、ただ1人だけ、フルネームを教えることができます。

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