愛 反する
俺にはわからない。
彼女の言葉が嘘だとは思えない。
曰く、未来の話で俺は魔王になっている。
そんなのを「はいそうですか」と受け入れられるだろうか?俺には無理だ。
だって数週間前まで普通の高校生で、なかなか悪くない人生を送っていたし、親も優しくしてくれた。
そんな、どこにでも居るような普通の男子が、電車に轢かれて転生、苦しみながらも帰る方法を探して、その末闇堕ちして魔王に?
理解できるはずがない。
でも、この世界にきてわかったのは、「できる」「できない」ではなく、「する」「しないといけない」なんだと。
だから、この話も心の底では疑っているとしても、信じるし、信じないといけないんだと考える。
「…よし、わかりました、結貴さん。」
「わたくしと結婚してくださると…?!」
「結婚はしませんが…。俺たちの旅に着いてきてくれませんか?」
断られてガックリと肩を落としたが、旅に誘われ、顔を上げて彼女は喜んだ。
「お誘い、大変嬉しく思います。しかし、わたくしはこの国の王であり、そう簡単に離れるわけにはいきませんわ。
着いていくことはできませんが、最大限のお手伝いはいたします。
もし、この場を離れられるようになったら、必ず会いに行きます。その時まで、わたくしを待っていてくださいませ。」
にこりと柔らかい笑みを浮かべて、俺の顔を見つめる。その目の奥には輝きと、切望。そして、愛を感じた。
その後俺は宿に戻り、二人と合流した。
「おう、遅かったじゃねェか。どんな話してたんだ?」
「それは秘密…だけど、きっと俺たちが、いずれ直面する問題。」
「そうか。今は話さなくていい。
俺様の方が話してェことがあるからな。岩月の仲間の双子についてだ。」
こくこくと頷き、ギルガメッシュは強引に話を続ける。
「会えたのか?」
「ああ、テメェと別れた後にな。
しかも、この世界の蜃気楼について、詳しく教えてもらった。
まず、入口だが、物語の魔女が持つ鞄が扉になっているらしい。
だが、双子が言うには、それは言わばズル用で、ちゃんとした扉がもう一つあるんだと。
魔女を見つけるのはどうも難しいらしく、星に願っても何もわからないって言ってた。
たしかにその鞄を通じて一度蜃気楼に入ったが、その後出るまでの記憶と、どこで、誰の鞄だったか、は思い出すことも知ることも出来ないってよ。
まァ、つまりだな、ちゃんとした扉を探すぜ。」
「その物語の魔女ってのがルヴナさんだったりしてな。」
「んなワケねェだろ…。知ってたら俺様たちが蜃気楼に行きたいって言ったら反応するはずだぜ。俺様の眼には嘘つけねぇし。」
たしかに、よく考えてみればそうだ。
本当ならあの場所でギルガメッシュが鞄を見つけていたはず。
「ねぇ、ルヴナさんってだぁれ?」
ベッドに寝転がって居たグレアがふと口を開く。
「えーっと…あれ?どんなヤツだったか思い出せねェな…。」
「ははっ、なんだよそれ。
なんて言えばいいんだろうな、俺の恩人?
俺の剣の持ち主だった人の、恋人!」
「恋人…!」
その言葉にグレアは目をキラキラと輝かせ、興味津々のようだ。
その目は結貴さんの目によく似ていた。
今夜はルヴナさんのお話をしてあげようかな。




