無意識性ビターストーリー
「こっから出てる馬車で中央まで行って、持ち物整えてからまたここに戻るぞ。いいな?」
新しく旅に着いてくることになったグレアと共に、俺らは馬車に乗り込んだ。
「なァ、グレア。それって、自動で発動するモンなのか?」
ちょうど気になっていた。
もし常時発動しているなら、なにか対策を考えないといけない。
「うーん、壊したいとか、強く願った時かな。
壊せたらなぁ、みたいなのだと発動しない。」
「それって…」
「ああ、なるほどな。」
強い思念の力。
強大な力全てに何かしらの思念がこもっていると言っても過言ではないのだろう。
数時間程馬車に揺られ、中央の要塞国家に着いた。
前来た時と何も変わらない。
「俺、墓場行ってくる。
二人でどっか見て来いよ。グレアは初めて来るだろ?」
初めて見る世界に心を躍らせ、知りたいことだらけでソワソワしている。
「ん。また後でどっかで合流しようぜ。ほら、グレア。行くぞ。」
「龍之介さん、こんにちは。
思ってたより、旅は辛いことばっかです。
でもその分、楽しいことがあって…馬鹿できる仲間もできて…
貴方の仲間…アレス・アイアースさんは立派な方でした。
もう、会えたかな…。それじゃあ、ありがとうございました。」
さて、挨拶もしたし、次は武器屋に行こう。
その後は薬屋だな。
「こんにちはー!」
「お、えーっと…エウフェミアさんとこの…」
「キュクロスです!」
プトレマイオス・エルゲテス。
人当たりの良い青年で、少し話しただけで暖かい気持ちになる。
「そういえば、一人で旅してるのかい?
剣を持ったばかりの君には少し酷な気がするけど。」
「二人、仲間ができたんです。」
「へぇ、二人も!よかったね!」
話していると、プトレマイオスさんが俺のペンダントに興味を示した。
相変わらず濁っているクリスタルの付いたペンダントを外して見せると、剣を見せてくれ、と頼まれる。
自分の持っている剣を渡す。
両方を見ながら何か考え事をし始め、しばらくして口を開く。
「この石、加工していいかな?
無理にとは言わないし、必要ならお金も払うし。
もしかしたら、この剣に特殊な力を宿せるかもしれないんだ。」
特殊な力
嫌いな男子は居ないだろう。
もちろん、俺も例外では無い。
特殊能力…大好きだ!!
「いいですよ!お金はいりませんから!」
「おお、本当かい?嬉しいな。
じゃあ、明日、また来てよ。」
約束を取り付け、俺は武器屋を後にした。
少し話たつもりだったが、だいぶ時間が経ってしまったようだ。
薬屋のドアをおそるおそる開くと、あの老婆が居た。
「なんだ、生きてたのかい…。
てっきり、他の奴らと同じでもう死んでるのかと思ってたよ。」
「仲間に、恵まれましたから。」
ふっ、と微笑む。
老婆は半ば呆れた様な表情になり、ため息をついた。
「仲間に頼ってばっかってのは、いけないからね。
それにしても、惜しかったね。もう少し早ければエウフェミアが居たのに。」
「いえ、いいんです。次会うのは最後、旅の終わりって決めてますから。」
「大した事言うね、まったく…。」
少しだけ話し、別れを告げて店を出る。
どこで待ち合わせするか約束していないが、歩いていたら二人に会えるだろう。
『ネアくん、ネアくんっ!
この服素敵!私に似合うかな?』
「ルヴナさん…?」
『きっと似合うよ。エウフェミアは美人だから。』
ブティックの前、ショーケースに飾られた服を眺める男女。
あの掴みどころない、俺の知ってるルヴナさんと違い、無邪気で子供のような、可愛らしいルヴナさんだった。
「おい、何してんだ?こんなとこ眺めて。
なんか欲しい服でもあんのかよ。」
後ろから肩を叩かれ、振り向くと、ギルガメッシュとグレアの二人が立っていた。
もうすっかり夜だ。
宿はギルガメッシュが既に取っておいてくれたらしい。
「にしても腹ァ減ったな…。グレア、何か食いたいもんあるか?」
「え、ご、ご飯?私はいいよ、パン食べたもん。」
「何言ってんだよ、それは昼ご飯だろ?夜ご飯の話。」
「夜ご飯…。そ、そうだよね、うん…。変なこと言ってごめん。
えっと…えっと…わかんない…。」
にひ、とギルガメッシュが笑う。
「俺様のオススメ、食わせてやるよ。」
「これは…俺、見てるだけで胃もたれしそう…。」
分厚いステーキが前に置かれる。
ギルガメッシュのステーキは俺のよりも大きい。
グレアのは少し小さめだ。
「ナイフとフォーク、使い方わかるか?」
「ううん、知らない。」
「いいか、こっちの手でコレを持って…」
ギルガメッシュは何だかんだで面倒見がいい。
きっと、今までたくさんの人に慕われてきたのだろう。
「ご飯って、美味しいんだね。」
「ったりめェよ。飯は世界を平和にするからな。」
満面の笑みを浮かべ、嬉しそうなグレアを見るのが辛い。
嫉妬なんか、そんな物じゃない。
ただ、育った環境、見知った世界、グレアの中の当たり前、全てが俺と違いすぎる。
どんな仕打ちを受けてきたのか、僅かでも想像できてしまう。
こんなに綺麗に自然に笑えるのに、その笑顔を今まで封じられていたんだと。
「ほらぁ、キュクロス、ギルガメッシュに置いてかれちゃうよ。」
手を引く少女は俺より幼いのに、俺より過酷な世界を知っている。
「グレア…元気になったな。」
「私はいつだって元気だよ。」
初めて会った時、屋敷で敵対した時より幼くなったような気がする。
縛るものがなくなり、好奇心に溢れている状態なのだろう。
それが悪い事だとは思わない。むしろ、もっと世界を知ってほしい。
広くて、あったかくて、柔らかくて、優しいこの世界を。




