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エルフの里



◆エルフの里



 翌日、僕らは日の出と共に起きて、軽い食事をし、出発した。

 密度の濃い森を進み、昼過ぎにエルフの村の手前にたどり着いた。

 途中、向かってくる魔物は全てサティが魔法とクロスボウで葬った。


 ニロ曰く、「サティって魔力がすごいたくさんあるんだねぇ」とのことだった。僕のスキル【怨呪】もマナを使っている。とは言えあまり尺度が分からなかったけれど、スプーンの杖を振るい、一応は魔導師の部類に入るニロの言葉を信じよう。サティはすごい人だと。


「あとはアンタたちで行ってもらうわ」


 あるとこまで来ると、サティはその言葉を言い残して消えた。消えたというより、希薄になった。姿が透けたのだ。じっと目を凝らせばともかく、一度見失ったらもう見つけられそうにない。


「アタシは隠れてる。アイツらが出てきたら、サティの使いだって言いなさい。んで魔物の捜査を開始。アタシもついていくから。ほれ、行く」


 サティはクロスボウに似た武器を構えていた。


「気をつけなさいよ。アタシが援護するけど、このへん魔物強いから」


 彼女と別れて、言われた通りの道を行った。やがて不思議な形の大樹が集まる場所に出る。ツリーハウスがいくつもあった。ここがエルフの集落なんだろう。樹の根本に昨夜野営で見たのと似たトーチがあった。あらかじめ言われていた通り、僕らはギルドカードをその場で提示した。


「サティの代行の者です。魔物の調査に来ました!」


 数秒ののち、声がした。


「あの臆病者は来なかったか。フッ、臆病故に……か」


 振り向くといつの間に現れたのか、長身のエルフの女性が立っていた。上品な金髪に長耳、知的な顔、真っ白い肌をした、パブリックイメージ通りのエルフ。


 彼女は腕を休めるように腰元の刀に肘を乗せているが、それは逆にいつでも抜刀できる姿勢に見えた。


「私はローリエだ。念話士から話は聞いている。術者不明の隷属魔物の調査だろう? なんだ、ずいぶんと遅かったな」


 人を見下したような喋り方。同じエルフで、いくらサティがつっけんどんでも、こちらの方が数倍不快な思いをさせられる。もしも昨日、クエスト同行を強制したのが彼女だったら、僕は無い頭をひねって断りの文句を考えただろう。


「至急とりかかってくれ。何かあれば逐一、念話で伝えるように」


 その言い草に至っては、「そんなのもできないのか?」と言うための布石でしかなかった。


「すいません……念話は会得してなくて」


「なんだ? そんなのもできないのか?」


 そらきた。


「とにかく調査させていただきます」


「早いとこ済ましてくれ。誰が来たかと思えばFランクの子供が3人。忌み子の代行なんて期待してなかったが、もはや落胆する気にもなれないな」


 忌み子?


「あのー……何か新しい情報はありませんか?」


「そういえば、今朝から西のミニチュアタートルと連絡が取れないらしい。…………では、私たちはこの村に篭っている。あんな汚ない魔物たちは見たくもないからな」


 そう言い、ローリエさんの姿は風が煙に吹き消されるように見えなくなった。サティからは「急に現れても消えても驚くな、素人騙しの幻術だから」と言われていた。


 聞いておいてよかった。おかげでローリエさんがいささか滑稽に思えるから。


「さぁ、では調査を開始しましょうか」

「ちょ〜さって何するのぉ?」

「うーん、あらかたはここの人たちが調査してるだろうしね」

『それはないわねぇ』


 サティがいないのにサティの声がした。かねてよりサティに渡されていた巻貝から声は発せられているようだ。


「えっ、サティの声が」


『驚くな、いちいち。これは念話の魔法を応用したアイテム、その名も『もしもし貝殻』よ! 念話士ほど遠距離は無理だけど、アタシら程度の距離なら問題ないわ』


「サティ〜、こんなことできるなんて天才だねぇ!」


 ニロが目を輝かせる。僕は、みんなのネーミングセンスの無さに辟易する。


『ばっ、ばかね! アタシくらいならできて当然よ』


「ねぇ〜あの人ぉ、ヤな感じのお姉さんだったねぇ」


『お姉さんどころかお婆ちゃんよ、ローリエは』


 僕は『忌み子』とは何のことかと聞きたくなったけど、やめた。


『調査についてだけど、西のミニチュアタートルと連絡が取れないってのが気になるわね。ひとまずそっちに行ってみましょう』


 僕らは西へ向かった。


「ミニチュアタートルってかわいいね」


『とても大きな亀よ? 背中に木が生えてて、遠くから見ると遠近感が壊れるわよ。森が小さく見えるの。エルフの森の近くにはね、たいがいミニ亀がいてね。温厚で、優しくって、普段はほっとんど動かないけど、エルフとは共生の関係にあるのよ』


 背中に木ってどんだけデカい亀だよ……、と苦笑した。でも実際に目にしたミニチュアタートルは、背中に学校をまるまる乗せられそうなほど大きかった。


「食べ応えありそ〜う」とニロ。


「そんな場合じゃないよ!」


『なんで……!』サティの声は震えている。『なんでこんなことになってんのよ!』


 ミニチュアタートルは長い首を振り回し、苦しみに悶えていた。


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