VS島田幸作
◆VS島田幸作
ひと気のない場所へと島田を連れていく。
フェニやニロが待っているのはもっと先だ。王都は街の区画などがきっちり決められているのに、城壁近くなどは以外と整備がされていなかった。
島田がブツブツと何か言っている。
僕は後ろを振り返った。木々の隙間に王都の明かりが見えるが、向こうからこちらで何が起こるかは見えないだろう。
アニスの姿はない。危険だから距離を置くように言ってあった。
ゆっくり復讐をするとしよう。島田には既に『逃げようとすると全身に激痛を受ける呪い』をかけてある。
「こんなのおかしい、俺がこんな目に? おかしいぞ、クラフトなのに!」
島田は逃げようとしたのか、腕を掴んでいたドワーフの1人に体当たりをした。そして苦痛による悲鳴をあげる。
「諦めろ島田幸作」
「おかしい! おかしいおかしいおかしい! 俺はこっち側の人間じゃないんだ! こんなことになる理由が分からない!」
「僕もずっとそう思ってたよ。いつもね」
僕は背後から彼に言った。島田は辺りに轟く絶叫をあげた。
「おかしいんだよぉぉお!」
ドワーフの2人が吹き飛んだ。
次は逃げようとしたわけではないようだった。
「うあああああああああああああああ!」
島田のあたりに鉄の塊が落ちた。銃ではない。それが何か識別する前に、塊は増え、集まり、広がり、膨れ上がった。島田はその中心にいた。
まず分かったのはキャタピラだった。戦車の脚となる部分だ。横に飛び出すように刃物が伸びている。ドワーフの1人を巻き込みながら、その場で猛烈に回転する。
さらにキャタピラから生えるように上半身……手や首がのびていく。
左腕はチェーンソーが数本まとめたものだった。設計が甘いようで、時折りぶつかり合う刃が火花を散らす。
右腕はガトリング砲。他にもおまけのようについた小さな銃身は、てんでバラバラな方向に向いている。
頭は大砲の角を生やしている。顔に当たる部分、わずかに空いた隙間から島田の血走った目が覗いていた。臼歯しかない口がバカリと開いた。
「どうだァア! これがクラフトの力! スキル【製造】の最終奥義だ! お前なんかバラバラのホカホカの肉塊にしてやるよ! そんで透明なドラム缶に詰めて、俺らの闘技場に飾ってやるよォオ!」
これはやばい。
1人乗りの殺戮マシンが完成してしまった。
復讐のためにスキルは封じてなかったのが仇となった。もう抵抗する気はないと思ったのが間違いだった。こいつは昔の僕と違い、絶望しても足掻く体力が残っていたのか。
積極的に【怨呪】を駆使して、速やかに無力化しなければ!
ドワーフの残りの1人が突進していく。チェーンソーにたやすくぶつ切りにされる。
ガトリング砲が僕に向けられた。
考える前に走り出す。島田の左側に周る。ガトリング砲は左手を巻き込むのも厭わずに射撃してきた。僕の脚が遠くに飛んだ。とか思っていたら四肢がもげる。
目が覚める。発砲音は続いていた。相手の弾は無限だ。島田の背後へ回り込む。
脇腹に不思議な痛みを覚えた。見てみると何かが刺さっている。刹那、青白い電気の網が僕を包み込んだ。
「グぁー!ッ!」
電撃が止んだ。黒い煙が僕の体中から立ち昇っている。
「死ねぇぇえ!」
左腕のチェーンソーが僕を刻んだ。
体がパーツごとにあたりへ散らばった。
死んだ。
そして蘇生したが、目の前は真っ暗だった。
キャタピラに轢かれたんだ。
蘇生する。クロスボウの矢が刺さった。樹に磔にされる。
大砲が僕の鼻先に触れた。
「発射ぁあああああああ!」
頭が吹き飛ばされた場合、僕の顔は残された体から生えるのかな?
それとも脳漿を集めながら頭が再生する?
こんなに死んだのは初めてだった。
目が覚めると、島田は僕の首から下を更に刻み、ガトリングで吹き飛ばしていた。
あたりは僕の肉体でいっぱいだった。
一体何回死に、生き返り、死に、生き返る前にバラバラにされた?
ショーテルが島田の近くの樹に刺さっている。そちらへ走っていってすぐ、僕はトラバサミにかかった。脚を噛みちぎられるような痛み。
島田が僕に気付いた。臼歯の隙間から笑顔を見せる。いくらか理性を取り戻した顔だった。僕に近づいてくる。両腕の間にカプセルのようなものが製造される。
呪殺しよう。そう思ったけど島田は殺戮マシンの中に隠れてしまった。見えない相手は呪えないようだ。マシンが動き続けていることは島田の生存を意味している。
アレに閉じ込められたらホントにヤバいかもしれない。蘇生したって外に出られなきゃ何もできない。でもトラバサミから脚は抜けない。呪殺もできない。
僕は罠ごとカプセルの中に閉じ込められた。
島田が、にこぉ〜っと笑った。僕はカプセルの中で窒息死し続けた。
「帰ろうか? びっくり人間君」
チェーンソーが回転を止めた。その後ろから湿り気のある音が聞こえてくる。右から背後を振り返ったマシンの顔が猛スピードで左側へと回った。
僕のカプセルが揺れ、転がり、島田から離れた場所へ。
「ロロ兄、ここでしばらく見てるにゃ! アニスちゃんの死人形劇のはじまりはじまり!」
アニスが宵闇に姿を消す。
島田の殺戮マシンの横に立っていたのは、真っ赤な猫の獣人だった。僕の肉塊を集めて作った巨大な死の人形。
ガトリングが猫に向けられた。猫はその下をくぐり、右側からパンチ。島田が頭の大砲をぶつける。死体の人形に痛覚なんてない。首を捻ったまま更にパンチ、パンチパンチパンチ。
「バラバラになれや!」
チェーンソーで体を刻まれてもお構いなし。その場ですぐに再生する。
「にゃ〜〜ん」
図太い鳴き声がした。ガトリングが折られる。チェーンソーが砕かれる。
渾身の猫パンチが、殺戮マシンの懐にクリティカルヒットした。




