相部屋
◆相部屋
ギルドに戻り、エリュアールさんと少し話した。彼女は僕らの顔を見ただけで、今日何があったのかを悟ったようだった。
「遅いから心配したよ。お疲れ様です。換金素材があったら奥へ」
結局あの後僕らは、今後の活動資金や生活費のことを考えたら、マナ玉を諦めるわけにはいかず、ニロに頑張ってもらった。
「舌、器用なんでしょ! ニロならできるよ!」
「ニロ、出してもらわなきゃ食べるものに困るんですよ!」
アイテムポーチは絶対に出してくれなかったので、マナ玉狙いで粘った。
「口の中の奈落にねぇ、舌がいるんだけどぉ、いまがんばってもらってるから待ってぇ〜!」
マナ玉を5個ほど出して、日が暮れたのもあり、諦めた。
ラベンダーさんはまた驚いていた。
「マナ玉キタコレっ! 下手な宝石より高価な品よ?! また珍しい物持ってきたわねェ」
マナ玉5個、しめて55万ジェニーだった。大金を持ち歩くのも物騒なので、いくらかはギルドに預かってもらった。利息は0らしい。
昨夜と同じ食堂で食事を済ませた。
あとは宿探しだ。
「わるいね、もう満室なんだよ」
「ウチはいっぱいだよ」
「お前あれだろ、噂の淫獣男だろ。帰んな」
疲れて食堂でダラダラしてしまったのがいけなかった。宿はなかなか見つからない。
「スマホがあればいいのにね」
「そうですね。空き部屋がすぐ検索できますから」
「ロロルぅ……」
不意に道端でニロが立ち止まった。両手を前に出して目を閉じている。
「お……おんぶはしないよ」
「既に入眠してますね」
弁慶の立ち往生のように、立ち入眠。仕方ないのでおんぶした。
「ロロル君」
フェニが両手を前に出した。
「おんぶはできません」
「じゃあ」(抱っこしてー)
「できません」
5件目の宿でようやく空き部屋を見つけた。
「いいけどよ、ただし相部屋になるぜ? ベッドは2つしか空いてない。でも料金は3人分もらうからな」
フロントにいたドワーフは酒瓶でボトルシップを組み立てながらこちらも見ずに言った。
「二階の奥だ。鍵は無い。先客がなんか言ってもおれが許可したって言え。文句は言わせん」
「どうも」
二階の奥へ向かう。廊下は宿泊客の疲れが染み出しているかのように静かだった。満室なのに話し声ひとつ聞こえない。
「失礼します」目当ての部屋をノックをする。「どうぞ」の言葉の後、部屋の中へ。
「相部屋ならお断りよ?」
窓際の奥のベッドにいた人物に僕らは驚いた。
今朝ギルドで居合わせたエルフの女の子だった。いや、エルフは長寿だから「女の子」かどうかは分からないか。たしか名前はサティと言っていた気が。
「お休みのところ失礼します。急で申し訳ありませんが、相部屋をお願いします。下のご主人には、「おれが許可する」と言われております。ご迷惑をかけないように努めますので」
フェニが丁寧に挨拶をする。
「私はフェニ。彼がロロルで、寝ているのがニロです」
「アンタ達、今朝ギルドにいたわよね」
「覚えててくれたんですね」
「ベツに? 弱そうなやつらだなって、印象に残っててね。アタシの名前はサティ。見ての通りダークエルフよ。悪いけど、考え事してるからもう話しかけないでちょうだい?」
「はい。おやすみなさい」
というとこで会話はあっさり終了した。僕はフェニと協力して、ニロのコートを脱がし、ベッドに寝かせた。フェニはニロのパスタ巻きにされた髪を丁寧にほどき、手櫛で梳く。そして僕に「真ん中のベッドを使ってください」と囁いた。
「悪いよ」
しかし、フェニは首を横に振る。
「いけませんよ。万が一、ニロがあの人をかじっちゃったら大変です。今夜は私がしっかり四の字固めでホールドしておきますので」
「痛みを伴わせる必要はないと思う」
不安を拭いきれないまま、僕らは就寝した。
「電気消しますね?」
「え……ええ。勝手にしないさいよ……」
話しかけるなとは言われたけど、一応の声がけだった。サティさんは考え事を遮られたからなのか、ちょっと不満げに見えた。




