新月ノ願い事
「龍司、昨夜食べた久々の日本食はいかがでしたか?また要望があれば、作ってさしあげますわ。
それと、これを着けていただきたく…。」
そう言って、結貴は金の宝石が付いた指輪のような物を差し出した。
俺の手を取り、左手の薬指へとそれを通し、満足気に笑みを浮かべた。
「なぜ左薬指に結婚指輪を着けるのか、ご存知ですか?」
「ううん、知らないな。」
「左薬指には、心臓に繋がる血管があると考えられていましたの。
心を司る、大切な場所。そこにお互いの愛の印として、結婚指輪を着けると言う話ですわ!」
「へぇ、そうだったんだ。あ、でも俺は何もあげられないよ」
「ウフフ、ご安心を。既に様々な物を貰っていますわ。」
特に何かあげた覚えは無いが、彼女が良いと言うならそれでいい。でも、なにかプレゼントしてあげられるといいんだが。
二人で会話を楽しんでいると、部屋のドアが叩かれた。
「おい、リョージ。アイツらを追いかけて南に行く予定だが、来れそうか?」
「うん、わかった。結貴、行ってくるね。」
「ええ、いってらっしゃいませ。」
「なあ、リョージ。テメェ、なんか…アイツと距離近くねぇか?一応、テメェはアイツとつい最近知り合ったんだろ?」
「うん、そうだけど…なんか、今までそうだった様な、そうするのが当たり前の様な感じがして。」
「なんだそれ。前世の記憶的なヤツか?まぁいい。行くぜ、グレア。」
「はぁーいっ!」
結貴に手を振り、俺らは中央を出て、ルヴナさんが居る村を訪れた。
『ここに、恋人と住んでた。彼女は今もここで待っててくれてるけどね。』
ルヴナさんの家の前にて、男女六人組、岩月さんのパーティが話しているのが見えた。
実体はないし、ギルガメッシュにもグレアにも見えていない。
何かしらの理由で、俺だけに見えているのだろう。
「どうした、リョージ。早く来いよ!」
ぼーっと眺めていた所を声に引き戻され、慌てて俺はルヴナさんの家のドアを叩いた。
「おやぁ…新しいお友達、可愛らしい子ですね〜…。」
前にギルガメッシュと会った時とは違い、落ち着いている。
グレアの能力が如何に恐ろしいものかを知れば、きっと驚くだろう。
「そんなことが…大変な旅だったんだね〜…。
それで…今日はどんな用で来たのかな〜…?」
『エウフェミア、ごめん。
コード:イストリア、起動。』
岩月さんの声だ。コードイストリア?ルヴナさんに言っていた?
「おい、リョージ!どうした、さっきから。変だぞ。」
「ご、ごめん。えっと…ルヴナさん。
コード:イストリア…起動。」
俺がそう言うと、彼女は立ち上がり、自室へと歩いていってしまった。
「リョージ、急にどうしちゃったの?コードイストリアってなぁに?」
「聞こえたんだ、岩月さんの声が。」
「はァ、テメェな…変なこと言うからどっか行っちまったじゃねェか。」
階段を降りて戻ってきた彼女の手には、鞄が握られていた。
机の上に置かれ、大きく開いた鞄の向こう側には、ここと全く同じ景色が見えた。
「おいおいおい…マジかよ…。」
『コード:イストリア、実行中。
終了まで、残り60…50…』
「別れを告げる暇なんてねェ。行くぞ。」
そう言ってギルガメッシュはグレアを抱え、鞄の中へ飛び込んで行ってしまった。
「ごめん!ルヴナさん!」
その後を追い、俺も鞄の中へ、飛び込んで行った。




