予見可能性プロブレム
今日もギルガメッシュに稽古をつけてもらっている。
相変わらず強い。
身長も、腕力も、一般人とは大違いで、加減しているらしいが、それでも達人級の腕はある。
「今日はヤケに攻めが大人しいな。なんかあったか?」
「…もう、戻ろうぜ。俺、グレアが心配だよ。」
ひとりぼっちだったグレアを旅に引き入れて、二日目の朝、宿の裏庭とは言え、部屋の中にグレアを残してきている。
今よりずっと小さかった頃、起きたとき、寝室に親が居なくて酷く不安になったのを覚えている。
幼稚園児の様な扱いをするつもりではないが、ずっとひとりぼっちで悲しい思いをしてたのに、またさせるワケにはいかないだろう。
そっと部屋のドアを開ける。
ベッドの上で横になっている少女に変わった様子は無く、まだ寝ているようだった。
「ふぅ、大丈夫だったな。
なあ、ギルガメッシュ。今後の予定でも確認しておこう。」
手帳とアレスさんの日記を取り出し、照らし合わせていく。
「次は『セーム・デメテル・アリア』ってヤツだな。
味方の強化、敵の弱体化…。仮に戦闘になっても、負ける気はしねェぜ。」
「まぁ、そういうヤツらはタイマンだと弱い感じあるよな。」
「ん…二人とも…。」
上体を起こしこちらを見る少女の目は赤く腫れていた。
「ほら、これで目ェ冷やしとけ。」
腰のポーチから取り出した氷を布に包み、彼女に手渡す。
「ん…?保冷機能でも付いてるのか…?」
「溶けない魔法の氷だ。不思議なアイテムは他にもいろいろあるぜ。」
「いや、平気。」
残念、と言ったような顔をしてため息をひとつつくと、立ち上がり、「すぐ戻る」とだけ言って部屋を出た。
部屋に戻ってきたギルガメッシュの手にはスープと食器が乗っていた。
「ほら、朝食の時間だぜ。」
知らない場所で、一週間前は顔も名前も知らなかった二人と朝食を食べている。
境遇も違ければ、好きなものもできることも違う。
でも、今過ごしてる時間は同じもの。不思議だ。
昨夜と同じでグレアはおいしいおいしいと喜びながらスープとパンを大切そうに食べている。
「そういやァ、おもしれぇ話聞いてよ。
この世界にまた三人ぐらい日本人が召喚されたらしいぜ。
どうもそいつら、中央が公式的に呼び出したモンらしくてな。
俺ら、ヘルメースを消滅させたろ?その影響で各地の神の力が強大になってるらしい。
で、それを鎮める為に召喚されたんだと。」
「名前は聞いてたりしてないのか?つーか、なんで日本人なんだよ。」
「日本人は特殊な力を持って召喚されることが多いらしいからな。テメェも、心当たりあんじゃねェの?」
ニヤニヤと肘でつついてくる。
無いと言ったら嘘になるが、勇気が出るだけだ。
そんなの、無いに等しい。
「俺が聞いた限りだと
『山条 天祢』と『衛藤 久宗』、『小此木 美姫』の三人。もしかしたらもっと多いかもしれねェ。」
「ふーん…本当に日本人なんだな…。」
朝食を食べ、支度を終えて、宿を出た。
武器屋に寄って、預けた剣を受け取ると、歪で濁っていたクリスタルが形を整えられて、剣の柄にそれにセットする場所ができていた。
少し説明を受け、二人を待たせてるから、となるべく時間をかけないように武器屋を後にした。
「待たせてごめん!さ、西の国に戻ろうか!」
「なんだか今日は、向こうから来るヤツが多いなァ。」
言われてみれば、そんな気がする。
と思ったが、中央から向かうのは初めてだ。
そんなこと言われたってわからない。
むしろ、なんでギルガメッシュは知っているんだ。
「そういえば、今日からお祭りだって聞いたよ!
お祭りってどんなことするんだろう?楽しみだなぁ。」
「今日は楽しむか!なァ、キュクロス?」
「うん、そうだね。思いっきり楽しもう。」
そんな会話をしながら、ゆらゆら揺られて数時間、西の国に着いた。
手続きを済ませ、中へ入る。
「っ…おいおい…なんだよこれ…!!」
そこで見た光景は、目を見張るものだった。




