復讐! 水分補給
◆復讐! 水分補給
平が倒れた。
オーディエンスたちは沈黙の後に、雄叫びを上げ、僕へと飛びかかってきた。
呪いによる激痛に見舞われたまま、剣を振るう。しかし数が数だけあり、僕はものの1分でボロボロにされてしまう。まるで中身が綿のぬいぐるみだ。どこに力を入れても痛みが起こるだけで体は動かない。
「ロロル君!」
その時、闘技場にフェニ、ニロ、サティが入ってきた。
「みんな!?」
潰れた喉で言った。
「上でお酒を飲むよう強いられたので抵抗してしまいました」
「ここ食べ物ナッツしか無いんだよぉ〜?」
「アンタが心配だから来たんじゃないんだからね!」
3人とも僕の現状を見て色をなした。
彼女らの中でも、ここにいるグラップラーたちが復讐対象として認定されたようだ。
「覚悟することですね。これから苦痛を伴って死ぬことを」
長い黒髪をなびかせ、敵の間を縫うように駆けるフェニ。彼女の通った道筋に激しくほとばしる血飛沫。
「なんでどこの世にもこういう輩がいるのかしら」
サティが強力な魔法を連発。色とりどりのマナの光に彼女の銀髪が美しく照らされる。
「食べ放題ばんざぁ〜い!」
ニロは服を脱ぎ捨て水着姿に。腹部に大きく開いた、奈落へと繋がる口で敵を噛みちぎり、呑み込んでいく。
吉野や平の精神が、こんなにも人々を夢中にされているだなんて、信じたくなかった。
けれど、起こったことは起こったことだ。
【怨呪】
敵を呪殺する。
ダンジョンコアの一件でマナ保有量が増えたおかげで、僕はほぼ無尽蔵にスキルを発動することができた。
呪殺、呪殺、呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺呪殺————。
1人残らず、だ。
「お前ら、ふざけやがって! 殺してやる!」
失血のためか、動けなくなっている平大伝。
「お待たせ。今和野一が復讐しに来たよ」
平は両膝をついたまま、ジッと僕の顔を見た。
「お前……今和野なのか?!」
この反応にも飽きてきた。
「そうだよ。ぴょんぴょんウサギ跳びをしてた今和野だよ」
平はハッキリ思い出したらしい。「ケンちゃんケンちゃん……」と呟きながら、目を泳がせる。ケンちゃんはもうこの世にはいない。
僕は少しジャンプして、天井の配管を斬った。
ガコン、と音がして、切れた配管の端が床を叩いた。水がダバダバと溢れてくる。
「たくさん動いて疲れただろ? 水を飲みな?」
僕は平の口に配管をあてがった。
「ぐぼっ、べばぼッ!」
配管の口径はギリギリ平の口にはハマらなかった。
「拡張だ」
剣で平の口を斬った。
「これで咥えられるね」
平の口に配管はフィットした。
「ベガぽぼぼべッ! がべッ! ぼぶぼおッ!」
平は水を飲まざるを得なかった。
平の腹部がみるみる膨らんでいく。
僕は平の腹を蹴った。
「グァエェエエェェア!」
平が濁った水を盛大に吐き散らかす。
「ダメだよ。ちゃんと飲まなきゃ」
かまわず水を飲ませる。
腹を蹴る。
吐かせる。
水を飲ませる。
吐かせる。
飲ませる。
吐かせる。
平が吐く水が赤く滲んできた。
彼は嘘みたいに震えていた。
それでも飲ませ続けた。
そして、平大伝は死んだ。
闘技場にいるのは、僕ら4人だけだった。
周りにあるのはニロの夜食ぐらいだ。




