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リア充爆発



◆リア充爆発



 高2の夏休みが終わり、はや1週間。3年間の学校生活も残り半分となった。


 減っていくモノが残り半分になった時、それを「もう半分」って捉えるか、「まだ半分」って捉えるかによって、その人の幸福度が大きく左右されるらしい。


 つまりは、良い方に考えられる力があるかどうかが重要なわけで。


 これに関して僕は、「まだ半分もある」と思わざるを得ない。


「おりゃッ!」


 中庭。

 クラスメイトの運動部系のやつらが僕に飛び蹴りし、どこまで僕がぶっ飛ぶかを競うゲームをしている。昼休みが終わるまでの約10分、僕はあと何度蹴られるんだろうか。


 期待していたんだ。

 夏休みが終われば、このイジメも終わるんじゃないかと。


 理由のあったイジメじゃない。だから終わりも理由なく、なんとなく、前触れなく、終わるんじゃないかって。でも期待はハズレ、大ハズレ。

 僕は未だこの地獄にいる。


「ほら今和野いまわの。何点だー?」


 今和野飛ばし……このゲームは飛び蹴りされた僕の飛距離と、僕がどれだけ痛がったかの2項目から点数が弾き出される。


 今、僕は胸を蹴られ、肺が圧され、痛みを伝えるどころか呼吸もままならなかった。立つ事も出来ず、9月の日射しで高温になった地面の熱に焼かれる。


 痛み、恥辱、金銭の搾取、悲哀、何も成せない渇き、日毎に変わる様々なイジメのメニューに僕の心は壊れされていく。クラスメイトも、教師も、挙句には自分自身も信じられなくなった。


 誰も信じられない。


 ああ、まだ半分もあるのか。

 幸せになんかなれるものか。


 こいつらが消えてくれなきゃ、僕に降り注ぐはずの幸福は、僕まで届く前に奪われる。


 そしてこいつらは笑う。


 罪悪感もないままに、愉快に、幸せに、毎日をエンジョイする。


 不平等だよ。

 でも僕には力がない。抵抗する勇気も、ハッタリかます大胆さも、逃げる気力も、ない。巧い嘘もつけない。悪知恵もはたらかない。


 人間から、「登校」と「下校」のみをプログラムされたマシンに成り下がった。毎日こいつらにイジメられるためにやってくるだけのポンコツメカ。


 なんでここに来るんだろ、なんでここにいるんだろ、なんで僕は生きてるんだろ。


「早く立てよ。ゲームも終盤だ! 3巡目イッくぞー!」

「ここいらでおれらのスコア言ってみろ。忘れてなんかいねえよなー?」

「喉渇いたか? ホラ、水やるよ。オレのスープ減るんだから、ありがたく飲めや」


 ゲーム出場者の1人が僕の頭にカップ麺のお湯を少しこぼした。


 アツい!


 僕の悲鳴に会場が余計に盛り上がる。笑い声が沸き起こる。


 何も出来ない僕は、ただこいつらを呪った。


 情けない。

 でも呪うしかないじゃないか。形骸化した心で、満身創痍の体で、全身全霊、呪うしか。


 いっそ爆発してしまえ。


「おっ、もうそろ5分経つな」

「おめーマジ麺やわらかめ好きな」

「ウッセー。5分も待つには並々ならぬ忍耐力が必要なんだぞ? さぁ10、9、8————」


 爆発しろ!


 お前ら全員、お前も、お前も、観戦するやつも、見て見ぬふりのやつらもみんなだ!


「7、6、5、4————」


 燃えろ、爆ぜろ、灼けろ、焦げろ!


「3、2、1!」



 0————で、爆発した。



 凄まじい爆音、煙、炎。


 学校の数カ所で爆発。そしてそれはこの中庭でも。

 瞼の内側、耳の中、鼻腔、全てにオレンジの火炎が侵入してくる。

 経験したことのない熱。


 おまけに衝撃波で割れた校舎の窓ガラスが千のナイフとなって降り注ぎ、体に突き刺さる。


 最後の地獄だ。


 いや、天国だ。

 僕を苦しめて充実した毎日を送っていたクラスメイトたちが、僕と同じ痛みに苦しんでいる。全身をくねらせて奇妙に踊っている。


 愉快爽快。もっとだ、もっと苦しみ悶えろ!

 僕と同じ痛みを味わえ!


 だけど悲しいかな。

 僕の世界はすぐ真っ暗になった。

 ああ、死んだんだなと、思った。

 でも思ってるってことはまだ死んでないのか。だけどこれから死ぬんだよな。


 人を呪った、その報い……なのかな。



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