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サティさんが1番です



◆サティさんが1番です。



「まさか魔族なんかと夜を共にしたなんてね」


 僕らは宿を慌ただしく発って、食事もギルド行きも後回しにして小さな児童公園に来ていた。


「バラされたくなきゃ来ることね」


 なんて言われたら、カルガモような縦列で彼女についていく他ない。サティさんは僕らをベンチに座らせ、彼女自身は腕を組んで立った。


 サティさんは鎧を装備していたが、機動力を重視しているらしく、所々で褐色の肌が露わになっている。武器はクロスボウに似た物を肩から下げているのに矢筒は見当たらない。


「お腹にあんな大口があるなんてね、アンタ」


 サティさんは左手でニロを指さした。左にだけ付けた手甲には、五色の爪が伸びている。マナ玉のようでもあった。


「たぶんそれはぁ、サティさんの悪い夢ですぅ……」

「私が思うに見間違いの可能性が高いかと……」

「サティさんはとてもお疲れのようでしたので……」

「夢なわけないでしょ! 夢だと思いたいけれど!」

(だって、男の子にあんなに強く抱きついちゃって……)


 あー……、また漏れてきてるなぁ。

 フェニと僕みたいにマナが繋がりかけてるのかな?


 僕はフェニとニロを見る。なぜか共に不思議そうな顔をしている。


 サティさんは続ける。


「あんな恥ずかしい目覚め、アタシの長い人生で初めてよ。汚点!」

(本当はまだ17年しか生きてないけど……)


「え〜! サティさんって17歳なんですかぁ!」ニロが笑顔になった。「同い年ぃ!」


「ハァ? 何言ってんのよ! エルフのアタシとアンタらガキが同い年なわけないでしょ!」


「ちょっと待って。ニロ、なんでサティさんの年齢を知ってるの?」


「ええ〜? だっていま言ってたよねぇ?」


「私もきこえました。その前の、男の子に抱きついちゃって興奮した、というセリフも」


「なっ! そこまでは漏らしてないわよ!」


「思ってたんですね」


「ぐっ……!」

(もうサイアク! なんでアタシはマナ漏れしちゃう体質なのよ! でも離れれば)


 2、3歩距離をとるサティさん。腕を組んでにんまりとした顔。僕はたずねた。


「もしかしてサティさん、距離をとったからこれでマナが聞こえない……って思ってます?」


「なんで聞こえたのよ!」


 マナの声が聞こえるのは近距離に限る。でもそんなのは関係ない。もう顔に書いてある。


 サティさんはもう10歩分の距離をとった。フェニがきく。


「今度こそ大丈夫だと思ってますね?」


 もっともーっと離れるサティさん。

 マナもきこえないけど、これじゃあ声も届かない。


「マナがきこえて、顔に書いてあって、ある意味1番信用できる人ですね」


「それぇ、戻ってきたら言おうねぇ。1番だって喜ぶよぉ!」


「いや……逆じゃないかな?」


「ん〜〜? あぁ、そぅそぅ。そういえばさぁ」ニロが僕とフェニの顔を見比べる。「ね〜え? フェニはロロルのこと好きなんだよねぇ?」


「ごふぉ!」フェニが無表情のまま鼻血を出した。「なんですかいきなり……」


「だってさぁ、好きでぇ、転生者なのにぃ、なんで「ます」「です」って話すの?」


「それは……」顔を赤くするフェニ。「馴れ馴れしくタメ口たたいたりなんて、物凄く距離感が近い感じするじゃないですか? 恥ずかしいんです……。まるでぴったりくっついてるんじゃないかって気がして」

(いや、もはやくっついてる。もうまさぐられてるのと同義)


 タメ口=まさぐり。


「なるほどねぇ〜」

 納得したの?!


「だから「ます」や「です」がないとダメなんです。距離感を保つための武器なんです。いわばウェポンズオブますですトラクションなんです!」


「なるほどねぇ〜」

 理解できたの?!

 距離感保つために大量破壊兵器使われたらたまらないよ。


 フェニ……こちらが寝ている時なんかはあんなに大胆なのに。距離感がバグっている。


 こないだの夜のことが思い出される。至近距離にフェニの顔……唇……。


 一回だけ、心臓がドクンと跳ねた。


「でもぉ、なんでロロルとマナが通じてること黙ってたのぉ? 言ってくれれば————」

「ちょっとアンタたち2人! マナ通いしてるの!?」


 サティさんが走って戻ってきた。フェニが顔を赤らめる。


「だって、そんなことを言いふらしたらきっと周囲の人が愛し合ってる私たちの様子を想像しちゃいます……。私そんなの恥ずかし過ぎて死んじゃいます」


 死の呪いで結ばれてるなんてサティさんには言えない。


「愛し合ってる様子ぅ? ってどういうことぉ?」


「バカね! マナ通いをしてるのは何十年の付き合いの親友同士や、恋人、仲の良い家族。相性もあるけどあとは……」

(ヤバい! マナがまた漏れちゃう……)


 顔を真っ赤にしてうつむくサティさん。


「あとはぁ?」


「漏れちゃうから知らなーい!」


 ものすごい速さで走っていくサティさん。やがて見えなくなる。


「なんだぁ、おトイレ我慢してたんだぁ」


「ちがうよ」と、彼女の名誉のために一応否定しておいた。


「あぁ、サティさんに『あなたが1番ですよ』って言うの忘れたぁ」


 ニロが魔族であること云々を話すのを忘れた。


 いっそサティさんも忘れてくれたら楽なのに。


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