可及的速やかな対応をした結果
「ありがとうございます、助かりました。
御二方、お名前をお聞きしても?」
応急処置を終え、ギルガメッシュを組み立て終えたタイミングで、彼が話しかけてきた。
「俺はキュクロス。こっちは…」
「何を隠そう、アンタを救ったのはこの俺様、ギルガメッシュ様だ!ダーッハッハッハッハ!」
俺の話を遮り、勢いよく入ってくる。
マントがはためき、バッチリと決めポーズ。
呆れたように笑い、彼は話を始める。
「私はアレス・アイアースと申します。」
アレス。この人に違いない。
「アレスさん!探していました!
かつて岩月さんと旅をしていたと…。」
「あぁ、リューノスケ。彼がどうかしましたか?」
「何か旅の話を聞けたらいいなと思いまして。」
「ほう。どんな話がいいですか?」
「どこを目指して旅をしたかを聞きたいです!」
「全能の欠片を求めて蜃気楼へ行ったと…。」
おそらく、ここで言う全能の欠片とは常ノ理のことだろう。
「ええ。他には何か…」
「…おい、まだ生きてたみたいだぜ。」
何かを調べていたギルガメッシュから声がかかる。
たしかに、先程から風を感じる。
そう感じたのもつかの間。アレス・アイアースを中心として風は強さを増し、やがて彼を包み込んでしまった。
「アレスさん!!」
俺の叫びは届くこともなく、強風にかき消されてしまう。
「―――あは。あはは。
この身体、悪くないねぇ。筋肉量も、体力もいい感じだ。」
風のカーテンから現れたのは、アレス・アイアースの姿をした別の何かだった。
「さっきはよくもやってくれたね。まさか、僕の風を利用するなんて。
でも、今度の僕は一筋縄じゃいかないよ。こんなに良い身体を手に入れたんだ。
それじゃあ、準備は良い?すっごく速いけど、見失っちゃダメだよ?」
準備運動を済ませた彼はスタンディングスタートの体勢になり、消えた。
走り出したのか?きっとそうだ。渦巻く突風が物語っている。
「どうしよう、ギルガメッシュ!こんなんじゃ攻撃できないよ!」
下手に動き回ることはせず、その場で剣を構えて待つ。
「スケルトンの方が危ないかと思ったけど、本当に警戒するべきは君だったんだね。でも、この速さじゃ、君も攻撃できないでしょ?
あはははっ!残念!あのスケルトンも端っこに逃げちゃったよ!
ねぇ、どうするの?絶望に打ちひしがれる?それとも、まだ戦う?」
こんな速度、どうもできるはずがない。
でたらめに剣を振り回せば当たるだろうか。
「俺様は逃げたワケじゃねェ…」
懐からリボルバーを取り出したかと思えば、六方向に一発ずつ発射した。
「これはちょっと特別な弾でなァ…。
名付けるとするなら、跳弾!
逃げられねェぜ…!!」
部屋の中を弾丸が飛び回る。
当然、部屋の中に居る俺やギルガメッシュにも被害者が出るはずだが
「当たらない…?!」
「おうよ。これは狙った対象のみに命中するまで跳ね回る特殊な弾だ!」
跳ね回る弾丸が1発しか残っていない
がしかし、ヒットしたような様子は無い。
「あいつ、アレス・アイアースって言ったか…。」
そう呟いた後、ギルガメッシュはその場で匍匐の姿勢になり、弾丸をもう一度、六発、発射した。
「お、おい、何してんだよ。そんなしてること場合じゃ…」
「うぐぁっ?!なんだこの身体は!!」
いきなり彼が俺の前に現れ、倒れる。
「へっ、やっぱりな。
なぁ、キュクロス。アキレウスって知ってるか?」
「あぁ、アキレス腱を貫かれて死んだって言う…。」
「そう。そのアキレウス。
おそらく、ソイツと同じ力をアレス・アイアースは持ってる。」
「は、はんっ。別にその程度じゃ僕は止まらないよ。」
また走り出した。
だが、先程のような速さは無く、姿は見えるようになった。
「やっぱり、スケルトンの方が危険だったんだね…!」
歓喜もつかの間、加速を続け、再び姿を消した。
「またかよ!」
「まあ、任せとけ。」
間を置き、勢いよく拳を突き出すと、彼の顔面を直撃する。
「俺様にはお見通しだ!ダーッハッハッハッハ!」
ギルガメッシュが彼を羽交い締めにし、こちらへ声をかけてくる。
「俺様ごと、コイツを貫け…!」
「で、でも、そんなことしたら、ギルガメッシュまで…」
「お前との旅、楽しかったぜ。夢、叶えろよ。」
「そういえばギルガメッシュって不死じゃん。」
「がっ…あ…ぼ、僕のコアが…こんな、こんな!!
くそう…ふざけやがって、茶番を挟むようなヤツらに…!」
身体に深く突き刺さった剣を抜き、コアの完全な消滅を確認する。
アレス・アイアース、救出成功。
かと思われたが、その後、目を覚ますことはなかった。




