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湿原での護衛



◆湿原での護衛



「お待たせしました」


 昼前、城門前にいた丸山にギルドカードを提示しながら近づいた。僕ら3人を見て、丸山は隠すそぶりもなく顔を顰めた。記憶の彼女と変わらず、スネた口元で、人を真っ直ぐ見ない奥二重の眼。


「3人ですか?」


「頼りないですかね……」


「むしろ多いじゃないんですかってこと。言っておきますけど報酬は————」


「ご心配なく、ジュンコさん。私たちは駆け出しの身でして、こうしてパーティを組んで力を合わせてやらせていただいてるんです。報酬に関しましては、依頼書にあった通りでもちろんけっこうですので」


 丸山はフンと鼻を鳴らして顔をそらした。「当たり前じゃないの」と呟いて。


 丸山も僕のことを覚えていないようだった。


 馬車に乗り、南西の方角へ。

 王都の南西には畑が広がっていた。国の中にも田畑はあるらしい。でも畜産なんかはスペースをとるから外だけ。そういえばスライム退治や薬草集めと並んで、魔物からの家畜の見張りは常時受注できるときいた。一回くらいやってみてもいいかもしれない。


 道中、相乗りしていた別の冒険者たちがちらちらとニロを盗み見ていた。露出の多い服装は見慣れているはずだけど、レインコートに水着というアブノーマルなセットに興味が湧くのは分からないでもない。


「見てぇ〜」と出し抜けにニロは冒険者たちの方へ生脚を伸ばした。「エリュちゃんがくれたんだぁ〜」

「お、おう。靴か。よかったな。大事にしろよ」

「もちのろーん!」


 よっぽど嬉しかったんだな。

 フェニ曰く、エリュアールさんへのお返しを真剣に悩んでいたらしい。


「さぁ護衛さんたち、降りましょう」


 道が柔らかくなり景色が湿原に変わると丸山が言った。


 馬車、途中下車。同時に空が曇りだす。


 降りた地域は背の高い草がところどころに群生していた。そして雲間から射す太陽光を反射する、底の知れない沼の数々。


「知ってると思いますけど、この辺りの湿原は草陰や沼からいろいろ出てくるから、ちゃんとワタシを守ってくださいね」


「もちろんです! Fランクとはいえ僕らもハンターのはしくれ! 魔物たちにはジュンコさんに指一本触れさせません!」


 楽しくなってきた。馬車が通る道が近くにあるが、群生した草を利用すれば人目を避けられるだろう。少し行ったところに林もある。相手は1人。復讐には好立地だ。


「ところでですが、ジュンコさんはここで何を?」


「宝探しよ」丸山はあからさまなため息を挟んだ。「ワタシはクラフトなの。スキル【採取】で、いろんなアイテムが見つけやすくなってるの。そう、クラフトの力でね」


 クラフトを2回も。

 そんなに強調しなくても知ってるよ。お前は僕を忘れているみたいだけどね。


「私はじめてお会いしました! すごーい!」

「クラフトの方でしたか! 僕らは田舎者なもんで、なにも知らなくって。あははっ!」


 胸が高鳴る。


「ロロルぅ、楽しそうだねぇ」ニロが笑いながら言った。水たまりの上でぴょんぴょん飛び跳ねている。「足濡れな〜い! 無敵ぃ!」


「ちょっとアンタ! 遊んでんじゃないわよっ! お金をあげるんだから仕事しなさい!」


 丸山が遠慮なくニロに怒鳴った。


「ごめんなさ〜い……仕事ですもんねぇ」


 素直に謝り、へこむニロ。一応、冒険者としての意識があるようでホッとした。


「たくっ、頭足りないんじゃないの……」


 ブツブツぶつぶつ、ムカつくやつだ。まぁ、いつでもぶっころころできるし。


「クラフトの力を見なさい。スキル【採取】発動!」


 丸山の指先が心なしか光った気がした。どうなるのかと思っていたら、丸山は腰を曲げて歩きだす。そしてたまにかがみ込んで、何かを拾っていく。歩いて、拾って、クラフト特有のポーチに入れ、また歩いて、拾って…………。


 地っ味ぃ〜〜!


「ちょっと、アンタら今地味とか思ったでしょ!」

「思ってないですよ……」

「私もです」

「わたしは思ったぁ」

「思ってんじゃないの!」


 正直者のニロ。美徳だ。


「ロロル君、きました!」フェニが指差す。


 泥沼のふちが動いた。かと思うと、カエルになりかけのオタマジャクシ的な生き物が這い出してきた。中型犬ぐらいのサイズ感。そんなやつがうじゃうじゃ、ヌルヌルと、ゲップみたいな声で鳴きながら近づいてくる。


「ジュンコさんは下がっててください!」


 抜刀し、フェニと共に魔物の群に向かう。


「やっ!」


 三日月のショーテルを振り抜く。

 魔物が容易く両断される。

 すごい。アニスの打った剣が業物なのだとこれで証明された。


 フェニの方を見る。彼女は2つある短剣の長い方の1本しか抜いていなかった。素人に双剣は扱えないと判断したのだろう。


 飛びかかってくる魔物を突き刺す。突進された勢いに力負けして、後ろに倒れた。討ち損じたその1匹は丸山とニロの方へ。僕とフェニはこっちで手一杯だ。


「ニロ! おねがい!」


「はいきたぁ! 雷魔法【紫電の囁き(セーデンキ)】」


 頭の上の巻き髪からかんざし代わりにしていたスプーンを抜き、流れるように振る。先端が薄紫の光をまとう。


「ビリビリめしあがれぇー!」


 スプーンで魔物を叩くニロ。


「ぐぇっぷ! ざぁっぷ! ざぁっぷ!」魔物が鳴く。


「効いてるよぉ!」


 いや……効いてるというか、なんか、嫌がってる……。


 ともあれ、なんとか10匹ほどの魔物を倒した。

 僕らは3人とも泥だらけ。ニロだけは水魔法でコートや長靴を洗っていた。

 綺麗好き。物持ちがいい。


「守ってくれてありがとう。ゆっくり休めたわ」


 丸山は嫌味を言うと、倒した魔物の死体に近づいた。そして狙いを定めて短刀を突き刺す。


「こいつらはトラッシートード。ほとんど利用価値がないんだけど、メスはたまに卵を持ってて、その中でたまにマナ詰まりを起こしたのがあったりしてね」


 マナ詰まり…………なんだろう。


「それが琥珀みたいに綺麗に固まるのよ? 通称マナ玉。まぁ他にもマナが吹き溜まった場所なんかにもできるわ。マナ詰まりの卵はマナ玉の中でも特に珍しくて、で……これが高く売れる、と」


 丸山は見せびらかしながら、水色のビー玉みたいな粒をポーチにしまった。


 玉の中には先ほどの魔物のミニチュア版が閉じ込められていた。マナ玉はつい先ほど知ったばかりの物だ。あれは人工でも綺麗だなと思った。でも天然物の美しさには負けた。丸山の【採取】のスキルは効率的に素材やマナ玉を探せるのか。


 まぁ、地味だけど。



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