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はじめてのげきたい



◆はじめてのげきたい



 食事を済ませた後、僕らはアニスのいる武具屋『アトリエ・ハッピークラフト』に足を運んだ。クラスメイトの島田幸作がまとめている店。ハッピーなんて彼が口にしてるのを思うだけで虫唾がはしる。しかも自身の幸作という名前とかけているなんて。


「いらっしゃいませにゃ!」


 来店してすぐにアニスの元気のいい声。


「ちょうどよかったにゃ。客引きに出るとこだったから入れ違いになるとこだったにゃ!」


 例の痴漢仕立て上げの客引き、まだやってるのか。


「武器の調子はどうにゃ?」

「正直……全然使いこなせてなくて」

「私も、手に馴染んではいるのですが、思うようには」


 大きく湾曲したショーテルは素人には扱いにくかった。

 真っ直ぐ振るのが難しい。刃の向きがズレることが多かった。刃の内側か外側のどちらで斬りつけるかも僕は判断できていない。


「ふぅん、ロロ兄もフェニ姉も弱そうだからにゃ〜」


 みんなに言われます……。


「んにゃ? そちらのパスタ頭の方はどなたにゃ?」アニスはニロを見た。


 フォークでくるくると髪を巻いてまとめいたら、やはり誰が見てもパスタか。


「わたしはニロって名前にゃ〜、よろしくにゃ〜!」


 ニロが猫手ポーズで答える。


「ニャっ! 『にゃー』はボクのものにゃー! 専売特許にゃー! 商標だって登録してるにゃー!」


「にゃ〜にゃ〜ん」


「返すにゃーー!」


 言葉が物質化されでもしたような言い方だ。現にアニスはニロに飛びついていた。ニロは、へらへら〜と笑って逃げ回る。なんであれ打ち解けてくれてよかったと思おう。


「アニス、今日は剣以外の基本的な装備を揃えに来たんだけど」


 昨日の湿地帯で、僕らの基本的な装備がピクニック客並みだと痛感した。


「いい心がけにゃ。内心、町人の格好で剣をぶらさげててコイツら冒険者なめてんのかにゃ? ぐらいに思ってたにゃ。手荷物すらないし家の裏山に散歩でもいくのかよって感じだったにゃ」


 アニスは言葉の刃も打ち鍛えてあるようだ。ズバズバくる。不死身なのは体だからなぁ。


「革のブーツとグローブくらいは買うのをオススメするにゃ? あとポーチも持っ————」

「ポーチぃ?」


 ニロが天敵の名前に眉根をひそめた。僕は「カムフラージュのためにもさ」と囁くと、「ニロという女がありながらぁ」とほっぺをふくらます。


 アニスは僕とフェニにそれぞれ手足の装備とカムフラージュ用のポーチを見繕ってくれた。高級店だけあって、1番安い品でも、そこそこのお値段。丸山への復讐達成の戦利品、マナ玉がなければ買えなかった。


 フェニがアニスにきく。


「アニスちゃん、私たちが来て困ったりしてませんか?」


 フェニを見上げて、アニスは明るい顔をつくった。


「なにもないよ」

「本当に?」

「ほんとう……にゃ。こないだからあの人たちも機嫌がいいし。良いカモが来たって。あっ! ゴメンなさい!」

「いいんですよ。カモで」


 フェニがアニスの頭を撫でる。「本当に困ったら言ってね」


 アニスの苦しみが減ればいいと、フェニは話していた。「元奴隷の経験から言われてもらいますと、『有用』なものほど大事に扱われますので」と、悲しげに。


 できる限りアニスと関係のある客でいようというのが僕らの考えだった。全ての奴隷を救おうなんて大それたことはできないけど、出会えた縁を大事にしようと思っている。


 ああ、早く島田に復讐してやりたい。会えばいつでもぶっころころできるけど、島田にもたっぷりと僕が味わった分の痛みをお返ししなければ復讐にならない。


 復讐とは関係のない、島田にべったりのドワーフの職人たちを巻き添えにはできないのが難点。仮にフェニやニロ、殊にアニスへ命の危険が迫ったなら、その場で呪殺も実行する。でもこちらからその危険を作り上げるわけにもいかない。アニス自身も抜け出す覚悟がないように思えるのも気にかかる。


「おやおや! 毎度ご贔屓にありがとうございます」


 噂をすれば影とやら、島田が現れた。工房の方、裏口から来たのか、奥からドワーフたちの品のない笑い声も聞こえてきた。


「島田さん。こんにちは」

「なんと、ワタシのことをご存知ですか?」


 芝居がかったそぶりで驚く島田。当たり前だろ、忘れるものか。


「もちろんですよ。こちらのお店の武具は冒険者たちからしたら垂涎の品ですからね。噂は耳にしない日はありません」


「光栄の至りでございます。そちらの方はパーティの新しいお仲間ですか? 魔導師の方とお見受けします。いかがです? 霊水狼のローブや、各属性のマナ玉を嵌めた赤樺の杖も取り揃えてございますが?」


 島田がハイブランドの店員気取りにニロに歩み寄り、なんとかのローブを着せようとしている。下手したらニロは「素敵だから買うぅ」とか言いそうだと心配した。だけどニロは割りかしハッキリと、


「要らない」

 と答えた。


 おお……。


「一度着てみることをオススメいたしますよ。やはり魔導師の方は————」


「わたしは今持ってる物を大事にしてるのでぇ、だから今日は新しい物は要らないんですぅ」


 間伸びした声で、それでもはっきりした意思のある声だった。島田は片眉をピクピクさせ、「左様でございますか」と引き下がった。ちょうど新たな来店があり、双方が妙な空気になりかけた場から自然に離脱した。


「いらっしゃいませ、今日はどういった御用で」


 島田はまた気色悪い笑みを浮かべた。


「それでは我々は失礼します」


 そう言い、店を後にする。接客する島田の向こう側でアニスがこっそり手を振っていた。


「初めてお洋服屋さんで店員さんに声をかけられて緊張したぁ! ちゃんと撃退できてたぁ?」


 ニロは期待のこもった目で僕らに聞いた。


「できてましたよ」

「よかったぁ。人間生活たのしい〜」


 あそこは服屋でもないし、服屋で声をかけてくる店員を撃退するというのも間違った認識だけど、よくやってくれた。

 ギルドの方へ足を向ける。


「それで今日も誰かに復讐するのぉ?」

「ちょっとニロ……! 外であんまりその言葉は」

「あぁごめ〜ん。秘密なんだよねぇ」

「まぁ、その件に関しては僕が協力してもらってるからなぁ。でも僕自身は気ままに進めていけたらと思ってるよ。期限があるわけじゃないし。僕はいつまでも忘れるつもりはないし」


 楽しみが多い方がいいし。


「そういうことならさぁ、今日はお休みにしなぁい?」

「ニロ、エリュアールさんのプレゼントを探したいということですか? でもお金は」


 プレゼントは自分のお金で買う話だった。


「ん〜思えばわたしぃ、マナ玉たくさん持ってたんだよねぇ。魔族の村から追い出されて森をウロウロしてた時、溶けない飴玉だと思って舐めてたのがそれだったんだよぉ。だからちょっと探したらたくさんあったぁ。ほらぁ」


 ニロは拾ったどんぐりを見せる子供みたいに両手を広げた。えげつない量のマナ玉が山盛り。あっ、ニロ様。おつかれさまです。肩でもお揉みしましょうかと言いかけた。


「これでブレスレット買えるねぇ」

「買えるというか」

「これでビーズネックレスすら作れる量ですね」

「いやぁこれ高価な物だったんだねぇ。溶けない飴玉だなぁとか、おはじきにして遊んだりしてたんだぁ」


 ニロ…………そんな札束を積み木にするみたいなノリで遊ぶ子供だったのか。


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