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ミニ亀防衛戦



◆ミニ亀防衛戦



『どういうこと!?』


 ミニチュアタートルは大型トラックのように太く長い首を震わせて、声にならない声をあげていた。顔の周りにたかる小型の魔物たちを追い払うために魔法を放っているが、ほとんど効果はないようだった。魔物の数が多過ぎる。


「魔物たちがミニ亀を襲うなんて……! いいえ、理由はどうでもいいわ!」


 ふっと風が吹くと、サティが姿を現した。ミニ亀へと駆けていく。


 彼女の周囲に、本来なら目に見えるはずのない風が、散った野花の花弁を纏って数カ所に集まった。魔物たちに向けられる円錐形の風。まるで花束のようだ。


「貫け! 『ワイルドブーケ』」


 花を纏った風が魔物たちに発射され、それぞれ外れることなく突き刺さった。


「かっこいぃ〜!」


 ニロが拍手喝采しながらミニ亀へと駆け寄る。パンっ! と途中で手を合わせて止まった彼女に、鳥の魔物が地面を擦るように滑空しながら迫った。


「いただきまぁす!」

 ばくんっと一飲み。


 ミニ亀の周りには続々と魔物が集まってくる。亀は魔法を放つが、実に頼りのない炎や雷ばかりだ。敵を仕留めるには心もとない。


「どういうこと!? ミニ亀の魔法が弱すぎる……」サティが驚きを隠さずに言った。「ミニ亀はここまでなるのに何千年もかかる精霊獣よ? 当然マナも魔法を桁外れ。その気になれば大地に大穴を空けることだってできるのに!」


「とにかく助けよう!」

「はい!」


 僕とフェニも剣を抜き、果敢に飛び込んでいく。

 サティは自分の魔法が亀に当たらないようにしているからか、はたから見ても戦いにくそうだった。それでも狙いを定め、クロスボウで敵を射抜いていく。矢はマナ製なのか光っており、まるでビーム銃のようだった。


「やめて! 殺してだなんて言わないで! アタシが守るから!」


 サティが叫ぶ。もしかすると、念話なるものでミニ亀と話しているのかもしれない。


 ミニ亀の首のそばで土煙があがった。地面から何かが飛び出したのだ。

 それは目の無い蛇のような魔物だった。大型で素早い。

 魔物はぐるりとミニ亀の首に巻き付いた。


「ストゥラングラーよ! すぐに斬って!」


 4人が一斉に魔物へと駆け出した。

 ストゥラングル……首を絞めることを意味する単語だ。弱った亀からすぐに引き離さなければ恐ろしいことになると、誰もが予想した。

 このままじゃ、間に合わないかもしれない。


 やるしかない。


 サティになら秘密を知られてもいいと思えた。また一つ弱みを握ったわと言われたら、その時はその時だ。


 【怨呪】


 サティとフェニが死と蘇生を経た僕を抱きとめていた。


「ありがとう」僕は体に力を込め、立ち上がる。

「ロロル……アンタ、問答無用で死を与える魔法なんか使って、そんな規格外の呪い使って……無事なわけない! アンタ何者なのよ!?」


 取り乱すサティに、フェニが冷静に言葉をかける。


「サティ、今は魔物たちの殲滅を優先しましょう」

「後ろッ!」


 サティの警告も間に合わず、フェニの肩に魔物が食らいついた。フェニは顔を歪めつつも、落ち着いてその魔物を双剣で仕留める。肩の傷はたちどころに治った。


「アンタら……いったいなんなのよッ」


 けたたましい鳴き声が空に轟いた。

 見上げると、頭上からハゲタカのような魔物が急降下してくる。休む暇もない。


「アレはデスバルチャー! なんて数なの! でも空から来るなら遠慮なくデカいのいかせてもらうわ! 食らいなさい! 【サンダーウェブ】」


 サティは空一面を蜘蛛の巣状に覆う雷魔法を発動。鳥の魔物が黒焦げになって降ってくる。

 どうやら魔物の襲来はこれで終わりのようだ。


「大丈夫? ごめんね、もっとはやくに来てあげなくて……。身の程知らずの魔物たちはもういないからね」


 サティはミニ亀にもたれるようにして立ち、穏やかに言った。


「ミニチュアタートルはね、土地の守り神なのよ。ミニ亀がいるだけでその土地は五穀豊穣を約束されるわ。だからエルフはそこに住み着くの」


 サティは目を閉じ、僕らには聞こえない声に頷いたり、相槌を打ったりしていた。


「サティはミニ亀と仲が良いんだね」


「そうね」サティは亀の首を撫でる。「ここに住んでた頃はよく話し相手になってもらったの。魔法もたくさん教えてもらったわ。ミニ亀はね、星の欠片を降らせることだってできるんだから。あんな低級魔法しか撃てなかったのは理由があるに違いないわ」


「ねぇサティ。きっとそれはクラフトの仕業だよ」


「クラフト? まったく、ロクなやつがいないんだから」


 僕とフェニは苦笑する。「そのことなんですがね————」

 フェニが僕らの事情を分かりやすく説明してくれた。


「ホントに厄介なのと相部屋になっちゃったのね、アタシは」


 サティは眉間を押さえながらため息をついた。


「分かった! アタシも協力するわよ。ミニ亀を助けてもらった恩もあるしね」

「本当に?! ありがとう! サティほど強い人がいたら心強いよ!」

「そ? そう……?」サティはゆるんだ頬をごまかすようにそっぽを向いた。「まっ! このアタシの創作魔法があれば大体のやつは消し炭よ!」


 胸を張るサティ。あれだけの魔法を放っておきながらも疲労の色は一切ない。

 ニロが目を輝かせてサティに詰め寄る。


「サティってぇほんとうにすごいんだねぇ! さっきの魔法フェニたちも見てたぁ? 強いしかっこいいし〜! 尊敬するぅ〜……!」


「う、うるさいわよ。わかったからもう」

(すごいって! アタシの魔法カッコいいって。うふふふ、うふふふふ)


 喜びダダ漏れ。犬だったら尻尾ブンブン状態だ。


「ミニ亀がこうなったのはその妙蓮寺とか言うマナがキモいやつの仕業で間違いなさそうね」


 依然として喜びを漏らしながらサティは続けた。


「この魔物たちはどれも隷属魔法の痕跡があるわ。だけど、魔族の紋様は無し! 最後のデスバルチャーが来た時に違和感があったんだけど、アイツら最後はミニ亀じゃなくてアタシたちを狙ってきた感じだったわ」


「それってもしかして、妙蓮寺がそばにいて、魔物たちの命令を上書きしたってこと?」


「その可能性はあるわね。ミニ亀が言うには背中の中央に大きな違和感があるそうよ」


 じゃあすぐに行かなければ。


「僕、甲羅を調べてきます」


 もしそばにクラフトの妙蓮寺がいるのなら、この機会を逃すわけにはいかない。

 エルフしか知らない山奥だなんて、復讐には最高のロケーションだ。


 それに、先の戦闘を見られていたなら、僕らの秘密を知った危険もある。


「私も行きます。ロロル君」

「悪いけどアタシはミニ亀の手当てで残るわ。魔物も一応調べた方がいいでしょうしね」

「分かった。何か見つけたら巻貝で連絡するから」

「オッケー。……ってニロっ! こいつは食べちゃダメッ!」


 ニロが倒れた魔物を腹におさめている。


「毒があるか調べようとぉ〜……」


「毒があるのよソイツには! 吐き出して! 胃袋が奈落だろうが猛毒に変わりはないのよ!?」


「毒耐性があるからだいじょ〜ぶぅ!」


「そう。なら良かった……じゃない! だとしても調べるんだって!」


 ニロの肩を掴んで揺さぶるサティ。


「で……ではわたしのお腹へどうぞぉ〜」

「入ってたまるか!」


 こっちは2人に任せよう。


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