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お茶会女子



■お茶会女子



 優雅なお茶会。

 いつのまにか雲が裂けて晴れ間が覗き、少し暖かくなってきた。

 お茶も良い香り。パイは私の知らない甘酸っぱい果肉が入っていた。疲れた体に染み渡る味。美味しい。幸せ。

 緊張感を、でも美味しくて、心配しなきゃ、でも美味しくて。

 ニロのお腹の中でのことを思うと、もっと緊張感を持つべきなのだが、甘味とお茶のセットについ気持ちがゆるんでしまう。

「なんか不憫だから」

 サティが涙目で見つめてくるニロの悲哀攻撃に耐えかね、アニスの手作りパイをあげていた。優しい子だ。そろそろ私も分けようと思っていた頃だったけど。

「いただきまぁす!」

 幸せそうにパイにかぶりつくニロ。本当に美味しそうにものを食べる子だ。一緒にご飯を食べると楽しい。

「お腹開けながらパイ食べてる……妙な光景ね」

「2人まだかなぁ。早くしないとパイ無くなっちゃうよぉ」

「ちょっとアンタ! 今度こそ食い意地はったら許さないからね!」

「ううっ……でも美味しくて……」

 まだ数日しか一緒にいないのに、2人とはずっと前から知り合いだった気がしてならない。現世では、私はもてはやされるだけで、友達と呼べる子はあまりいなかったっけ。友達とカテゴライズはされるけど、でも例えば、美味しいお店を見つけたから一緒に行こう。雨すごかったけど平気? ねぇ虹が出てるよ…………そんな話ができる間柄の人はいなかった。高嶺の花だなんて言われていたが、私はその高嶺の空気の薄さに、本当は苦しんでいた。

 奴隷の地獄は私の記憶を砕くほどだった。永遠に続くはずだったのに、今の私はこんなに幸せでいいんだろうか。友達も、好きな人も、そばにいて。私は…………罪人だから奴隷にされたのに。学校を爆破したのに、その理由すらも忘れて、こんなとこでお茶なんか飲んで。

 ロロル君たちに繋がっている糸をたしかめる。

 今のところ異常は無さそうだ。

 ニロはなぜお腹の中に私が入るのを止めたのだろう。

 人族の女の子は危険? 

 ニロ自身、奈落については把握しきれていない部分だらけだ。しかしそれでも自分の体として、漠然と感じるものがあるのかもしれない。

 半開きのニロの奈落を覗き込む。深淵は人を覗くと言うが、奥からは人間の赤原のものとは思えない気配が漏れているようだった。

「ニロ、もうそろそろ食べるのやめなさいよ。ロロルやあの子の分もあるんだから」

「あ〜……無限にパイが出てくる魔法があればいいのにぃ。サティ〜、パイ増やしてぇ〜?」

「できないわよ」

「じゃあパイを作る妖精さん出してぇ〜」

「アンタの胸にあるやつでも食べれば?」

「これは非常食だからダメぇ〜」

 自分の肉体を食べることを視野に入れてるなんて。

 食べる物を無くしたニロは、手持ち無沙汰に自分の胸を触った。

 もみっ、もっ、むぎゅ、もちゅう————。

 突然だった。

 すぐ背後で落下音が鳴り響く。

「なにッ!? 今の音? まるで太った男が木から落ちた音だったけど!」

 私は音がした後ろを振り返る。

 人がいた。サティの耳は正しく、彼は太っていた。

「太った男が木から落ちてきたみたいです」

 男の顔はなんとなく見覚えがあった。そういう人物は大抵クラフトだ。

「バレちゃあしょうがない!」

 女3人の視線を受けながら男はすっくと立ち上がった。

 四角い顔に楕円の眼鏡、迷彩のヘアバンドに小枝をさしている。手にはハンディカメラ、首から提げる一眼レフ。肥満ぎみのお腹を、ポンっと1つ叩いて仁王立ち。

「ボクチンはクラフト! そう! クラフトの藻木優である! 【千里眼】のスキルを持っているぞ! クラフトの————」

 ニロが問答無用の飛び蹴りを、藻木と名乗った男にお見舞いした。

「ちょっとニロ! 木から落ちた人を蹴ったらかわいそうでしょ!? あの、大丈夫ですか!? スミマセンこの子、頭脳に振るべきステータスを胃袋に全振りしてて」

 木から落ちてなくても、生きとし生けるもの飛び蹴りされたらかわいそうだよ。

 ニロが低い声で言う。

「これが持ってるそれぇ、あれが持ってたどれだぁ」

 これとかあれって、確かにちょっと頭脳の方があれだ。

 いやでも、ひょっとして。

 私は次の展開を予想して、もしもし貝殻に話した。

「ロロル君! ちょっと揺れるかもしれないけど我慢してください!」

 藻木は一眼レフカメラを持っていた。現世にある物だ。でもこの世界でも見たことがある。それはギルドカードを発行した時だ。でもニロはそれに加えもう一回カメラを見たことがあるのかもしれない。

 恐らく妙蓮寺が持っていたのだろう。その嫌な記憶に基づいた直感をニロはあの一瞬で発揮したことになる。

 コレを持ってるコイツは悪いヤツだ————。

 王都では身分証を作る時にカメラを使うようだから、カメラと悪は直結できない。

 でも木の上からカメラを手に落ちてきた人物が潔白とは思えない。

 藻木がよろよろと立ち上がった。

「ニロォ君! ぶれっ、無礼だぞ!? いきなり人に飛び蹴りなんて! それに僕はクラフト! クラフトなんだからな!」

 ニロを知っている?

 なぜ?

 藻木が上着の中に手を入れた。

 例えばこれが映画なら、この動作の後には拳銃が出てくる。

 でもまさか実際に出てくるとは思わなかったが。


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