汚れ仕事は
◆汚れ仕事は
「ねぇ、このド腐れ変態男が死ぬ前に、あの卑猥な魔物をどうにかしてくれない?」
エルフの誰かが言い放った。
「なぜ僕らが?」
「わたしたち高潔なエルフがあんな気持ち悪い魔物、相手にできるわけないでしょ?」
「報酬は?」
「は?」
僕は復讐を終えて興奮していたのか、強めに出てしまった。
無責任な言い方をすると、アドレナリンがどうのこうの、だ。
スカッともしていたが、このエルフたちにはイライラしていた。
「元々の依頼は調査だけでした。僕らは調査だけでなく解決もしたんですよ? それなのに後始末までさせる気ですか? でしたらそれ相応の報酬を要求します」
「ガキが生意気に……」
「あぁ〜そういえば聞かせてくださぁい」
ニロが会話に割り込んできた。
「サティちゃんに酷いことしてたんですよねぇ? オバさんたちぃ」
「なっ! オバさんだと?!」
「じゃあ? オバァ〜〜〜〜ちゃん?」
「グッ、ぬッ! ロクな魔法も使えん小娘が。何をあの子から聞いたが知らないが、あまり図に乗るなよ?」
ローリエが剣に手をかける。
「邪魔者は消すってことですか? あなたたちは恩を感じないんですか?」
「そんなことはない」
ローリエは顔をひきつらせた。『剣を握れない呪い』をかけてある。自分の手が言うことを聞かないことにうろたえているのだろう。
それを思えば、呪いのせいで指が折れたことも気にならない。
「どこが高潔なんだか。ねぇニロ、サティが酷いことされてたってどういうこと?」
「うん。サティの心が聞こえてぇ、見えたのぉ。このオバさんたちがサティを否定してた、異端児だって、肌の色が違うとかってぇ」
「そのオバさんというのを止めないかッ!」
「エルフの方は長生きだと聞きますが、肌の色なんかで人を判断する浅慮な心の持ち主だったんですね。あっ! 訂正しますね? エルフではなく、あなたたちの心が汚ないっていうことです」
熱くなってきた。頭に血が上っているのが分かる。
「ロロル君、サティの様子を見てきます」フェニが囁いた。
「ありがとう」
「おい小僧。あのマナ漏らし娘のどこが気に入ったか知らんが、あまり肩入れしない方がいいぞ? なんせアイツは忌み子だからな。災いをもたらす」
ローリエがどこか勝ち誇ったように言った。
「あなたたちが仕立て上げたんじゃないですか?」
思いもよらない言葉が、口をついた。
「どういうことだ?」
「あなたたちは誰かを犠牲にしないと結束できないんだ。平和を保てないんだ。人を穴に突き落として、それを笑って自分の心や環境の秩序を守ろうとしてるんだ」
僕は忘れもしない憎きクラスメイトたちの顔を思い浮かべていた。
「大変ですからね。誰も傷つかないように平和に暮らすのは。でもストレス解消の捌け口や、共通のサンドバッグを作ると驚くぐらい平穏で楽しい日々が訪れる。誰かに苦しみを集中させるだけで、多くの人が楽できる。安心できる」
奴隷の人たちの姿が浮かんだ。
「知った口をきくな。ほんの十余年しか生きていないガキが。年長者の考えを敬え」
「何年生きても、誰かを犠牲にする考えしか持てないのなら、僕は大人になんてならない。今すぐ死にたいですね。死ねないですけど」
長い沈黙が流れた。
僕は努めて明るい口調で言った。
「で! 汚れ仕事の依頼についてですが、報酬はいかほど?」
「え〜〜」ニロが抗議する。「報酬はイカぁ? もうニョロニョロしたのはいいよ〜」




