アイの形
三人で観光を楽しんでいると、こちらを見て、なにかに気付いた様に二人の男が走ってきた。
「貴方、キュクロスさんであってますか?」
「あっ、えぁ…はい!」
俺の返事を聞き、安堵のため息をつくと
「どうか、城までご同行願います。」
と、求められた。
俺一人で来てほしいとのことで、グレアは心配していたが、二人とわかれてついていくことにした。
「お連れいたしました。」
「ありがとう。この者を残して全員退室するように。」
そうして大きな部屋に二人きり、かなり緊張している。
俺は未だに顔を上げられず、声の主を確認できていない。
「顔を上げて。」
「は、はいっ…!」
言われた通り顔を上げると、優美なドレスに身を包んだ彼女と目が合った。
この国の女王、オルコス。戦争が終わり、国民の不満が爆発、統治者を失った所に現れ、誰も疑うことなく彼女に国を任せたらしい。
「オルコス…様が、なんの用でしょうか。」
「結貴。誓 結貴。それがわたくしの名前です。
貴方はわたくしの運命の人…。そしてわたくしは、貴方の運命の人なの!」
「え?」
コイツはヤバい。それがたった数回会話しただけで理解できた。
関わらない方がいいだろう。今すぐここから逃げ出したい。
激しい恐怖を感じたが、俺は彼女から目を逸らさずに会話を続ける。
「わたくしは未来から来ました。
ねえ、わたくしの話、聞いてくださる?」
断るとどうなるかわからない。首を縦に振ることしか俺にはできなかった。
『今から話すのは、ここからずっと、ずーっと未来のお話ですわ。
ある国に一人の王が居ました。嘘と暴力にまみれた、最低最悪の王。
彼は魔王と呼ばれ、国だけではなく、世界をも支配する力を持っていました。
魔王はかつて、誰よりも自信を持っている勇気溢れる少年でした。
仲間と共にそこへ訪れた時、彼は仲間と離れてしまい、一人でさまよっていました。
その時に一人だった彼は突如として現れた魔の手により、深い悪の道へと堕ちて行くことになるのです。
自信は盲信へと変わり、誰も手を出すことができなくなってしまいます。
悪虐の階段を駆け上り、世界を支配した彼は、愉悦の為に人々を厳しい監視のもと、管理しはじめたのです。
その中には、わたくしも含まれていましたわ。
そうして、わたくしは過去へと走り、魔王が生まれる前に対策しようとしました。
そしてこれは143回目の時間遡行ですの。』
彼女はコツコツとヒールの音を鳴らしながらこちらへと歩いてきて、手を差し伸べてこう言った。
「わたくしと、結婚いたしましょう!」




