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VS平大伝



◆VS平大伝



 平は吉野のピアスを拾うと、自分の右耳に付けた。


 向き合うと見上げるほど大きい。身長は190に届かないぐらいだったか。


 呪殺はしない。楽に死ねると思うなよ。

 とりあえず無力化しなければ。


「ケンちゃん……」


 彼はそう呟き、僕に一瞥をくれた。

 体が痺れたようになり、身動きがとれなかった。僕はたった一歩で目の前までやったきた平を視線で見上げるしかなかった。


「フンッ!」


 視界が逆さまになった。僕は腰あたりを軸に回転して、地面に倒れた。平のパンチによるものだった。


「ケンちゃんをどこにやった?! 言え! ここへ連れてこい! ケンちゃんはどこなんだ!?」


 胸ぐらを掴まれた。目の前に配管がある。長身の平に持ち上げられ、舌を出せば天井に届きそうな高さに僕はいた。


「ない頭をひねって考えるといい」

「お前……!」


 平は口の端から垂れる涎にも気付かず、怒りに満ちた眼でただ僕を睨みつけた。


「お前の大好きなケンちゃんはね、眠ったよ。もう目覚めることのない夢の中でクソでも垂れてるんじゃないか?」

「うああああああああ!」


 天井に叩きつけられた。首のあたりからみずみずしい若木が折れる音がした。

 死んだんだ。それなのに平は床に伏した僕を踏み続けた。

 体中の骨が折れる。秋の森を歩くみたいな音が鳴り続けた。


 平の地団駄が止む。


 何回死んだのだろう。蘇生した僕は壁まで走り、ショーテルを掴んだ。

 そばにいた男を斬りつける。血がほとばしる。自分のではない人肌の熱が僕を濡らしていく。


「お前、なんで……?!」

 平が驚愕の表情で振り返った。


「お前への怨みを晴らすまでは死ねないんだよ」


 僕は平へ急接近。反射的に顔を守った彼の腹部を斬りつけた。


「グゥアアアアア!」


 平の悲鳴によって闘技場は異様な空気に包まれた。


「ふざけるなァ!」


 大ぶりの一撃が来るのが分かった。距離を置こうとしたけど、脚が動かなかった。そのままアゴを蹴り上げられる。


 ボキンっ!

 真後ろのオーディエンスが、真っ逆さまに見えた。


 死んだ。でも終わらない。

 起き上がると同時に振り抜いたショーテルは、平の太腿を斬った。すぐに次の一撃を与えようとしたが、また体が動かなくなる。そうか、平のスキルなんだ。


「ケンちゃんのカタキだぁ!」


 腹部に激痛。


「死ねぇええええええ!」


 枝の音が連続する。周りの男たちが床に夕食を吐いた。


 どうやら僕は死と再生を繰り返しながら、肋骨を何度も引き抜かれているようだった。


 平の目を蹴った。掴み得た一瞬の自由を使い、平の脇を斬る。見え透いた反撃のパンチを、彼の股をくぐってかわすと、更に背中を斬りつけた。


「お前のスキルが分かったぞ。平大伝」

「何ィ?!」


 まったく、現世とそのままだ。


「大方、【威圧】とかだろ?」


 体が動かなくなっていたのは、平に【威圧】され、萎縮していたからだ。


「食らえ!」


 剣を振るうも連続攻撃はできなかった。「その通りだ!」と叫んだ平に、振り向き様で殴られてしまう。


 また死んだらしい。一瞬意識が飛ぶ。


 平が僕のショーテルを掴み、膝を支点にして折ろうとしていた。

 アニスの刀が!


 僕が復讐のために死ぬのはいい。

 でも彼女の作品を壊したくはない。いっそ呪いで平の手足をちぎろうかと思ったが、その必要はなかった。


 ショーテルは折れなかった。平がどんなに力を加えようと、歪みも曲がりもしなりもしない。

 アニスの打ったショーテルは凄まじい性能を誇っていた。


 僕は『剣に触れると全身に激痛が走る呪い』を平にかけた。

「んグゥ!」

 平が痛みでショーテルを落とす。僕はそれを掴む。

 全身を激痛が襲う。

 平のスキルで体が萎縮する。

 それでもアニスの剣は手放さない。

「やァ!」

 僕は渾身の力で平大伝を斬りつけた。




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