盲従性ファシネイション
遡ること十分程前―――――
「テメェ…何の用だ…!」
目の前に一人、後ろにもう一人。
眼が言うには、噂の日本人の美樹と天袮。
「初対面の女性にテメェだなんて、失礼な人…。
でも安心して。スグ楽にしてあげるから…。」
「マズイッ…!」
コイツの目を見てはいけない。
咄嗟の判断で顔の向きを変え、隙間をすり抜ける。
逃げるのもいいが、逃げると二人に迷惑がかかるかもしれないから、ここで仕留めることにする。俺様強いしな。
「それじゃあ、天袮ちゃん、よろしくねぇ〜。
殺しちゃダメよ?彼のこと、欲しがってる人が居るの。」
「恐るるに足りん。所詮は妖怪の類の域を出ない半端者だろう。」
「ひでぇ言われようじゃねェか。言っとくが、俺様はテメェよりツエーぜ。」
おかしい。
全く隙が無い。
どれだけの猛攻だろうと最適解を返してくる。
多少大振りになるが、少しずつ削って行くしかないだろう。
「動きが鈍ったぞ。弱ってきているのか。」
「鈍った?違ェな。テメェが疲れねェように遅くしてやってんのさ。」
腕力にはかなり大きな差がある。
強い攻撃を防げばその分隙も大きくなるだろう。
それにしても、コイツなんでこんなにツエーんだ。
妙なカラクリがあるんだろう。
例のチートスキルってヤツか?
俺様の努力を踏みにじるようなマネしやがって。
「生ぬるい攻撃だ。その程度では我が護りは打ち砕けん。」
「護りだァ?大層な言葉使いやがって。ズルだろうが!」
「むっ…」
「四本じゃやりづれェ…!三本で戦うぜ、俺様は!」
「ウフフ、面白ぉい…。ねぇ、天袮ちゃん、まだぁ?」
「直に終わる。」
なんだってんだ。俺様がヨエーみてェな。
まあいい。行くぜ、俺様の全力フルスイング!
コイツの剣ごと防御をぶち破ってやる。
「覚悟しろ。月をも砕く一撃必殺。『壱伐』!!」
「うぐっ…!!」
予想通り、力を受け止めきれず、身体が横へ飛んでいく。
確実に実体を捉えた感覚もある。
「うそっ…!やだ、やだやだやだ…!来ないで、来ないでよ!!」
まるで化け物でも見るような怯え方だ。
だが、目を見なければ大丈夫だろう。
いくらコイツも日本人だとは言え、力は無さそうだ。
「首…貰っ…た…!!」
「なんだと…?!」
防御行動を取ったが、遅い。
その時、既に奴の短刀は俺様の頭を弾いていた。
「天袮ちゃんやるじゃな〜い。後でご褒美アゲル…。」
「要らん。」
俺様の頭は美樹の手の中で、身体は天袮と戦っている。
抵抗できるはずもなく、俺様は美樹の目によって無効化されてしまうのだった。




