エリュアールとラベンダー
◆エリュアールとラベンダー
「こんにちは。あの、ギルドに登録したくて来たんですけど」
「はい?」
応対してくれたのは、エプロンドレスを着たエルフの女性だった。金髪碧眼にエルフ特有の長い耳。知的な面長の顔は優しい微笑みに満ちている。三日月姫と呼ばれたエリュアールというのはこの人なんだろうなと思った。
「あら、新入りの方たちですね。こんにちわ」
「こんにちは。すいません。騒がしくしてしまって」
そう言ったけれど、彼女はいまいちピンと来ていないようだった。
たぶん日常茶飯事で気にも留めてなかったんだな。
「ああ」ようやく何のことかを理解したようで。「ごめんなさいね。先程は。彼らは新入りを見つけるやいなや絡んじゃうのよ。それが仕事みたいなもので」
困ったやつらだな。
「あらァん? もしかして新しいコ?」
奥の部屋から現れたのはギルドマスターだろう。一瞬、白い筋肉団子が来たのかと思った。我ながら筋肉団子ってなんだよって感じだけど、あらゆる筋肉がもりっと隆起している様からそんな言葉が連想されたのだ。筋肉と同じようにモリっとしたブーメランパンツは体を亀甲縛りにしているサスペンダーとつながっていた。
「アナタかわいいわね。隣のコもすっごい美人。あたしはここのギルドマスターのラベンダーよ。よろしくね」
賭けに負けた。
ゴリゴリのマッチョマンだった。
フェニをちら見する。彼女はにまにまと口元をゆるめていた。そういえば何を賭けたか聞いてなかったな。
「そしてこっちはエリュアール。優秀な受付嬢だからなんでも聞いてちょうだい。ギルドメンバーのことは全部記憶してるんだから」
「もう、全部なんて。さすがに10年前のメンバーの生年月日とかは忘れちゃいますし……」
折り紙付きの記憶力。
こちらの自己紹介や、いろいろ話すかたわら、ギルドカードを発行してもらった。
その際、写真撮影もした。僕は、エリュアールさんが現世の日本にもあるようなカメラを持っていることに驚いた。
「ああ、これ?」彼女は僕の視線に気がついた。「これはクラフトの方が作ってくれたのよ。おかげでいろんな身分証に顔が載って、悪いことをする人が減ったの」
「そうなんですか」
「そうなの。はい、じゃあ笑って?」
ぱしゃり。
カメラを作ったのもクラフトだろうか。僕の顔写真は、少し硬い表情になってしまったかもしれない。カメラには心当たりがある。彼を思い浮かべてしまったから。
「ガリュードちゃんが立会人で移住願を作ったのね。あの子なら安心だわ。……あらん?」
僕とフェニの移住願を見比べていたラベンダーさんが顔を上げ、首を傾げた。
「どうしました?」エリュアールさんがきく。
「ヤーダ。もしかしてあの新人いじめ君また来てたの? 一体なんなのかしら」
「はい……一体どこの誰なんでしょうか」
エリュアールさんは困り顔で答えた。記憶力抜群の彼女が知らない。イコール、ギルドメンバーではない。
ほんとにただの異世界チュートリアルさんじゃないか。




