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まだ半分



◆まだ半分



「みなさん……」

 フェニは不安とも安堵ともとれる表情をした。

「間に合わなかった」

 サティ、ニロ、アニスが彼女に駆け寄る。

「無事だった?!」

「フェニ姉よかった!」

「あれぇ?! この服もしかしてさっきわたしたちを送ってくれた使用人さんだよねぇ?!」

 燕尾服に身を包んだフェニは申し訳なさそうな顔で笑った。

「ご迷惑をおかけしました。ようやく思い出して、今やっと戻ってきました。これ」

 フェニは僕らの写真を懐から取り出した。

 写真はニロに渡し、そして、踊り場にいる僕は方まで駆けてくる。

「ロロル君、私、あなたを疑ってました」

「しょうがないよね。マナを伝えてあげられなかったんだから。ごめんね」

 僕は努めて冷静に話した。

「いいえ。現世でのことです。私が書いたラブレターを覚えてますか?」

「ラブレター……? なんのこと?」

 話が読めない。

「やっぱり……。黒江君の言う通りでした。私は今和野君にラブレターを書いたんです。そして返事をもらいました。その内容が酷い罵詈雑言に溢れていて————」

「ちょっと待ってよ! 何を言ってるか分からない! 返事なんて僕は」

「そうです。あのラブレターの返事は誰かの捏造でした。だけど私はそれをきっかけに、学校に爆弾を……」

 フェニは涙ぐんでいた。

「つまり賢木さんはハメられたわけだよ」

 黒江が倒れたまま言った。血を流し、呼吸も荒く、それでも顔だけは微笑んでいた。

「黒江君!? まだ間に合う!」

「ぼくは彼女の話を聞いた時から、そうじゃないかと言ったんだ。カズ君がそんなフリ方をするはずないとね」

「黒江君、喋らないでください! サティ! 回復魔法をおねがいします!」

「何言ってんのよ! そいつはアンタのこと散々痛ぶって……」

「違うんです! 早く治療を! 彼は私に何もしてません!」

「大丈夫だよ。賢木さん。僕は今『死んでくことを忘れてる』から。まぁいつまでも保たないけどね」

「なんなのよ! わけ分からないけどしっかりしなさい! 【ソレイスリップル】!」

 サティがやってきて、黒江の傷口に手をあてがう。鈍く光るマナが傷口に吸い込まれていく。

「ねぇフェニ、一体どういうことなの……!?」

 僕は、とんでもないことをしてしまったかもしれない。

「彼は私の話を聞いて、真実を確かめるためにこんな芝居打ったんです」

「違うよ賢木さん。ぼくはね、カズ君と、嘘でもいいから幸せに過ごしてみたかったんだ……。たまたま結果として、カズ君の賢木さんへの気持ちを証明する形になっただけなんだよ。押し殺されてきた『好き』って気持ちをね。羨ましいなぁ」

「黒江…………」

 彼には初めから、ずっと、悪意なんてなかったんだ。傷つけたくて傷つけるなんて、そんなことしていなかった。

 猫を殺したのは彼なりに猫を助けるため。鳥を踏み潰したのも苦しみを終わらせるため。僕の腕を折ったのも、今のこの状況も、こんな僕のこと、好きでいてくれただけなんだ。

 ただ人とは違う考え方があったから、伝わらなかった。

 普通になりたかった……彼のその言葉が今になって僕に重くのしかかった。

「黒江、もっと別の方法を考えてくれよ……。なんでこんなまわりくどいこと」

「ダメだよカズ君。ぼくはほら、周りと違うから。考え方が狂ってるから。ダメだったんだ。頑張って、人の気持ちを考えたんだけど、分からなくてさ。ぼくのことも、誰も分かってくれない。もしかしてぼくを斬ったこと気にしてるのかい? いけないな、後悔なんて。復讐者なんだろ? そんな心、亡くしてしまえ」

 僕の頬を熱風が撫でた。炎が強まっている。

「みんなぁ! この館もう危ないよぉ! 燃えることを思い出したみたいでどんどん燃えてくよぉ!」

 ニロがお湯のシャワーを辺りに撒き散らしながら叫んだ。

 アニスも火を消そうと大慌てだ。

「少しずつ傷がふさがってきたわッ」

 サティは額に汗をかきながらも、必死に回復魔法を施してくれている。けれど黒江の呼吸は荒かった。

「カズ君。ぼくはそろそろ死ぬことを思い出しちゃうんだけど、ぼくが死んだら他のクラスメイトたちがどうなるか分からない。きみを思い出して、またイジメに来るかもしれない。気をつけてね」

「こんな時に人の心配をしないでよ」

「まだ復讐を続けるのかい?」

「うん」

「じゃあ教えておくよ。ぼくときみのことを忘れさせたのは、学校の生徒だけじゃないんだ」

「あいつらだけじゃない……?」

「女神様、だよ」

 黒江はパルフェにスキル【忘却】をかけた?

 パルフェは僕のことを忘れて自室でゲームしていた。

「女神様にもスキルは効くんだよ」

「……何が言いたいの?」

「賢木さんが爆破犯なんて、ぼくには到底思えないね。スキル授与式の時に、太刀川さんが女神を斬りつけたんだ。女神はそれに炎の魔法で対抗した。その炎のはね、学校を燃やした炎と同じ不思議なオレンジだったんだよ」

 オレンジの炎。

 ピクニックボックスが壊れた後に会ったパルフェが出していた。あの炎と、あの日の爆炎が同じ? つまりそれって————。

「冤罪じゃないか!」

 いやそれどころか。

「私は学校を爆破なんてしていない……? もしかしてあの返事を用意したのは女神パルフェ?!」

 死にかけた僕を転生させただけじゃない。パルフェは賢木藤美を利用し、爆破犯に仕立て上げた。そしてオレンジの炎の魔法で生徒たちを爆撃し、異世界に多くの魂を招いたんだ。恐らくパルフェが楽に得するためだ。

「許さない!」

 僕は思わず叫んだ。

 フェニが傷ついたのは全部、全部アイツのせいだったんだ!

 スッと僕の頬に手が触れた。そんな顔しないでくれと言うように、黒江は目を細めた。

「そうだ賢木さん。あの日保留したきみの質問への答えだけどね」

「そんなこと……。もう喋らないでいいんですよ」

 フェニは申し訳なさそうに言った。

「大丈夫さ。ぼくは人の痛みがなかなか分からなくて、突拍子のないことをする事が多かったんだ。そんなやつには誰も声をかけてくれなくてね。でも彼はある時、ぼくの行動を見て、考えてくれたんだ。『助けてあげたんだよね』って、必死に考えて、ぼくのことを理解してくれたんだ」

 それは、彼が轢かれて苦しんでる猫を殺した日のこと。

 僕はなぜ彼がそんなことをするのか、必死で考えたんだ。

「それだけ。結局フラれたけど」

 フェニは黒江の頭を撫でた。

「フラれるって、辛いですよね」

 嘘の返事を読んだ時、フェニも失恋している。

「あぁ。死にたくなるね。不死のカップルに敵うわけない。きみを忘れることにしたけれど、それなのにまた現れるなんて」

 彼は自分の傷に触れ、血に濡れた指を唇に滑らせた。彼の唇が真っ赤になる。その指は僕の唇にも触れた。

「でもさカズ君。これでぼくは、きみの終わらない人生の中で、なれたよね? そうなろうと必死だったんだよ」

「なれたって、なにに……?」

 黒江は微笑んで答える。

「死ぬまで一生、忘れられない人にさ」

 その言葉を最後に彼は目を閉じた。

 黒江。クロエ君。僕はもっと君と話したかったよ。

「ロロル君……」

「悪いけどアタシ、蘇生魔法はまだ会得してないわ」

「ロロルぅ! もう火を抑えられないよぉ!」

「ロロ兄! そろそろ逃げなきゃマズイにゃ!」

「うん」

 僕は黒江の頬を撫でた。

「忘れないよ。たとえ忘れたって、無くなるわけじゃない」

 忘れることは傷とは違う。

 ふとした瞬間、君を思い出すよ。

「行こうか」

 僕らは黒江をその場に残し、燃え上がる館から逃げ出した。

 大通りの方が騒がしかった。

 炎と煙のせいだ。消防が近づいているのかもしれない。

「一旦逃げましょう。クラフトに見つかったらどうなるか分かりません」

 僕らは静かな方、墓地の方へと走った。

「これからどうするんだにゃ?!」

「とりあえず新居に帰らなぁ〜い?」

「アイツ……、アタシたち5人が暮らせるようにあんな広い家をくれたのね。鍵だって最初から5本あった」

「家なんてくれたんだ……」

「これから他のクラフトたちがどう動くのか気になりますね」

 もし黒江が死んで【忘却】の効果が切れるのなら、クラフトたちが近頃行方不明になっている仲間、同窓会でのこと、それらを今和野一に結びつける可能性は高い。そうなったらおちおち王都にもいられないだろう。

「まぁクラフトはさておきぃ、フェニが戻ってきてくれてほんとによかったぁ〜!」

「その通りだにゃ! フェニ姉、とっても心配したにゃ!」

「本当に、すみませんでした」

 走りながら、フェニと目が合った。

「それにしてもロロ兄の告白斬り、カッコよかったにゃ」

「そおそお〜。フェニが好きだぁ〜斬り……ねぇ〜?」

「いや……あれはさ」

「ロロル君……」

 フェニが真っ赤になっている。恐らく僕もだろう。

 戻ってくれて本当によかった。

「私も、戻ってこられて、またみんなと会えて良かったです」

「うんうん。……ん?」

「あの……あれ? いま私、ロロル君のマナが聞こえました」

 僕のマナがフェニに通じた?

「くぅっ!」

 あ、嬉死んだ。

 倒れる前に彼女を抱きかかえた。そのまま走り続ける。

「なんてことよ!」サティが大きく驚いた。「双方向の……マナ通い……。アンタたちまさか、ついに……!」

 蘇生したフェニが照れ臭そうに言う。「いえ、その……少しだけですけど」

「少しって何よ! どういうこと!? キスだけってこと!? えっ!?」

「サティそれどういうことぉ〜?」

「な、なんでもないわよ……!」

 スピードアップしてトップを激走するサティ。

「ねぇどういうことぉ〜?」

 追いかけるニロ。

「逃げられたら追いかけたくなるにゃ!」

 アニスが四つん這いになって2人を追う。

「ロロル君、もう下ろしてください……」

(恥ずかしくて死にそう……!)

 顔を赤く染めるフェニ。

 かわいいなぁ。

「そ……そんなことないですよ」

「あ、聞こえちゃったか」

 僕の心がマナを通してフェニに届いた。

 やっと、こうして通じ合えた。

 死の呪いで繋がったあの日からフェニの声は聞こえたけど、僕の心は彼女に届かなかった。邪魔されていたからだ。

 疑わせてしまってごめんね。

「いいえ、もう大丈夫です」

 僕の心の中にある、自分自身を否定する呪いの言葉も、今は好きな人たちの声で聞こえない。みんなが僕を肯定してくれたおかげなんだ。

 僕自身にかけられた呪いが解けた。黒江がきっかけをくれた。みんなが解いてくれた。

「みんな!」前を走る3人に言った。「ありがとう!」

 ちゃんと声に出して伝える。

「どういたしましてぇ〜!」

「ボクの方こそありがとにゃ!」

「なによ、あらたまっちゃってさ。……うわっ?!」

「サティ捕まえたぁ!」

「そんなニロ姉を捕まえたにゃ!」

「離れてーーーー!」

 本当に、みんなありがとう。

「私も、ありがとうございます。でももう下ろしてくれていいんです」

「そうか。じゃあ下そうかな」

 言ってる間にもフェニの本心が伝わってくる。それを受けて僕の心が騒ぐ。更にフェニが僕の本心を聞き取る。

 結局抱きかかえたまま、抱かれたままになった。

(死ぬまで一緒)

(うん、そうだね)

 死ぬまで……それは僕らにとって永遠を意味する。

 墓地を進んでいく。

 あと何人ほど僕の復讐相手は残っているんだろう。

 半分くらいかな?

 もう半分か。

 いや、まだ半分。そう捉えた方が幸せだよね。

 僕たちは復讐者。

 お前らが忘れたって、この怨みは無くならない。ゆるさない。

 僕を苦しめた学校のやつら。

 そして女神パルフェ。よくもフェニを爆破犯に仕立て上げてくれたな。一年も奴隷として痛めつけてくれたな。お前も、決してゆるさない。

 必ず復讐する。

 残らずみんな呪い殺してやる。

 墓穴を掘って待っていろ。


 Till Death Do Us Part.

 死が僕らを別つまで、この怨みは忘れない。







『ティル・デス 』心を亡くした復讐者編


おしまい




朱々


貴重な時間を割いてまで、


『ティル・デス 』心を亡くした復讐者編


を読んでいただき、本当にありがとうございました。

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