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ドワーフたちのシェアハウス



◆ドワーフたちのシェアハウス



 僕たちは昼間のうちにアニスに作戦を話しに行った。

「ということなんだけど、大丈夫かな?」

「やると決まったらやるよ。ボクも協力するね、にゃ」

 アニスは緊張の面持ちで答えた。

 自分の立場が大きく揺らぐ可能性があるのにその決心をしてくれた。それは恩人であるはずの島田たちが「何をしているか」どうかを知りたかったからだと思う。

「一度話したけど、僕は島田に復讐するよ」

 最後に確認した。仮に島田が潔白でもだ。

「ロロ兄が酷いことされたなら、そうするべきじゃないかな。でもみんなが何をしているのかは、ちゃんと調べてほしいな」

「分かった」

 そう答えたものの、もし島田が異世界において潔白だとしても、僕は復讐をやめられるか分からない。

 銃器はクラフトたちの護身用でしかなかったら?

 ヤツが本当に幸せを作っていたら?

 コキ使ってるとはいえ、アニスの真の恩人だったら?

 分からない。


 夕方、それぞれ別の場所で待機した。

 サティはアトリエの近く。ニロとフェニは宿で。僕はというとアニスから教えられたドワーフたちのシェアハウスに忍び込んだところだった。

 家は武具屋の通りからさほど遠くないところに位置していた。この辺りは工房で働く人たちが多く住んでいるらしい。仕事のため、日のあるうちはほとんど無人だ。

「こちらロロル。シェアハウスに入れたよ」

『了解よ。こっちにまだ動きはないわね』

 隠れるにはまだ早そうだ。家の中を見回る。

 間取りを見るからに、ドワーフの男が4人で住むには手狭だった。窓は少なく空気が澱んでおり、酒瓶が散らかっている。道具もそこらに落ちていて、とても腕利きの職人が住んでいるとは思えない。共同の井戸がある裏庭へは洗面所から行けるようだ。錆びた髭剃りと黄ばんだタオル……大きなタライと洗濯板。洗濯板には持ち手に爪痕があり、よく見ると赤毛も付着している。アニスが裏庭で男たちの洗濯物を洗う姿が思い浮かんで、目頭が熱くなった。

『ロロル、島田が動き出したわ。親方たちも帰っていく』

「分かった。サティ、気をつけてね」

『あっ、ありがとう……。ロロルも、怪我したらヤだからね』

「気をつけるよ」

 ここからはお互い余程の緊急でない限り通信はしないことになっている。アニスの指示だと部屋の隅に放置されていた巨大な酒樽の中に身を潜めることになっていた。あらかじめ覗き穴を開けておく。ドワーフたちの話し声が聞こえたのを合図に、僕はアルコール臭い樽の中に隠れた。

「にしてもよ、コーサクのやつは最近やたら出かけるじゃねえかよ」

 ドワーフたちは声がデカかった。漫画の吹き出しならびっくりマークがひしめき合うだろう。皆一様にダミ声で聞き分けが難しい。

「ありゃ女かな?」「ちげぇよぉ」「なんかしらの金ヅル見つけたにちげぇねえ!」

 島田は1人で儲けていることをドワーフたちには話してないのか。アニスにもらしたのは彼女を軽んじているからだろう。

「なぁ」1人が声をひそめた。「おれたちよぉ、ヤベェんじゃねえか?」「んだよ、藪から棒に」「だって考えてもみやがれ。そもそもオレらはよ、あくまでアイツの隠れ蓑に過ぎねぇわけだろ?」「まあな」「アイツがクラフト様々のスキルとやらで、どんな物もあっという間に作り上げちまう」「高級品の武器をコスト0で製造して、おれら職人が丹精込めて打ちましたと触れ込んで売るわけだな」

 島田のスキルは物を作り上げる能力なのか。

 早くも島田たちの罪が明るみになって、僕はほくそ笑んでしまった。アニスが悲しむだろうけど、とめられない。

「でだ、もしコーサクが別の儲けの口を得たとする。そしたらおれらはどうだ?」「あいつの秘密を知ってる邪魔者ってわけだ」「強請れねぇかな?」がはははと下品な笑いが起こる。「やり方次第じゃねえか? なんてったって相手は天下のクラフトだからな」「だらしねえやつもいるってのに、クラフトの悪口言ったら国を追い出されちまうしなぁ」「どうしたもんかねぇ」

 重たい足音が近づいてきた。

「飲まなきゃやってらんねえや」声はすぐそばでした。「あ? この樽はカラだったか」

「アニスの猫が片付けらんねえからな、樽はカラでも猫には重くて」「あいつはさ、裸踊りするしか能のねえガキだからな」

 大きな笑いが起こった。僕ははらわたが煮えくりかえる思いだった。

「おっきなおっぱいの姉ちゃん見ながらさ、あいつの踊り見ると酒吹き出しちまってもったいねえんだよな」「がははは! ちげえねえ!」

 熱い憤りを覚える。だがそれも樽を蹴られたことで一気に冷え切った。

「んぁ?!」「どうした?」「この樽、カラじゃねえぞー?」「あー?」

 ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。何も情報を得てないのに見つかるのか? ドワーフの気配がすぐそばまできた。息遣いさえ聞こえた。




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