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お尻をかじった女の子



◆お尻をかじった女の子



 小山は低めの木々に覆われていたけど、いざ登り始めてみるとロケーションはのどかそのものだった。日当たりも良く、野花がところどころに咲いていている。川の音も時折り風に運ばれてくるためにさわやかだ。


「ピクニックにはもってこいの場所だね」

「魔物がいるとはいえ、この辺りにはスライムくらいしか生息していないらしいですからね。そのスライムがいま見当たりませんが」

「薬草もどれがどれだか分からないや」

「私もです」

(また2人の共通点、見つけた)


 共通点じゃなくてスライムと薬草を探そうよ。


「探す場所を変えようか? 川の音がするから、そっちの方とか」

「なるほど。スライムってぽよぽよ、ぷわぷわしてるイメージですし、水辺にいそうですよね」

「見たことないの?」

「はい。お恥ずかしながら」


 なんと、僕らは見たことのないものを探していたのか。

 僕も「行けば分かるだろう」ぐらいの気でいたから、責めるつもりもその資格もないけど。


「じゃあ川に行こう。さっき音がしたんだけど……」


 僕は目を閉じて耳を澄ませた。ほどなくして胸の辺りに何かが触れる。いい匂いがする。


「どう? きこえる?」


 返事はなかったけど、マナを介して聞こえた。


(ロロル君の心音が聞こえる)


「いや川のせせらぎを探そうよ」

「ふぇっ! 心を読みましたね!」


 ダダ漏れだからよく読んでるよ。


「急に接近してくるんだね……」

 僕は恥ずかしさを隠すようにそっぽを向いて言った。


「目を閉じてる時はチャンスかな……って」(恥ずかしがり屋をなおしたいな)


 恥ずかしがり屋というか暗殺者の思考回路じゃないか。枕を高くして寝られないな。


「川の方角を探ろうね……」


 目を閉じて耳を澄ませる。川のせせらぎがする。それに混じって小鳥の声、風の音。と、


 ぐぅぅぅぅううあああああああ!!


 狂った男が出すような、そんな野太い声が、きこえる……気がする。


「どう? きこえる?」

「なんか……雄叫びあげてます……? はぁはぁ……雄々しい……」


 興奮してるとこ悪いけど、雄叫びは僕じゃない。遠くの方から、聞こえる、近づいてくる。


「グぎャああああああ!!」


 木立をブチ破って僕たちの前に現れたのは、魔物だった。

 そう言う他ない、凶悪な顔をした馬。まるで剣のような2本の角を生やしている。あんなのに刺されたらひとたまりもない。その魔物は前脚をバタつかせて僕らの前で疾走を止めた。


 咄嗟に剣を抜く。三日月のショーテルと、衛星の双剣。

 突如出現した巨大な馬は、既に僕らを敵視していた。けたたましいイナナキの後、全ての元凶はお前らだと訴える眼差しで睨みつけてくる。


「これが魔物……!」

「もの凄く暴れてますね。まるで苦痛に悶えるかのように」


 体格差や、魔物の風格からして、駆け出しのハンターである僕らが敵う相手には思えなかった。最初のステージにボスがブッ込まれた感じだ。


 魔物は前脚で地面を強打した。それだけであたりにヒビが走る。

 双角から稲妻が放たれ、周りの木々や地面を穿つ。


 僕らの経験値からして、何度剣を振ろうと傷をつけることもできないと悟った。触れることもできないだろう。


 【怨呪】


 だから呪いをかけた。1発でぶっころころした。僕も死んだけど。


「これでは剣を抜いた意味、って感じですね」


 なんちゃって冒険者状態だ。アニスに作ってもらったのに宝の持ち腐れ。


「こんな恐い魔物もいるんだね」


 僕は死んでいるのに恐る恐る……って感じに魔物の死体を観察した。そしてお尻の辺りにあるものを発見する。


「人だ!」


 魔物のお尻にロングコートを着た女の子が抱きついていた。僕より少し背が高い。青く長い髪の間から、おだやかな顔が見える。目を閉じていた。


「え、死んじゃってる……?」

「何回も死を経験した私から言わせてもらうと、たぶん寝てますね」


 魔物のお尻に抱きついて寝てるだって……? ずっとくっついていたのか?


「もしもーし、お客さーん、終点ですよー」

「見てください。この子、魔物のお尻にフォークを刺してますね」

「ホントだ。だから暴れてたのかな」


 長くて丈夫そうなフォークが刺さっている。こんな巨大な魔物がフォーク1本で大騒ぎするのも不思議だ。


「ふわぁ〜〜」大きなあくびをしながら女の子が起きた。「もう朝かぁ〜」


 昼はとっくに過ぎている。


「おはよう」

「あれぇ? だれですかぁ? おはようございますぅ」


 振り返った女の子の格好にドキッとした。ロングコートの中に水着を着ていたからだ。コートもよく見るとレインコートだと気付く。雨でもないのにレインコートに、そして中は水着。メリハリのついた白い肌の豊満なカラダ…………正しい目のやり場を大捜索中。


「あっ、いや……僕らは冒険者の者なんですけど、大丈夫でした? 魔物にくっついてたみたいですけど……」


「ロロル君、離れてくださいッ!」


 彼女に近寄ろうとした僕の襟首をフェニが掴んで引っ張った。


「ちょっと、どうしたの?」いきなりのことに驚いた。


「あれを見てください」フェニが魔物を指差した。


 魔物のお尻にはフォークの傷の他に、大きな咬み傷のような傷がついていた。ちょうど、女の子が抱きついていたあたりだ。


「あなた……魔族ですね?」

「ちぃ、ちがいますよぉ〜……」


 3人はしばし黙り込んだ。

 先に沈黙に負けたのは青い髪の女の子だった。


「バレたかぁ……そうですよぉ〜? でも安心してだいじょうぶ。わたしべつに人間たべたりなんかしないのでぇ。わたしは良い魔族ですからぁ!」


 疑えばキリがないが。


「ちょっとタイムで」フェニと相談したかった。

「いいよぉ、そのあいだわたしは朝ご飯にしますねぇ」


 彼女がコートを脱ぎ捨てた。そして手に持っていたフォークで長い髪をパスタよろしくくるくる巻く。頭の上で留める。フォークをかんざし代わりしたのだ。


「いただきまぁ〜す」


 両手を顔の前でたたく。すると胸の谷間のあたりから、下腹部のあたりまでが大きく裂けた。内側からめくれるように横に広がる。ふちには大小様々な乱杭歯がギッシリ。


 お腹に口が現れた。


 ガブリ。


 彼女は大きな口で魔物を食べていった。牙が肉を食い裂き、血飛沫が盛大に上がる。


 身震いした。僕とフェニは彼女から少し離れて会話する。


「さっきは引っ張ってくれてありがとう。魔族って人間は食べるのかな……?」

「食べますし、殺します。でも人間と共生してる魔族もいるとききます。王都には見かけませんが」

「種族や見た目だけで、敵だと判断するのはよくないよね」

「いっそ私を不意打ちで食べてくれたら、正当に敵視できるんですが」

「フェニが食べられるなら僕が食べられるよ」

「そんな……」

(ロロル君が食べられるなら私もがぶがぶ食べちゃうよ)


 そこはとめてよ。


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