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与えられた物は「勇気」のみ!~最強スキルで旅をする~  作者: ド・ド・弩レイダー
第三章 誰も知らない夜明け
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雲蒸龍変ノ地

最終話、近いのでちょい多め。いつもより読むのめんどうかも。

「やあ、報告係くん。最近来てくれないから何かあったのかと思ったよ。

それにしても、気配がいつもより多いね。二人増えてる…ってことは、捕まえたのかい?

えっと…亡骸の暴君(ネクロタイラント)と、不敵の勇気(ブレイバー)だっけ?

ところで、彼はギルガメッシュと名乗っている別人なのかい?それとも本物のギルガメッシュ?

あ、ごめんごめん。報告は勝手にしてくれて構わないよ。

…今日は随分無口だね。いつもみたいに話そう。ずっとここに一人で寂しかったんだ。

そうだ、僕は昔ね、歴史ある家の娘とお付き合いさせていただいてたんだ。

結局、結婚できずにこっち来ちゃってさ。元気にしてるかなぁ、ミスミ…。

おっと、この話はエウフェミアには内緒でね。」

「ねぇ、アナタ…アタシ達に話してるの?

残念けど、アタシ達は報告係じゃないの。

ここの管理人?アタシと、オトモダチになりましょう?ウフフ…」

「誰だ…お前たち…は…」

「おい、済ンだか?」

「もちろん。完璧!」

「…美姫(みき)。」

「どうしたの?天袮(あまね)ちゃん。

あら…この耳飾り、大切なものなんでしょう…?」

「この耳飾りが二対の存在である限り、お前を死なせたりしない。

いつか、聞かせてくれ。本心を。」

「それって…」


「おい、グレア、リョージ。見えるか?

ここが蜃気楼(ファタモルガーナ)なんだが、表と見た目が全く同じとはな。」

「全く同じ?何か変なのか?」

「蜃気楼は常ノ理(世界システム)所持者の心を写す鏡みたいなもんだ。

余程あの世界が気に入ったんだろうな。」

こちら側のルヴナさんの家から出るなり目に飛び込んできた、全く同じ世界。

僅かばかりの不安と、ついに常ノ理を見れるという興奮。それと、旅の終わり。

「それじゃあ、常ノ理を探しに行こうぜ!

ギルガメッシュ、どこにあるかわかるか?」

「おうよ。俺様についてこい!」

グレアを抱えたままの彼と、中央へ歩いて行く。

本当にこの旅が終わってしまうと思うと少し、いや、かなり寂しいような気がする。

やり残したことは何かあっただろうか。

そう、考えを巡らせる。

「岩月さんの墓参りしたいな。全く同じなら、あるかもしれないし。」

「それはどうだろうなァ。ま、行ってみようぜ。」

「どこか行くの?」

「リョージがな、ちょっと寄りたいところがあるって。」

そうして訪れたゴルゴダの墓場。

掘り返された墓を通り過ぎ、一つの墓に目が止まった。

神武(じんむ) 水主美(みすみ)

岩月さんと俺以外に日本人がここに来たのか。

彼女は…今もここに居るのだろうか。それとも、常ノ理を使って日本へ帰ったのか。

「岩月さんの墓は無し…と。」

「わりィ、リョージ。ちょっと気になることあるからそこで待っててくれ。」

「あ、やること終わったし俺も行くよ。」

何かに気付いたように墓場の奥へ進んでいくギルガメッシュ。

進んでいくと、とある墓の前で立ち止まった。

「冥王、ここに眠る。かつては向こう側の世界に生きていた神の墓。」

ニヤリと悪い笑みを浮かべ、グレアを地面に下ろしてから、墓を掘り返してしまった。

「なっ、なにしてんだよ!」

「どうしたの?地面掘るなら手伝うよ!」

そうして現れた棺を開き、禍々しい右手を取り出した。

「…なんで手?もっと、ほら、心臓とか目玉とかあるだろ?!」

その手をグレアに投げ渡すと、みるみるうちに量子へ変化し、彼女の右手を取り囲んだ。

その後再び見えた彼女の手は、赤黒い、悪魔のような手になっていた。

「な、なにこれぇぇぇ!!」

「これはちょっとした強化イベントだ。何かしら起こるとは思ったが、まさかそうなるとはな。

テメェが自身の能力を否定したら消えるだろう。もし、嫌になった時のために覚えておいてくれ。」

「嫌になったりしないよ。たしかに、苦しかったり、痛かったりするけど、仲間と…大切な家族と一緒に助け合って、喜べるんだもん。

なんだか恥ずかしいね。えへへ、行こっか!いやぁ、それにしてもこの手…」

変化に驚きつつも、心の底から嬉しそうに笑っている。

ここはずっと探してきた蜃気楼。常ノ理があるから俺は元いた世界に、家に帰れる。

これから、最後の戦いに挑むのか、それとも何も無く終わるのか。

グレアはきっとギルガメッシュと一緒に旅を続けるだろう。

なぜなら、家族だから。

ギルガメッシュは無二の親友を亡くしているし、グレアに血の繋がった家族はおそらく居ない。

でも、俺は?帰れば家族が居る。親がきっと暖かく迎えてくれる。

「幸せな…ことだろ。なのに…なんで…」

涙を拭い、悟られないように二人の後ろへ駆けていく。もう少しなんだ。頑張ろう。


要塞国家(パレオフルリオ)の中心。地図で見た時、この世界のド真ん中に位置する場所にあるビルへとやってきた。

ギルガメッシュが言うには、地下に常ノ理があるらしい。

欠けも割れもどこにも無い、恐ろしい程に綺麗な大理石の壁。

従業員専用のドアを通ると、無骨なコンクリートが剥き出しのバックヤードが現れる。

「エレベーターが…?不自然すぎる…」

「このドアはエレベーターって言うの?透明の壁の向こう側は真っ暗だよ、きっと何も無いんだね。」

「この透明なのはガラスって言うんだ。ここのボタンを押すと人が乗れる箱が来る。」

グレアを抱え、ボタンを押させるギルガメッシュ。

俺も小さいころ、母親に抱かれてああやってボタンを押した記憶がある。

「あれ…?母さんの名前…うぐっ…」

頭痛を振り払い、深呼吸する。

俺は、俺の名前だけじゃなくて親の名前さえ思い出せないのか。自分が酷く情けない。

「ほら、リョージ。テメェもさっさと乗れ。」

「あ、あぁ。」

いつの間にか来ていたエレベーターに乗り、地下を目指す。

「わあ、凄いっ!でもこれ、落ちてるんだよね?どかん!ってなっちゃうよ!」

「大丈夫だよ。そこも考えて設計されてるからね。」

この世界で生きていたら一生交わらないであろう技術だ。そう思うのも無理はない。


やがて最下層に到達し、ゆっくりとドアが開く。

真っ白な世界と、巨大なクリスタル。この世界に来る前に神と話した場所と似ている。

「これが常ノ理…」

「相変わらずデケェな…」

「すごいすごいっ!キラキラしてる!早く行こうよ!」

「ん…?待て、グレア!誰か居やがる!!」

人の存在に気付き、勢いよく走り出したギルガメッシュ。

それを追って俺とグレアも走り出す。


「おい、美姫!支配できてンじゃねぇのかよ!」

「アタシだってなんでこうなってるのか知りたいわ!今までこんなことなかったのに!」

久宗(ひさむね)、誰か来た。美姫を頼む。」

気配は三つ。敵意は感じないが、罠かもしれない。

とてつもない勢いで接近してくる気配の方を向くと、居たのは彼らだった。


「アイツっ…!」

「ズル野郎じゃねェか!!」

山条 天袮。

強力な能力を有する転生者。

欲を言えば俺も勇気なんて言ういつ働いてるかもわからないスキルより、山条達みたいなわかりやすく強い力が欲しかった。

「すまない、手を貸してくれないか。

こんなことを頼める義理ではないのは心得ている。

それでも、友が、愛した人が、危険なのだ。」

「へェ…。テメェが俺様に愛を語るたァな。いいぜ、漢の頼みだ。」

どんな攻撃にも最適解を返してくるという男、山条。

闇に溶け込むような黒い装束もこんな真っ白な世界では無意味だ。

「えーっ、なんでなんで?私嫌だよ!」

「悪ィな、グレア。俺様のワガママだ。聞いてくれないか。」

「う…わかった…。」

「よし、ありがとな。」

頭をくしゃっと少し撫で、山条と目的地へ走っていく。

大きなクリスタルを囲っている建物の中はとても入り組んでいて、迷路のようだった。

やがて着いた場所には、他二人が一人の男と戦っていた。

「岩月龍之介!」

「父さん?!」

俺とギルガメッシュは同時にそう叫ぶ。

「は?父さん?!」

「あれが岩月さんだって?」

お互いがお互いの発言に驚いている。

間違いない、あれは俺の父親だ。

その声に気付いたのか、その男は攻撃を止めてこちらへ近付いてきた。

「僕が、君の父さん?えっと、名前は?」

「お、俺の名前は龍司(りょうじ)です。

って、こんなとこで何やってんだよ、父さん!」

「へぇっ!僕の子供かぁ!」

「何言って…」

「ん?でも僕は君と会ったことないな。」

「龍之介さんが、俺の父親…?」

向こうは俺のことを知らないようだ。

それに、目の前にいるのは俺の父親。そこに嘘は無い。

「なんで…向こうに、元の世界に戻ろうとか思わなかったのかよ…?」

「うん、全く。でも、ちょっと気になって向こうの世界の様子を覗いてみたんだけど、ミスミが、僕と幸せそうにしててさ。

僕だけど僕じゃない、そんな僕が人生を全うしてくれてるから、いいかなって。」

「え…?」

「だから多分、帰ってももう一人の自分をどうにかしなきゃ元の生活には戻れない。」

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが崩れていくのを感じた。

俺が帰っても、俺の代わりが居るから…あれ…?

俺が本物なのに、偽物に居場所を奪われたのか?

「ねぇ、ところでさ、ミスミは元気?」

「え?あ…えっと…」

「神武水主美。あ、僕と結婚したのかな?じゃあ、岩月水主美かな。」

「じゃあテメェ、岩月龍司って名前なのか!」

ずっと黙っていたギルガメッシュが俺の肩を叩き、嬉しそうに話しかけてくる。

「そっか、俺の名前…」

「結婚すると、名前が変わるの?もしかすると、神武龍司かもしれないね!」

「…それだ。俺の名前!神武龍司、それが俺の名前だ!」

そう叫んだ瞬間、俺の視界は歪み、音は遠のいて行き…

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