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復讐! イマワノ・オブ・ザ・デッド



◆復讐! イマワノ・オブ・ザ・デッド



 マシンが砕け散り、屑鉄の中に島田は埋もれた。

 僕のカプセルも壊れた。新鮮な空気を吸ったところに、アニスが笑顔で飛び込んでくる。


「やったにゃ! あんなにおっきい敵を倒したにゃ!」

「うん! すごいやアニス!」


 アニスを抱っこしながら踊るように回る。このまま舞踏会でも開きたい気分だけど、やることが残っている。


 島田を引きずって、フェニたちが用意してくれた会場へ。


「やめてください……俺に何を……?」


 ボロボロになった島田が恐る恐る尋ねてきた。


「復讐さ。この雑木林でゲームをするよ? さぁ、サイレンサー付きの銃を作れ」

「ハイ……あの、どれぐらい……?」

「好きなのにしな。予備のマガジンは一つまで」


 島田は映画でよく見かけるアサルトライフルを製造した。


「ハァ……ハァッ……」


 さっきの大物を製造した反動でMPが底をついているようだ。でも出してもらわないと困る。


「出したら首輪と鈴もだ。付けろ」


 僕は剣を振るい、彼の服を切り裂く。腰のベルトも切る。

 物は揃った。


「これからお前が好きなハンティングをしてもらう」

「ハンティング……?」


 服は下着だけ。首には大きな鈴をつけた島田。僕はその体を彼が落とした拳銃で撫でる。


「そう、ハンティングだ。この森の中に魔物を配置しておいた。お前は限られた弾でできるだけ多くの魔物を撃つんだ。ちなみにターゲット以外に銃を向けると痛い目を見る呪いをかけておいた。試しに僕に銃を向けてみな?」


 島田は恐る恐る僕に銃を向けた。彼の人差し指が切れて地面に落ちた。

 顔を歪ませ悲鳴を上げる島田。自分の出血には慣れていないようだ。


「そうなる。分かった?」


 無言で何度も頷く島田。


「あと、逃げようとすると痛い目を見る呪いもかけてある。試しに逃げてみるか?」


「いいえ、いいえ! 大丈夫です……!」


「そうか」


 僕それからわざと黙りこみ、島田をじっと見つめた。島田が僕の言葉を待っている。恐ろしいことを言うのではないか、言わないでくれと真に願う表情だ。たっぷり溜めて、僕は口を開く。


「大丈夫か、分かったよ。じゃあ質問は?」

「あの、どれだけ多くの魔物を倒すと、その……いいんでしょうか?」


「ん? 質問の意味が分からない」


「だからその……何匹撃てば、俺は助かるんでしょうか……?」


「なんだそういうこと! お前は助からないよ。ただたくさん撃った分だけお前が死ぬ前に味わう苦痛が変動するんだ」


「あ、あああ……」


 島田は絶望で歯の根が合わなくなっていた。


「ズルしないようについていくからね。諦めて頑張れ、島田幸作。これはお前が僕に、今和野一にしたことなんだよ」


「今和野……?」


「そうだ。一年前の学校を思い出せ。そこにいただろ。今和野一」


「あぁ! クラスメイトの、今和野一……!」


「思い出のゲームだ。ほら……よーいどん」


 ふらふらと走り出す島田。僕はショーテルを手についていった。

 林の中を青い火の玉がいくつも飛び交う。アニスの技は、操る対象が多くなるほど単純な動きしかできなくなり、マナも使うらしい。大変だろうけどここはアニスの正念場だ。


 草や木の陰から、魔物の死体が次々と飛び出してくる。

 ニロの奈落に落ちていた死体だ。僕とアニスが島田の家に潜入してる隙にフェニとニロに配置してもらった。


 夜の林に銃声が響き渡る。


「同じ魔物を撃ってもカウントしないからね」

「でもこいつらッ!」


 撃ったって元々死体だ。何度でも立ち上がる。そして島田に牙を剥く。


 ニロが丸呑みできるほどの大きさだから魔物は小型のものばかり。それゆえに弾を撃ち込まれれば吹き飛ぶ。でも自分に迫る魔物ばかり撃っていたら新しい獲物は探しに行けない。だから魔物に噛まれながら、引っ掻かれながら、島田は走らなければならなかった。


 島田は首に付けた鈴を押さえている。鈴の音は鳴らないが別にそんなのただの飾りだ。手をそんな無駄なことに使うものだから、銃の照準が魔物に合わない。第一、音が鳴ろうが鳴りまいが関係ないのに。


「ァァア、あぐ、あがァ……!」


 苦痛に喘ぎながら、島田は銃のマガジンを交換した。


「がおぉー!」


 ニロが草むらから飛び出した。咄嗟に銃を向ける島田。


 あーあ。

「ルール違反だ」


 島田の残っていた人差し指が切れ落ちる。


「この子は魔物じゃないよ。ねぇニロ、先に少しずつ後片付けをし始めてくれ」


「はぁい。また食べてぇお腹にしまえばいいのねぇ」


 魔物の死体の群が見つかったら騒ぎになりかねない。


「ん? どうしたのハッピーさん。ほら、撃ちなよ」

「もう許してください……」


 魔物にたかられながら、懇願する島田。僕は彼から銃を取り上げる。


「終わりか……」


 僕は島田の周りの魔物を撃ち、彼から離した。島田に銃を向ける。忘れていた。呪いは僕にもかかっていたんだ。僕の人差し指が落ちる。島田はそれをなんとも言えない青白い顔で眺めた。


「バァンッ!」


 突然の僕の大声に島田は後ろへ倒れた。


 おしまいかな。


「出ておいでアニス!」


 暗がりに向かって呼ぶと、魔物を従えたアニスが出てきた。


「おしまい?」

「そうだね。どうする? 最後は」


 アニスは腰に下げていたグローブを両手にはめた。拳を打ち合わせると緋色の炎がアニスを彩る。


「アニスちゃん……ごめん、ごめん、俺が悪かったよ!」

「ハッピーかにゃ?」

「はい……?」

「今ハッピーかどうかきいてるんだ。おまえはボクを今サイコーにハッピーにしてるんだよ。ボクがハッピーで、おまえはハッピーかにゃ?」

「にゃ、にゃ〜……」

「にゃー!」


 アニスの強烈な右ストレートが島田の顔面を捉えた。それだけでは終わらない。フック、ボディ、炎をまとった拳打が目にも止まらない速さで繰り出される。


【鍛治踊り】(ダンシングスミス)! にゃにゃにゃにゃにゃー!」


 積もり積もった怨みが薪として焚べられて、激しい炎となって燃え上がる。


「ハハッ……子猫がよ、いい気になるなよッ」殴られながらも島田は言葉をつむいだ。「お前なんてカスだ、クズ鉄だ! 世の中にはなッ、俺のように選ばれたスゲぇハッピーなやつらがいるんだよ。だからお前みたいなチビは死ぬまで幸せになれやしねえよ!」


 島田の言葉に、アニスは止まりはしなかった。


「人の不幸を忘れたやつに、ボクの幸せははかれない!」


 アニスのダンスはアッパーで締め括られた。

 打ち鍛えられた島田は焼け焦げて煙を出していた。髪がちりちりと燃えている。

 もう生きてはいないだろう。


「きれいな踊りだったよ。K.O.だね」


 ハッピーだと自分で言っていたし、同情なんてしないけど。


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