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創世神話


◆創世神話



 スライムも薬草も、北の小山に行けば見つかるそうだ。

 僕らは北側の門から王都の外へ出た。暇そうにしてた門番はギルドカードを提示すると、アゴで外をしゃくった。低ランクのハンターはぞんざいな扱いを受けるというわけか。

 ギルドカードは色でランクが分かる仕組みだ。エリュアールさんがランクの説明を丁寧にしてくれた。上はA、僕らは最下位のFだ。

 門の外、道の脇に小屋があった。


「馬車待ちの人たちですよ。あれは馬車停。他国や行楽地に向けて出ています」

「エリュアールさんが言ってたのはあれか」


 ハンターなら、クエスト受注書を提示すれば依頼に赴く地の近くまではタダ乗りオーケーらしい。帰りも王都まで無料。


「ハンターたちの活躍で国が回ってるのもたしかですからね。創世神話も、ハンターの意義について触れていますし」

「ああ、そういえば」

「馬車、乗ってみますか?」

「正直ちょっと歩きたい気分もあるな」


 北の小山はさほど遠くないように見えた。何時間も歩き通しということにはならないだろうし、僕はバスや電車が苦手だった。馬車で乗り合わせた先輩ハンターに絡まれるのもうんざりだし。


「私はロロル君の決定に従います。私、バスとか電車とか、ちょっと苦手で。ほとんど乗ったことありませんが馬車もあまり」

「僕と一緒だ」

「本当ですか?」

「うん。エレベーターとかもあまり乗らなかったな。息苦しくてね」

「私もです!」

(こんなに共通点ばかりならもう私たち同じ人間みたいな気がしてくる)


 人類わりとおんなじ人間になっちゃうじゃん。

 僕らは踏み固められた土の道を歩き出した。周りには果てしない草原が広がっている。風が吹くと草の絨毯が揺れて、波になる。風が見えているかのようだった。綺麗な景色。この世界を本当にあの女神が作ったのだろうか。この世界に伝わっているという『創世神話』ではどうやらそうらしいが。



 創世神話

 芳しい女神の息吹が大地を、木々を、海を、空をつくった。

 女神と、女神のつくるものは美しかった。

 地の底には魔神がいた。魔神は女神に恋をした。

 そして女神の気をひこうと、魔神も、ものをつくった。

 魔物と魔窟。

 しかし女神はふりむかない。

 魔神のつくるものは、美しくなかったから。

 女神がつくりし狩人は、魔神のものをこわす。

 女神と魔神がふれあうのは、まだ遠い先のこと。



 というような内容の神話だ。エリュアールさんが絵本を読み聞かせるように話してくれた。

 狩人……ハンターたちには、魔物を退治するのは女神の手を煩わせないためという大義名分があるわけだ。そこの解釈は人によって違うらしいけど、ハンターたちが国の経済の一部を回しているのは確かなようだ。


「ねぇフェニ、この世界ってどれぐらいの歴史があるのか知ってる?」

「分かりません。でも例えば、森に住むハイエルフたちは、数百の年を重ねているとききます」

「エリュアールさんも長生きしてるのかな。女性に歳は聞けないけど」

「転生者たちは、割とみんなこの世界を謳歌するのに夢中な節があります」

「第二の人生、だしね。クラフトたちが増えても、世界は元のような文明にはならないんだね」

「こちらまで、現世と同じになったら、転生というよりは来世になってしまいますね」

「あの女神だから、あえてRPGみたいな世界観に調整してるのかもしれないな」

「あの女神……という言い方をしますけど、ロロル君がもつ女神像と巷のそれとは相違がありますね」

「どうしてだろうね……」


 ほんとは汚部屋に住まいのゲーマーだと主張したら信者に殺されるかもしれないな。

 僕は女神の部屋であったことを大雑把に話した。


「にわかには信じがたいですが、女神も息抜きにゲームもしたくなるんですかね」


 優しい解釈だ。

 部屋の汚さまで事細かに話さなかったのも、優しいと言えるだろうか。


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