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VS吉野拳太郎



■VS吉野拳太郎



 吉野は目にも止まらない速さで拳打を繰り出してきた。

 全ては避けきれず、いなしきれず。

 彼の拳は何度もアタシを捉えた。

「おジョーさんも運が悪いねぇ……。たまたま尾行が俺にバレたのが運の尽き。それでぶっ飛ばされて、地獄行きだもんねぇ!」

 クラフトはみんなよく喋るわね。

「ごめんね。もうちょっと遊んであげたいんだけど、アタシ今仕事中なのよ。だからそろそろ終わりで」

「強がんなァァア!」

 噴火のごとき火炎が吉野を中心に空へと噴き上がった。1本の火柱。それがシュッと縮んで吉野の身体を包む。

 アタシはクロスボウを構える。

「遠距離武器なんかきかなえよ! ダイデンのやつと毎晩鍛えてんだ! 俺のフットワークを甘くみんなや!」

 全身に炎をまとった吉野の連続攻撃。

「ほらほら痛えだろ?! 熱ぃだろう?!」

 アタシは射撃を行いながら、距離を空ける足運びを続ける。

「んー、たしかに上手く避けるわね」

 吉野にクロスボウを向けても、素早いフットワークで避けられる。拳でクロスボウをはじかれる。広く距離をとろうとしても彼はアタシにぴったりとついてきた。

 撃っても撃っても当たらない。

「【ロックコーラル】」

 地面から岩石製の珊瑚を生やす。

「無駄ァ!」

 吉野は上手く攻撃をかわす。そして閃いたように言った。

「もしかしてお前さ、マナ漏らしなんじゃねえか?!」

 痛いところをつかれた。

「路地裏ん時の連撃も、さっきの岩のサンゴも、なんか分かるんだよなと思ったぜ! マナ漏らしなら合点がいく。だから相手と距離がとれるクロスボウなんかで闘ったんだな!?」

 吉野はアタシを見下し切って攻撃を止めた。

「そう。その通りよ」

 近距離で闘い続けると時折りアタシのマナを感じとる者がいる。

 全員じゃないし、思考の全てでもない。でもたまにアタシの次の攻撃はたまに読まれてしまう。

「バレちゃったか」

 吉野はアタシの尾行にも気付いたし、そして戦闘中に瞬間的なマナ漏れを読み取った。なかなか勘が鋭いことはたしからしい。

「つーわけでやっぱおジョーさんに勝ち目ナシだわ!」

 馬鹿正直に吉野が突進してきた。

「【ロックコーラル】」

「無駄無駄おせえおせえ!」

 クロスボウを連射する。

「当たらねえっての。へへ! その銃口がボイン美女の唇なら喜んで吸い付くんだけどなァ!」

「巨乳好きと、アンタの後ろを顧みない性格が今回の敗因」

 アタシはかまわずクロスボウを連射する。見事に吉野はさばき、避け切った。

「お話聞いてたぁ? 心は読まれ、遠距離武器も当た————」

 吉野はセリフを言い切れなかった。何発ものマナの矢が吉野を貫いたからだ。

「後ろを見てたら、避けたマナの弾丸が跳弾してることに気づけたのにね」

 アタシは吉野を狙いながら、彼の背後に生える岩の珊瑚も狙っていた。このマナの矢はアタシの意図を汲む賢い子だ。目標を貫くのか、弾けるのか、跳弾するのかぐらい判断してくれる。

 たとえ漏れたマナを読まれたって、三下相手じゃなんの脅威にもならない。

「てめえクソ女がァ! 俺はァ、地下のファイトクラブのリーダーなんだぞぉ!? こんなやつに……! 俺のパンチが」

「そのご自慢のパンチ、一発も当たってなかったのよ?」

「なんだって?!」

 アタシがさばき切れなかった攻撃が体に当たってると思ったら大間違い。拳打が来る瞬間アタシは、ヒットする位置に超局所的な風魔法を放っていた。ケンちゃんが殴っていたのは空気のブロックだ。最後まで気づかなかったなんて。

「もしや俺の拳法を見切ってたのか!? なんでだ?!」

「アンタも運が悪いわね。その拳法、アタシ知ってるのよ」

 路地裏でのやりとりから分かっていた。

 こいつは妙蓮寺がニロを操る際に参考にした人物なんだって。いくら妙蓮寺とニロの再現が二流だからって、型が分かっていれば攻撃の予想は容易。だからバレないように防御魔法もできたってこと。

「アタシにご自慢の拳法が通じなくてビックリしてるのね? ずっと地下でイキがってればよかったのにね。下水道の殿様蛙みたいにさ」

「クソ! クソ! こんなチビにッ!」

「教えてあげる。世界は広さだけじゃない。深さもあるのよ。もしアンタがあと100人いたら戦況も変わってたかもね。人目もあったし、念のため場所替えしたのがバカみたい。タイムロス、ターゲットもロスト。ということでアンタにいろいろ教えてもらうことにするわ」

 アタシはマナの矢を吉野の四肢に撃ち込んだ。彼は地べたに倒れ込む。

「これからアンタがどれだけ苦しむかはアンタの回答次第よ。さぁ、島田や他のクラフトのことを話しなさい?」

「あの、俺……」

「ああ! そういえば貧乳ってアタシのことバカにしたわよね? 貧乳って?」

「いえ! あの! 素晴らしいお胸です! 大きくて素敵です!」

「ウフフっ。アタシ、褒められるの大好きよ」

「巨乳です! 大っきくて綺麗です! ダイナマイトボディです!」

「でも嘘つかれるのは大っ嫌い」

「きょっ」

 吉野の真下に炎の円陣が浮かび上がる。牙が生える。目が光る。

「巨乳好きのアンタは諸悪の根源よ! 【ライジングラース】」

 炎の龍が吉野を丸呑みにした。腰を抜かせた吉野を、長い昇り龍が通過していく。龍が雲に到達した頃、ようやく尻尾が地面を離れた。

「キョッ、キョ……」

 丸焦げになった諸悪の根源。

「頑張って! 質問タイムを始めるわよ!」

 吉野は焦げた舌で頑張って喋ってくれた。

 やがてショックが強すぎたのか、死んでしまった。

「やっちゃった! ロロルの復讐対象なのに!」

 吉野の死体は物陰に移動して、隠蔽の魔法をかけておいた。ニロに食べさせなきゃ。

 コーちゃんは武器をあちこちに売ってるみたいだけどそれしか俺は知らない、と吉野は言っていた。情報を引き出す相手としてはハズレだったわけだ。島田をただ見失っただけという結果、か。

 もしもし貝殻を手にする。つい話しかけようとしてしまったけど、向こうは潜入中だったっけ。アタシの声で向こうに潜入してるのがバレたら笑えない。

 音を出さずに伝えられる手段があればいいな。文字を送るとか。次の発明はそれにしよっかな。

 もしもし貝がら、改良の余地あり、と。

 みんな無事でいてくれてるかしら。

 フェニも、ロロルも、平気で無茶するから困る。

 蘇生できるからって、すすんで傷つく姿勢がアタシにはツラくてしょうがない。アニスだってそうだ。ツラいのに無理して笑ってるのは隠し通せない。ニロは……またいきなり飛び蹴りとかかましてなきゃいいけど。


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