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ギルドに着いたらまず



◆ギルドに着いたらまず



「ギルドです」

「ようやく辿り着いたね」


 太陽はテッペンを少し過ぎた。


 大きな建物だ。中からは男たちの笑い声が聞こえる。スイングドアを押し開き、僕らは中へ。途端、静まり返る男たち。集まる視線。


 めげるな、僕たちはギルドカードを発行しにきたんだ。カウンターは……よし、正面のあそこにある。綺麗なお姉さんが立っているところだ。


「ちょっと待てよ、坊やたち」


 分かっていた。だって僕は異世界漫画を読むから。ギルドに着いたら、十中八九、モブに絡まれる!


「見ねぇ顔だな。異国のモンか? それともお母さんのおっぱいを吸いたいのにお家を間違えちゃったのかな?」


 筋骨隆々の大男が僕らの前に立ちはだかった。


「私たちはこの国に移住希望の旅の者です」

「そうなんですよ。ひとまず生活費を稼ぐためにここへ」


 僕らが言うと、彼はツバを飛ばしながら怒鳴ってきた。


「ゴチャゴチャうるせえよ、ガキどもが! それにテメェの背中の武器、三日月の形してるみてぇだが、どう考えてもここの受付嬢、三日月姫と呼ばれていたエリュアールちゃんを意識してるじゃねえか! ええ?!」


「エリュアールちゃん……?」


 奥のカウンターの受付嬢たちの中に、その人がいるのだろうか。


「すいません……僕はその人を知りませんし、意識のしようもないです」

「求婚者が連日押し寄せるエリュアールちゃんを知らないのも失礼だわ! オイ、あれ持ってこい!」

「ほいキタ!」


 僕らと彼の間にテーブルが置かれた。置いたのはモブその2だ。


「旅のモンなら知らないよなぁ? この国では移住権を得るためにコイツを腕相撲で倒さなきゃならないんだ。そしてぇ? ギルドカード発行には俺も倒さなきゃならない」


 オーディエンスから薄ら笑いが不快害虫のように這ってきた。

 衆人環視。くそ、やるしかないのか。僕はテーブルにつく。


「おっ? 度胸あるねぇ。まぁお遊びの通過儀礼さ。先輩からの予習ってとこだ」

「ロロル君……」

「大丈夫だよ」

「おうおう、恋人の前でカッコつけちゃって」

「恋人……!?」

「オマエが終わったらその子にも、いろいろ教えてあげないとなァ?」

「彼女に手を出すな!」

「くぅっ!」(カッコいい!)


 テーブルの上で男に手を握られた。悔しいことに、きゅん死して倒れるフェニを支えたのは、ゲスな笑い声をあげるモブだった。


「すげぇ! この娘すげぇかわいいすげぇ巨乳だすげぇ!」


 何食ってもヤバいしか言わないギャルみたいな語彙力でフェニを語るな。


「カウント頼むぜ」男が隣のモブに言った。だからモブは言う。


「3、2、1……ゴー!」


 僕は男に『僕と闘うと腕が折れる呪い』をかけた。


「ほらほら、どうしたァ?」

「うぐ……っ!」


 なんでだ? なぜ奴の腕は折れない?

 手加減されているのが丸わかりだ。薄ら笑いの中、僕の手の甲は徐々にテーブルに近づいていく。


 一つのテーブル、互いに肘をつき、力だけを使う、平等な勝負。それが腕相撲。

 そうかなるほど、平等だ! 平等じゃなきゃダメなんだ!

 自分だけ得する呪いはかけられないんだ。この世に僕は僕1人しかいない。僕が僕と闘えるはずないから、それじゃあ呪いは平等に返ってこない。

 「死ぬ」だけのシンプルな呪いはともかく、「〜〜したら」等の条件付きの呪いは、その発動条件をお互いが満たせるシチュエーションじゃなきゃダメなんだ。

 そして呪いがリターンするべき状況も成り立ってなきゃいけない。例えば、僕に脚が無い時に、脚が折れる呪いを相手にかけることはできないんだ。

 他の呪いをかけなきゃ! こんなギルド初来訪のありがちイベントで負けてる場合じゃない。とりあえず勝たなきゃ意味がない。僕は『手加減したら腕が折れる呪い』をかけた。


「うおおおお!」


 腕に全力をこめる。相手はにやにやしてそれを受け止める。


「へへッ! ほら坊や、頑張れ頑張れ、がっ!」


 ばきんっと大きな音を合図に、囃し立てていたオーディエンスが静まりかえる。


 相手の腕、肘から少し先がぐねりと曲がり、手の甲はテーブルに叩きつけられた。男は突如起こったありえない出来事を理解できずにいた。


「エっ?」


 しかし呆けている間も痛みは彼の脳に訴えかけている。そして男はようやく悲鳴をあげた。オーディエンスも騒ぎ出す。僕はフェニを抱き止めている男を指差した。


「もしお前がその腕を大事にしているなら、今すぐ離した方がいい。骨が折れる音をもう一度ききたいなら別だけど?」


 精一杯の脅し。たとえ無限に呪殺できたって、連戦は避けたい。同じギルド内で問題児扱いされるのもゴメンだし、復讐者として目立つのも良くない。


「ば……ばーか!」


 2人は逃げた。ストレートな捨て台詞にもカチンとくる。そっちから仕掛けてきたくせに。

 まっ、いつでもぶっころころできるからいいんだけどね!

 誰でもぶっころころできるからさ!

 ムカつくことがあっても、いつでもぶっころころできるし! と思えば、苛立ちがおさまることを発見した。ぶっころころと表現を柔らかくすることで、更に心がやわらぐ。

 僕の腕の中でフェニが蘇生した。


「死にながら考えたんですけど」

「死にながら思考できるの?!」

「繰り返される死の中で会得した技術です。ここのギルドマスターが、マッチョ系の男性か、長身巨乳に鼻眼鏡のマダムか、賭けませんか?」

「あー」


 たしかにどっちかのタイプに分かれるような気もするけど。


「じゃあ僕はマダムの方で」

「では私はゴリ男で」


 2人でカウンターに向かった。


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