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尾行



■尾行



 島田はファストフードをかじりながら、繁華な通りを歩いていた。アタシは気配を希薄にする魔法【ペイルシルエット】を発動し、後をつけた。

 途中、島田は1人のガラの悪い男と会話していた。取引相手ではなさそうだ。魔法で周囲の雑音を排除して立ち聞きしたけど、ただ久しぶりに会った故の挨拶だった。その男とすれ違ったけど、なかなか鍛え抜かれていた。手練れの部類に入るだろう。

 島田は王都の中心に向かう大馬車に乗った。距離を空けて、ついていく。馬車程度の速度なら人混みだからってアタシには関係ない。難なく追跡できる。人の注意をひくことなく、道を駆けていく。

「おジョーさん?」

 耳元で声がした。振り返る間もなく腹部を圧迫された。蹴られたんだ。遅れて痛みがやってくる。アタシの体は宙を飛び、裏路地に転がされた。

 反射的に立ち上がる。でもすぐに胸ぐらを掴まれて壁に叩きつけられた。硬い拳が首元に押し付けられて、呼吸が…………。

「あんたさ、コーちゃん追ってなにしてんだ? 誰だ? 騎士団か?」

 コーちゃん。島田幸作のことね。そして目の前の男、さっき島田と話していたガラの悪い男だった。赤髪で、左耳には黒い勾玉のピアス。左目の周囲には幾何学模様のペイントを施している。

「騎士団じゃない。冒険者よ。おニイさん?」

「冒険者と来たか。じゃあ希望をいっぱいこの小せえ胸に詰め込んでんだろうなぁ?」

「いま…………なんて?」

「貧乳の楽観主義者って言ったんだよぉ? 見たところダークエルフか」

 ハズレ。アタシはエルフ。色素異常でこういう色になったのよ。

「きっとみんなに期待されて森から出てきたんだろ? 『アタシ広い世界を見てみたいワ!』て感じか? ハァ……友達の後を気配消したやつが歩いてくんだ。気になってつけてみりゃ、ハイ、あたり。やっぱり尾行してやがった。なぁおジョーさん、ダンジョンは好きか?」

「どうかしら」

「遠慮すんなって。好きなんだろ? そんなおジョーさんに未攻略のダンジョンを教えてやるよ。行きたいだろ? それはな…………地獄だ」

「あら? じゃあアタシも教えてあげる。希望なんて無く、絶望っていう大荷物をしょって冒険者になった人もいること」

 アタシは全身から電気に昇華させたマナを放出した。

「こんな静電気……小賢しいぜ? ん?!」

 男の足には既に氷のブーツを履かせてある。

 そして頭上、巨大なツララのシャンデリアをご用意した。

「アーはははぁん、面白いねェ。いいじゃん」

 男のカラダが発火した。

 氷が落ちる。

 首を絞めていた手が離れる。

 アタシは瞬時に距離をとり、マナを撃ち出すクロスボウを構え、連射。無属性……いや全属性が練り込まれたマナの矢だ。破裂音と共に強い光がまたたく。

「チッ!」

 アタシは身体強化魔法と、速さや軽さに特化した雷と風魔法を駆使し、建物の上まで跳び上がる。

 今から島田を追うのはムリかしらね。

 屋根伝いに疾走し、通りを飛び越え、ニロと訓練したあの雑木林を目指した。並の力量ならついてこられないはずだけど、ヤツはついてきた。

「おジョーさん! 俺は後ろを振り返らない主義だが、どうやらあんたが楽観的だと言ったのは取り消さなきゃな! じゃなきゃ即座に逃げるはずがねえ。馬鹿はあのコンボで勝ち誇り、お陀仏だ! 雷と氷と射撃の3段構えに悦に入ったまま地獄いきだろうよ!」

 空き地にたどり着く。

「魂胆は見えてるぜおジョーさん。あんたは魔導師として広く間合いがとれるリングの方が闘いやすいと考えたんだろ?」

「そうね。ところで知ってる?」

「んぁ?」

「地獄の入り口では統計とってるのよ。自分の名前の横に相手の名前を書く欄があってね」

「面白いこと言うね! じゃあ俺の名前を教えといてやらねえとなァ! 俺はクラフトの吉野拳太郎だ! とあるバーの地下で秘密の闘技場を牛耳ってるグラップラーさ!」

 ヨシノケンタロー、ね。よしよし。名前はゲット。

 一撃で人相も分からなくなるほど丸焦げになる可能性もあるし、聞いとかなきゃ。

「闘技場? 面白そうね。どこにあるの?」

「知る必要はねえよ」

「教えてよケンちゃん。アンタの訃報の葉書を送らないといけないんだから。アタシはエルフの異端児、サティよ。文字が書ける頭があれば、地獄で記帳しといてね」

「アハハ、面白い面白い。バーはな、『インソムニア』ってんだよ」

「インソムニアね。オッケー」

 居所の情報もゲット。

「知っても辿り着けねえよ。希望あふれるおジョーさんの冒険はここで終了。俺がお前のワールドエンドだ。狭くて小さい世界で涙しな、ちっぱいのおジョーさん?」

 小さく吹き出してしまった。

「胸ばっかり見てるようじゃ、どうやら頭は空っぽそうね。代筆を頼んであげようかしら? アタシ、地獄に知り合いいるから」

「まじ面白いね。笑える笑える」

「そうね。おほほ」

 アタシたちは笑い合った。

 次の瞬間には吉野の拳が目の前に迫っていた。



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