VS妙蓮寺新之助
◆VS妙蓮寺新之助
「アタシで許してください!」
サティが声を大にして叫んだ。
「なにィィィイ?」
「ア……アタシがなんでもしますから、村の人たちは助けてください……!」
「ん〜ダークエルフの涙ながらの懇願、実にソソるなァ。まぁボクチンも鬼じゃないからチャンスをあげる。ニロちゃんに闘いで勝ったら、君だけで許してあげようかな?」
「えッ…………」
「ほうら? 村の人たちが犯されていくぞ? 仲間か村の人かを選べ」
ローパーの触手はエルフらに絡みついた。わざわざ宙に持ち上げ、体中をまさぐる。服は焦らすように少しずつ裂き、手脚を大きく広げる。イボのある特別な触手が、指の間、膝裏、腰で絡まり、腋、首を一周して口の中へと。ドクンっ、ドクンっと触手が震えるたびに、エルフの口から濁った液体が溢れた。
「ニロちゃん、ゴー」
妙蓮寺にお尻を叩かれるとニロは髪を留めていた長いフォークとスプーンを抜いた。ほどかれた青い長髪を風に踊らせ、サティに突進する。サティは後ろへ跳んで回避。が、ニロの方が速かった。普段より身体能力が高い。
「ぐッ!」
フォークがサティの腕に刺さり、スプーンが横っ面を叩く。
「何してる役立たず!」
「はやく魔物女を殺しなさいッ!」
エルフたちが口々に罵った。
なんとかしないと……! こんなとこで寝てる場合じゃない!
僕は再度意識を集中させた。妙蓮寺までは少し距離があったが、その手前のワーウルフにはなんとか呪いも届くかもしれない。煙状に顕れる黒いマナ。ワーウルフへと這い寄る。まだだ、もう少しだ……。
サティの悲鳴が聞こえた。一方的にやられている。ニロは青の長髪を流麗に舞わせて攻撃を繰り出す。
「ニロちゃんかっこいいなァァ。いや〜拳太郎クンの闘技場を見学したおかげだ。でもあんなに上手く動きをトレースさせられるなんて、ボクチンっててーんさいッ!」
ダメだ、早くしろ、呪殺して、死んで、体を再生させろ!
問答無用で妙蓮寺を呪殺しないとみんなやられてしまう!
「でもボクチン我慢の限界だしもういいやァ〜。ボクチンってほら? エルフは好きだけどダークエルフはイマイチ。褐色肌萌えじゃないのさ。ニロちゃん、キミの最強の魔法でその子を葬っちゃえ」
「了解ぃ、ご主人様ァ」
「さて? というわけでですよ。ボクチンも最強モード突入!」
妙蓮寺は服を脱ぎ捨て全裸になった。
全裸男の命令をニロは遂行する。
「水のマナよ集まれぇ……」
無表情のまま、ニロがスプーンをくるくる回す。
「はやく殺せ! 立て忌み子! そいつを殺せ!」
「育ててやった恩を返せ!」
エルフたちが喚く。
だけど、サティは完全に戦意を喪失していた。
「アタシには何もできない、役立たず、出来損ない、死に損ない、穀潰し、忌み子、要らない子、みんなと色が違う汚ない子————」
「最高出力」ニロの言葉で、サティの頭上に水の塊が現れる。
「やめろニロぉっ!」
僕はあらんかぎりの力を込めて叫んだ。
ニロはやめない。
「水魔法【春の夕立ち】!」
それは初めてニロと会った時に使っていた魔法だった。魔物の返り血を洗い流した魔法。温かい水が、最高出力の快適さでサティに降り注ぐ。
「ありり? ニロちゃぁん? ふざけてる? まじめにやれ! 言う通りにしろ! 最強魔法で汚ないダークエルフを殺せってェの!」
「了解しましたご主人様ァ。…………風魔法【夕映の南風】!」
サティの濡れた体を温風が優しく乾かす。最高に心地良さそうだ。
ニロも僕らと同じで修行が必要だな。
勇気づけられた気がして、僕は集中できた。ワーウルフを睨む。
【怨呪】
ワーウルフが呻き声を上げて、倒れた。死の呪いは僕に返ってくる。
フェニが草陰から駆け出すのが見えた。
上手く隙をついたように思った。
いけ!
しかし、妙蓮寺は機敏に振り返り、手を伸ばした。
「させねぇぞォ!」
何か握ってる。
大きな音がした。
銃声ってやつだ。
「フェニ!」
撃たれたフェニは頭から赤いものを出しながら、後ろへと倒れた。
妙蓮寺新之助め!
僕は全ての傷が癒えた状態で立ち上がり、そばにあったショーテルを握りしめる。
「スキル【死に損ない】ってかァ?!」
妙蓮寺が拳銃を僕に向けた。
呪いをかけようにもまだ距離がある。
ダメだ、間に合わない!
「アディオース!」
発砲。
それでも、死んでも僕は立ち上がる。
「妙蓮寺ィィイ!」
フェニも蘇生していた。妙蓮寺を討とうと迫ったフェニにゴブリンが数体飛びかかる。数の力でフェニは投げ飛ばされ、地面に転がったところをメッタ刺しにされる。
僕は、あとちょっとの距離で届きそうだ。
「げひひひひゃ! 魔物SPそーどーいーん!」
周囲から多種多様な魔物が妙蓮寺の周囲に集まった。
「惜しかったねェ〜。でも準備は万端なんだなァ〜!」
魔物がなすファランクス……密集による防御と迎撃に優れた完璧な陣形が完成する。
僕はそれに阻まれて妙蓮寺に辿り着けない。
「ざーんねーんでーしたァーー! お前の彼女もNTRしてやるからそこで鑑賞してるんだなァ〜!」
絶対許さない!
ラクに殺さないぞ!
だけど状況は絶望的だった。
「お前ら黒星確定! ボクチン白星大勝利ィィイ!」
妙蓮寺が全裸で天を指差したその時だった。
妙蓮寺の背後の夜空がキラリと光った。
小さな光の粒がまたたいた。
星だ。
あれは…………もしや?!




