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無題の影絵



◆無題の影絵



 あれから数日経った。

 ニロには、母親のことを言い出せなかった。

 ニロの腹痛も、舌の違和感も消えたし、聞いていいものなのか分からなかったからだ。いや、聞くことができなかった。でも藻木のカメラで撮った写真を、時々お腹から出して眺めるニロを見ると、まぁ大丈夫かなと、楽観的な気持ちになれた。

 あの日、みんなが始末してくれたクラフトは2人。

 1人目の藻木優は【撮影】のスキルを有していた。カメラを作り出せる能力で、そのカメラの映像を自分の目にも映せたらしい。

 ギルドカード発行の際の写真撮影でニロに一目惚れをした藻木。ニロとサティの美人2人があの場で特訓をしていると知ると、その風景を盗撮するため、各所にカメラをしかけていたようだ。そのため魔法の霧に邪魔されつつも、物陰に隠れたフェニの居所をつかめた。

 あの日が初犯だったが、自身の体の重さによりそのもくろみは失敗に終わった。フェニたちには敵わず、最後はニロにタコ殴りにされたのち、美味しくいただかれた。

「ずっと見られてたかと思うとゾッとするわ……」

 とサティ。

 2人目は赤原クレア。推定半年はニロのお腹を彷徨っていた。

 アイテムポーチを2つ所持していたが、恐らく一つは僕に支給されるはずだったものだ。僕のポーチには排泄物が入れられていた。理由は分からない。あんな暗い空間で暮らしていたら判断力や思考力なんてすぐに消えるだろう。

 ニロの母親が赤原の正気を奪われたから、逆に半年も闇の中で過ごせた可能性もある。

 赤原は外の空気を吸い込んだところで、アニスの一撃を食らった。最後はニロに美味しく…………。

「結局どんなスキルだったんだろうねぇ〜」

 とニロ。

 2人のアイテムポーチから出てきた物を売り、その日暮らしのお金を増やした。

 藻木優のポーチからは拳銃と手榴弾も出てきた。売るわけにもいかず、埋めて隠した。妙蓮寺も言っていたが、これは『島田製』とのことだ。

「こんなのが広まったら戦争のあり方が変わるわ」サティが言い切った。「誰でも、簡単に、強烈な魔法が使えると考えれば分かりやすいでしょう。犯罪も悪い意味で手っ取り早くなって、増える」

「あの……」アニスが遠慮がちに言った。「うちの島田、最近あまり店にいないんですが、新たな販売ルートを見つけたって話してました、にゃ」

 金儲けのために危険な品物を売る手筈を整えているのか。

 島田への復讐のプライオリティが高くなった。

 アニスは「大丈夫」と言うけれど、そのセリフが言えるうちにあの環境から救い出したい。自分から自分に向けた「大丈夫」なんてアテにならない。

 ドワーフたちが邪魔だし、仮に島田1人だけ『失踪』したって、アニスはあの工房から抜けられない。奴隷じゃないとは言え、アニスは王都での武具屋界隈では有名だし(強引な客引きとして)、事件のあった店から転職……というのも難しいだろう。

 島田には理由のある失踪が、ドワーフたちには不祥事があれば。アニス本人を無傷で助け出せるかもしれない。


 日暮れ前に、フェニと2人で夕飯の買い出しに出た。

 今夜の宿は共同の台所があるらしく、毎日外食じゃお金ももったいないので自炊しようとあいなった。先にサティとニロが魔物の香草焼きに取り掛かってくれている。アニスも、行けたら行くにゃ、と言っていた。

「2人きりは、久しぶりですね」

 夕暮れ間近の活気ある市場を歩きながら、フェニがこぼした。

「そうだね。初めは君と2人だったのにね。こんなつもりじゃなかったかな?」

「いえ」

 青果店でフェニは大きな柑橘を手に取った。顔に寄せて思い切り吸う。目頭をうっすらと滲ませる。

「爽やかで、すっぱい匂いがします」

 僕はフェニの唇に目がいった。柑橘にイメージが引っ張られていたのか、口内でじゃわりと唾液が湧いた。

「一つください」フェニは柑橘を買った。

 それからいくらか店を回る。僕が持っていたバスケットが異世界の食材でいっぱいになった。道を引き返して、宿に向けて歩き出す。

「私は————」ひと気が減って、賑やかさが落ち着いた頃にフェニが口を開いた。「ロロル君となら、どうなったっていいんですよ。私たちは呪いで繋がっています。たとえばみんながいなくなった後でも、その先ずっと一緒ですよ。死が……私たちを別つまで」

 周囲の家々は、開け放っていた玄関扉を閉め、カーテンを引いて部屋の灯りをともす。人々の生活が窓枠にはめられた影絵となって、僕らの帰り道に掛けられる。まるで幸せがテーマの画廊のようでもあるし、僕ら2人だけ外に締め出されたようでもある。

「ありがとう。僕も、君とはずっと一緒にいたいって思ってるよ」

 家路を急ぐ誰かが僕らを追い越した。あたりが夕日色に染まっていく。僕らは自分らの伸びた影を踏みながら、ゆっくりと歩いていった。




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