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死人遊戯



◆死人遊戯



 島田が住むのは王都の中心、城に近い一軒家だった。場所はもちろんアニスのガイドで。

 僕とアニスと操られた親方2人は、鍵を壊して中に侵入した。生者は奥に隠れ、死者の2人はリビングに待機。首の傷などはバンダナなどで隠して服も着替えさせた。

 フェニとニロは別行動。復讐の会場を用意してもらっている。

 しばらく待って、夜も更けた頃に島田は帰ってきた。顔からはいやらしい営業スマイルは剥がれ落ちていて、少々赤らんだ仏頂面。

 島田幸作————。

 忘れもしない。

 ミリオタだったアイツは度々僕を夜の学校の裏山に呼び出した。「チャンスをやるよ」といつも尊大に言っていた。「10秒待つ」の言葉でゲームは始められる。『今和野狩り』だ。裸にさせられ、首に鈴をつけられた僕は10秒の間にできるだけ遠くに逃げる。参加者はエアガンで僕を撃つ。狩る。このゲームはそこそこ流行り、一回の出場者が20人を越えたこともあった。百均で買ったゴーグルを揃いで装着し、服も長袖長ズボンのハンターたち。一方僕は鈴が鳴らないように片手で握りながら息を潜め、目を守るためにもう片方の手は顔付近に。でもどんなに逃げても隠れても、最後は必ず見つかって撃たれた。

「誰かいんのか」

 鍵を壊されていたのを見て警戒している。手にはスライド式の拳銃を持っていた。まさかエアガンであるはずがない。見つかったら問答無用で撃ってくるだろう。

 リビングのテーブルについた親方2人を見て、彼はいささか気を抜いたようだった。

「なんだよ、オマエらかよ。鍵まで壊してオレの帰宅を待って、一体何の話だ?」

 銃をちらつかせながら、カウンターキッチンに行き、グラスにブランデーを注ぐ。自然な流れで背後を取られないように距離をとった。親方が2人しかいないことに不審に思っているに違いない。

「鍵なんて簡単ニ作れるダろ? あとの2人ならいねエよ。おれたちノ資材置き場でコーサクを待ってる。オマエの秘密を握ってな」

 喋らすことも可能とは、素晴らしい能力を持っていたんだなアニスは。

「あ? なんであんなとこに」

「コーサク、会社ヲ大きくしよウや」

「ちっ。質問に答えろや。言っただろ? 会社なんて作ったらその分従業員増やさないと不自然だ。金も払わねえといけねえし、なにより秘密を共有するやつが多ければ多いほど危険度が上がる」

「知ってルぞ。オマエ新たな稼ぎ口があるンだろ?」

 島田は片眉を吊り上げた。

「だったらなんだよ?」

「おれタチも儲けさせろ。どうせ切リ捨てるつもりだろ? そうはいかねエさ」

「切り捨てる? おいおい、ここまで一緒にやってきたオマエらを切り捨てるなんて酷な事しねえって。だろ?」

 島田は酒瓶の栓をひねるみたいにサイレンサーを拳銃に取り付けた。躊躇いもなく親方の1人に向けて発砲する。

「撃ち捨てる……ってとこかな」

 親方が倒れる。もう1人にも銃口を向けられる。

「チャンスをやるよ。5秒待つ。5————」

 親方が逃げ出す。そこで残った4秒を早口で数えて、発砲。げらげらと笑う島田。安定のクズで安心した。

「役立たずの飲んだくれドモめ。いつかは処分する気でいたがまぁイイ機会じゃねえか。資材置き場って言ったな。人目も無えしうってつけだ。今夜は狩りを楽しむとするか」

 島田は意気揚々と部屋を出ていった。

 僕らは「4人で」後をつけた。


 資材置き場は武具屋街の外れにあった。似たような小屋が立ち並んでいる。埃っぽく、たしかに人目はなさそうだった。雑木林が近くにある。

「アイツら、どこいった? こんなとこに呼び出しやがって。ハハっ! まさか自分の墓場の指定をしたとは夢にも思ってねえだろうな」

「こんばんは」

 僕は後ろから声をかけた。反射的に振り返った島田は僕に銃を向けた。アトリエの上客であった僕の顔を見て、少々困惑していた。急いで営業スマイルを貼り付ける。

「おや! こんなところで奇遇ですね」

 僕はニコッと笑って聞いた。

「その黒いのなんですか?」

「これですか? これは————」

 言葉を待たず、僕は剣を抜き、振り下ろす。拳銃が切れた。

 アニスの剣、ここまでの切れ味だったのか。

「なにしやがるッ!」島田は手をかざした。「スキル【製造】!」

 島田の手の内に一瞬にしてリボルバー銃が現れた。轟音。僕は脚を撃たれて倒れた。

「殺すならもっと手際よくやりやがれ、ボケが」

「ガぁああ! 痛い……!」

「すげぇだろ。俺の魔法はさ。この魔法で俺は今ハッピーを作ってんだよ」

「ハッピーだって?」

「ああ。他国の戦争バカやギャングのヤツらに売ってやってんだよ。争いの火種は増えるなー。そしたらまた誰かが俺の魔法を欲しがる」

 島田は僕の腕を撃った。痛みには慣れてきてはいたけど、僕は大袈裟な悲鳴を聞かせてやった。彼は僕の悲鳴や鮮血に眉の一つも動かさない。慣れっこ、ということか。

「なぁ誰に雇われた? それとも個人的な怨みか? ん?」

「アニスを、苦しめた……。あの子の作品を壊した……」

「アニスだって! ハッ! ヒャハハハハハッ!」

 島田はげらげら笑った。

 そうだ。今のうちに笑っておくといい。

「なんだお前、あの子猫が好きなのかァ?! ぎャははは! まぁそれぞれだよな? タデ食う虫もナントカだ! せっかくの人生だしガマンしたくねえよなァ? もっと早く教えてくれりゃ、ガールフレンドに内緒で売ってやったのによ。ハッピーだろ?」

「なにがハッピーだ。思い上がりもたいがいにしろ」

「はぁ?」島田は僕の脚の傷口を靴先でいじる。「欲しいもん買ったら嬉しくなるだろ? 武器買ったやつはハッピーだ。使ってハッピー。殺してハッピー。俺は世の中に貢献してるんだよ。三流冒険者のお前と違ってな。レベルが、スケールが違う」

「……本気で言ってるの?」

「本気も本気だ。コレらがあれば魔法の修行なんかに時間費やす必要もない。簡単に敵を殺せてハッピーだ」

「たくさんの人がお前の武器で苦しむ。何がハッピーだよ!」

「ぎゃははは! 負け惜しみだそりゃ。いいか、じゃあさ、誰も苦しめないように毎日勤勉に働き清貧に暮らしたとしよう。誰も不幸せになりませんでした。それでめでたしか? 違うね。それじゃあ作れる幸せのレベルがちげぇんだよ。あくせく働くのなんて馬鹿らしい。人を苦しめてでもハッピーにならなきゃ損だ! お前や残りのドワーフども殺して、その墓の上で俺は踊ってやるんだよ!」

 怨みを持ってもいないのに、人の死を喜ぶのか。

「あーそうだ、俺は今日デカい取引が済んでさ。お前なんか足元にも及ばない上客たちが集まったからな。ダチとも上手くいってる。最高にハッピーだよ。だからお前にもお裾分けだ。チャンスをやるよ」

 島田は僕の髪を引っ張り立ち上がらせる。

「10秒待つ」

「ちょっと待って————」

「9、8」

「助けてくれぇ……!」

 僕は背を向けて、足を引きずりながら逃げ出した。島田は早口でゼロまで数え、僕を後ろから撃ち殺した。

「てか、あとの2人はどこにいんだ? あのチビ親父ども」

 もうそろそろいいかな。

「あー痛かったぁ」

 死んだけど銃創なんてたちまち回復。そして蘇生。

「なッ、どういうことだ!」

「ズルしないでくださいよー」

 島田が銃を乱射してくる。弾が無くなると銃を捨て、新たな物を製造。発砲と製造を繰り返す。けれど何度撃ち殺しても立ち上がる僕に島田はついに諦め、腰を抜かして尻もちをついた。

「なんなんだお前……誰だ……バケモンか?」

「僕は今和野一。お前らを殺すために地獄からやってきたんだ」

 僕の横に親方の2人が並んだ。陰でアニスが操っているのだ。

「何でだァ?! お前らまで、なんで生き返ってんだよ……!」

「コーサクぅ、なにモさぁ、殺すこたァねえじャねえかよ」

「笑いながラ殺してくれたな。お返しサせてもらうぜ。いヤぁ〜、ハッピーだなァ」

 親方2人が狂気じみた笑い声をあげた。島田は発砲するが、死人は殺せない。

 地面に這いつくばる島田を親方たちが殴る、蹴る、踏みつける。

 ここは移動した方がいいな。

「だいぶうるさくされたからね。バンバン鉄砲でさ。場所をかえよう。人が来たら大変だ」

 僕はショーテルを島田の腰のベルトに引っかけた。浅く腹が切れて、小さな悲鳴が漏れる。

「チャンスをあげるよ。お前が好きなゲームをしよう」

 楽しみだ。

 雑木林の方へと島田を引っ張っていった。


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