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ご指名依頼



◆ご指名依頼



「ロロル、知り合い?」サティがきく。

「いや……? 女性の方は知らないな」


 クロエ君の知り合いだろうか。


 2人は僕らの前で息を切らしながら足を止めた。


「やっと追いつきました……!」女性は乱れた呼吸のまま話した。「ワタシはシローネといいます。ロロルさんにはクロエがお世話になったようで」


 深々と頭を下げられ、僕は少なからず困惑した。クロエがお世話に?


「やぁロロル君。なんとついにぼくを知っているという人に出会えたんですよ!」


「知ってるもなにも、ワタシたちは恋人って言ってるじゃないの!」


「そう。恋人らしくて」


「もう!」


 シローネと名乗った女性は頬をふくらませ、クロエ君の腕に抱きつく。薄ピンクのお団子ヘアがよく似合う、明るい人だ。


「クロエ君、良かったですね。君を知っている人に会えて」


「うん。嬉しいですよ!」


 僕はクロエ君について、フェニたちに軽く説明をした。


「それで、シローネさんたちは僕らに何か用でしょうか?」


「どうぞシローネと呼んでください。ワタシは一緒にダンジョンにもぐってくれる人たちを探しておりまして。ギルドを訪ねたところ、エリュアールさんという方がロロルさんたちを紹介してくださって」


「エリュアールさんが」


「はい。それに、彼もあなたのことを知っているというので、ぜひお願いしようと……」


「いろいろ経験しろってことかもね」サティが言った。「冒険者として稼ぐならダンジョンがもってこいだし。危険も多いし日数も要するけど、珍しいモンスターの換金素材は手に入るし、戦闘の勘も養えるし」


「どうでしょうか……? 今回は指名の依頼ということですので、ロロルさんたちには指名料も別途お支払いいたしますし」


「ロロルで大丈夫ですよ。それで、依頼の内容はなんですか?」


 それを知らなきゃ始まらない。


「王都から一番近いダンジョン『ピクニックボックス』に行き、『ワスレナ花』を探すのを手伝ってほしいんです」


「ワスレナ花とは?」忘れな草なら聞いたことあるけど。


「ワスレナ花とは、忘れてしまったことを思い出すのに効果があるという薬草です。お願いします」


 彼女は深々と頭を下げた。

 クロエ君が頭の包帯を指差して言った。


「ぼくのために探してくるって言ってくれたんですが、『ピクニックボックス』がいくら初級ダンジョンでも1人は危険だから、ギルドに依頼として出すことを提案したんですよ」


 ピクニックボックスというダンジョンは王都から最も近いダンジョンらしい。薬草が豊富に採れ、モンスターがあまりいないため、低ランクハンターのみならず一般人も出入りしているそうだ。王都はそこの恩恵を多く受けているとのこと。

 僕らは短い相談をして、依頼を受けることにした。


「腹痛に効く薬草、ジャガン草も有ります。効果絶大と聞きます。それも探しましょう」


 シローネのその言葉も大きかった。現状ニロの腹痛に打てる手がないため、ジャガン草なる薬草を採取し、ニロに服用してもらうことにする。


「では後ほど、北の門で落ち合いましょう!」


 2人と別れた。僕らは宿に戻り、初のダンジョンに入るための支度をした。


「ダンジョンに行くのは初めて? でしょうね」


 サティは呆れながらもダンジョン自体の説明を簡単にしてくれた。


「アタシはニロの看病をするから」


 ピクニックボックスはFのランクのダンジョンだから、2人だけでも充分だとシローネさんも言ってくれたため、サティはニロと残ることに。


「それにアタシ、ダンジョンってあんまり行きたくないのよね」

「どうして?」

「ダンジョンハイカーたちが嫌いなのよ」


 ぷいっとそっぽを向き、サティは答えた。


「ダンジョンハイカー。そんなハイキングみたいなノリで入れるんだね」


「まさか!」サティは強く否定した。「そりゃ、低レベルの所はそうよ? でも魔窟は元来危険な所なの! それなのにダンジョン内の品をたくさん欲しがる企業が、冒険者人口を増やすための戦略でそんなお気楽な名前を広めたの。ダンジョンの認識を少しでも変えようって魂胆よ。今ではダン女子なんて言葉もあるくらいなんだから」


 ダン女子か。森ガールや鉄子やリケジョみたいなものかな。


「名のあるダンジョンハイカーになればスポンサーもつくし、ダンジョンに潜ることは、それ自体はいいことなんだけど……」


 サティの言葉がぶつぶつと尻すぼみになる。


(チャラチャラしちゃって……香水なんか使っちゃって……なんなのよ)


 マナを介して、サティから「羨ましい」という感情が伝わってくる。


 フェニがぽつりとこぼす。


「サティは、ダンジョンに出会いを求めてやってくる人が許せないんですね」


「え? そんな人たちいるの?」


 サティは吠えるように答える。


「いるのよ! たっくさん! かわいいだけの装備ぶらさげて、いちゃいちゃしてくれちゃって……もう見てらんないんだから!」


 つまりサティ……。リア充を見たくないっていうのが、ダンジョン嫌いな理由なのか。


「初級ダンジョンだし危険はないでしょ。仮にボスと対峙したって、アンタらなら負ける理由もないだろうし」


「分かった。じゃあ行ってくるよ」


「サティ、ニロをよろしくおねがいします」


 僕はフェニと2人で北の門へ向かった。ニロと出会った小山がある方だ。


 ニロは「また痛くなってきたぁ」と言ってベッドで眠っている。


 ワスレナ花とジャガン草、なんとしてでも手に入れなければ。


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