尋常性リバティー
「にしても、でけェ屋敷だよな…」
手作りのイマイチ分かりにくい地図を広げながら屋敷の中を歩き回る。
「つーか、監視居ないけどなんかしたの?」
どれだけ歩いても人が居ない。
聞いてみたがギルガメッシュも心当たりがないようで。
「ここもなんも無し、と。
さァ、キュクロス。次は大本命の地下室だぜ!」
地図に朱を付け、書斎のドアを開ける。
本棚を動かし、隠し階段を出現させ、お互いの間を吹き抜ける不吉な風を感じながらゆっくりと階段を下りていった。
「鉄格子があるだけで、他には何も…」
部屋の奥からコツコツと階段を下りてくる音が聞こえ、咄嗟に息を潜める。
鉄格子の奥にあるドアが開いた。
「あそこ、ドアがあったのか」
「全く。さっさと見つけ出して…」
女の子の腕を掴み強引に引きずる男。
その手にはボロボロのヴロミコー。
こちらの存在に気付き、ニヤニヤと笑う男を睨みつけながらただ時間が過ぎるのを感じていた。
「おい、下種女。よかったなぁ。
俺が殺せと命令した客が向こうから来てくれたぜ。
わかったらとっとと殺せ!!」
叩きつけるように部屋の中へ投げると、くつくつと笑いながらドアを閉め、姿を消した。
「ヴ、ヴロミコー…大丈夫か…?」
部屋を二分割する格子のドアを通り抜け、彼女の元へ近付く。
手を伸ばすと、ギルガメッシュに引き戻された。
「おい!何すんだよ!」
ギルガメッシュの方を向き、怒りを顕にする。
「アホか。罠だったらどーすんだよ。」
「罠なはずっ…!」
バッと振り向くと、ヴロミコーは俺の手があった場所を掴んでいた。
「残念…残念…貴方達を殺せたら、解放してもらえたのに…。
貴方達だって、一度は連れ出してくれても、最後まで守ってはくれないんでしょう!!
だったら、殺して解放してもらえる可能性に賭けた方が幸せ…。
ねぇ、だから…私を救いたいと思うなら、私の為に何かしたいと思うなら、私に殺されてほしいの!」
「ギルガメッシュ、彼女は丸腰だ。
いくら俺らの命を狙ってるとは言え、可哀想じゃないか?」
俺は甘いのかもしれない。
でも、女の子相手に二人で斬りかかるのは可哀想だろう。
「よくそんな呑気なこと言ってられるなァ。
テメェ、俺様が居なかったら今頃死んでたぜ。」
ギルガメッシュが俺を持ち上げ、距離を取る。
再び鉄格子越しに見合うと、ヴロミコーはよろよろと立ち上がった。
「どうして逃げるの?私のこと、助けに来てくれたんでしょう?
なんで、なんで、なんで!!逃げるなッ!!」
鉄格子を掴み、ガシャガシャと音を立てながらヒステリックを起こす姿は、底知れない恐怖を感じさせた。
握られていた鉄格子をいとも容易く破壊し、こちらへ近付いてくる。
「あれを一瞬で壊すほどの力が?」
「いや、違ェ。一瞬で錆びさせて脆くしたんだ。」
ギルガメッシュの言う通り、ヴロミコーの手から、ポロポロと錆が落ちていた。
「素敵でしょう?美しいでしょう?
こんなのがあるせいで私は今の生活を強いられているの。
二人とも、同じようにしてあげる…。」
ヴロミコーの姿が消え、俺の目の前に手のひらが現れる。
なんとか咄嗟に回避すると、彼女は悔しそうに激しく憤っていた。
「はっ、困ったレディだな。
俺様に任せとけよ、キュクロス。」
武器をしまった状態で彼女の元へ近付いて行くギルガメッシュ。
「殺されてくれるの?私の為に?」
「いいや、俺様はテメェをあの男から切り離す為に近付いた。」
切り離すだとかなんだとワケのわからないことを言いながら彼女の前に立ったギルガメッシュは、優しく包み込むように抱きしめた。
「…は?なにやってんの…?」
「な、なんなの…?」
俺もヴロミコーも意図が理解できず、呆然としていた。
「ま、まぁ、そちらから出向いてくれるなんて、ありがたいし…。」
抱き返す形でギルガメッシュへ確実な死が近付いていく。
やがて鎧はボロボロになり、骨が丸見えの状態になってしまった。
「貴方が、彼の言ってたスケルトンなのね!
どうせ彼もこの後死ぬことだし、教えてあげる。
来世また会えたとき、私の攻撃で死ななくて済むように…。
私の手は、無機物だろうとなんだろうと、"殺す"力を持ってるの。
あの格子は、貴方の鎧は、殺されてなんの役にも立たない錆になった。
私ね、気になってたの。人にやったらどうなるんだろうって。
あの男にはできなかった。トラウマを植え付けられているから、目が合うだけで呼吸困難になる。
だから監視の人達で試してみたの!
そうしたら皆、外傷無しの状態で心臓が動かなくなって…。
人間の生きる為の機能が停止されるみたい。
じゃあ、貴方は?どうなっちゃうの?」
「さあなァ…なんせ俺様、もう動く心臓もねェから。」
「ど、どうして…?骨が崩れたりするんじゃないの…?」
なんどもギルガメッシュの頭蓋骨などを触ったりするが、何かが起きる様子は無い。
「この世界は、まだ俺様を人間として扱ってくれてるみてェだな。
ほら、テメェは俺様を殺せない。アイツはテメェを解放してくれない。
だから俺様達がテメェをアイツから切り離す。わかったか?
いつ抜けても良いけどよ、俺様達の旅についてきてくれよ。」
ヴロミコーを抱えたまま立ち上がる。
ボロボロと涙を零し、嗚咽しながら彼女はこくこくと頷いていた。




