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離れて!


◆離れて!



「操られていたっていうのはこの魔物? でも……どこにも魔族の紋様がないわね……」


 サティさんは真っ二つになった犬の魔物の死体を検分する。


「この魔物を操っていたのが、クラフトである妙蓮寺新之助という男らしいんです」

「クラフトですって? まーた厄介なのが絡んでるわね……」


 ニロが吐き出してくれた魔物には紋様などなかった。


「サティさん、どう思いますか?」僕はきいた。

「んー、クラフトのスキルなら全然有り得るわね。というかそいつのマナ、かなり気持ち悪いわね……、ねーっとりしててさ。不快だわ」


 妙蓮寺、下品な笑いをする男だった。帰宅部で、いつもカースト上位のやつらとつるんでいたけど、あまり好かれてはいない様子だったな。


「ねぇもう食べ直していいですかぁ〜?」

「ええ、もういいわよ」


 魔物が再びニロの腹におさまる。


「ありがとうね。ニロ、君はお腹から食べて胃袋がふくれるの?」


「ふくれなぁい。でもなんか気がまぎれるからぁ、魔物は食べるんだぁ」


「てっきり食欲がすごいのかと思ってたな」


「んー、わたしもこの奈落の胃袋についてはよく分かってないんだぁ。でもわたしぃ、いつもお腹が空っぽな気がしててぇ、それにたまに舌がチクチクするんだよねぇ? 病気かなぁ、やだなぁ、こわいなぁ」


「魔族の体については魔族にきくのが1番よ。アンタ、家族は?」


「いなぁい。暗闇から目が覚めたら1人だったんですぅ。魔族の人に拾ってもらったんですけどぉ、食べ過ぎだって追い出されちゃいましたぁ、えへへ〜」


 へらへら笑うニロを見つめてサティさんは、「ふうん」と鼻を鳴らした。


「じゃあこれ食べて腹の足しにしたら?」


 サティさんはポーチから干し肉の塊を出した。ナイフで切り分けようとするところをニロは引ったくって「ありがとうございますいただきますぅ!」と聞いたことのない早口で言い、上の口に全て放り込んだ。


「アンタね、貴重な羽根兎の肉なのに…………!」


「すいませんサティさん! ニロはいつも上からも人の5倍以上食べるんです」


「そんなの理由にならないわよ。まったく。働いて返しなさいよね」


「聞きたかったのですが、なぜサティさんは我々を?」フェニが口を挟む。「サティさんほどの力をお持ちならパーティを組まなくてもここまで来られたはずです。エルフの森で私たちにどんな役割があるんですか?」


「アンタたちに調査をしてもらうのよ」


「というと?」


「アタシ、その森の奴らと顔を合わせたくないのよ」


 そっぽを向くサティさん。焚き火が銀髪を照らす。「というかさ」呟きのような声だった。


「いつまでも『さん』付けしなくていいわよ……? 呼び捨てでいいのよ? 同い年なんだし? 一応はパーティ組んでるわけだし? 同じ空の下にいて、同じ空気も吸ってるわけでしょ? よそよそしいしさ? だから————」


 セリフの途中でニロがサティさんに駆け寄り、ぎゅっと抱きついた。


「あーきこえるぅ! ほんとは友達になりたいから呼び捨てしてほしいんだってぇ!」


「バカっ! そんなわけあるわけないわけないじゃないのよ!」


「サティがゴニョゴニョ言ってる時はぁ、みんなで抱きついちゃお〜う!」


「離れなさいよ食いしん坊!」


「ねぇロロルぅ! フェニぃ! サティはねぇ、みんながいて嬉しいって言ってるよぉ?! 嬉しいねぇ〜!」


「離れてーーーーーーーーーー!!!!」


 ニロのおかげでサティさん…………サティとの距離が縮んだ。ニロは抱きついてゼロ距離だった。というか腹の口で半分甘噛みしていた。


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