しゅらららば
◆しゅらららば
暗闇の中で目が覚めた。
昨日と同じだ。ニロに呑まれてるのだと分かった。ただ昨日と異なる点は、目の前に泣き叫ぶサティさんの顔が薄っすらと見えていること。あと顔じゅうをサティさんに殴られていることと、あと脚を誰かに引っ張られている感触があること。数えてみたら昨日とはだいぶ違う。
「暗い! 狭い! 怖い!」
サティさんは完全にパニックに陥っていた。
「落ち着いてください! 大丈夫ですから!」
「怖い! 怖い! 暗い!」
その時、普段フェニからきこえるような、マナ経由の声が僕の中に染み込んできた。怖い怖いの叫びの中に、はっきりとした言葉。
(だれか助けて!)
恐怖と孤独感。それは僕が毎日抱いていたものと似ていた。
僕はもう一度呼びかけた。
「サティさん! 助けに来ました! もう朝ですから大丈夫です!」
ようやくサティさんのジタバタが止まった。暗闇の中で僕を見つめている。
「ほんとう?」
昨日までのツンとした刺々しい雰囲気はない。野花のような子供っぽさがあった。
「だいじょうぶなの……?」
(夜は一緒に寝てくれる?)
「夜は一緒に寝ます!」
「うそじゃない……?」
(抱きしめてくれる?)
「はい————」そこであたりが真っ白になった。「サティさんを毎晩抱きます!」
フェニが脚を引っ張ってくれたおかげで、ニロの奈落の口から出たようだ。
「やぁ〜ん! 下のお口そんなにかき回さないでぇ!」
ハッとした。背筋に冷たいものを感じる。
ニロはきわどいセリフばかり言っているし、サティさんは我にかえって恐い顔で僕に氷の刃を突き立てているし、フェニは枕を抱いて離れたところから闇に満ちた眼差しを向けてくるし、廊下からは何かを勘違いしたドワーフの主人が怒鳴っているし。
ちょっと一回死んできていいかな。




