救済からの始まり!
今回は長くなりましたが最後まで見て下さると嬉しいです。
ジェット機のような速さで肩からとび出ている漆黒の翼を操る赤髪の美少女は不敵な笑みを浮かべていた。
先程カズキという少年がドアの下敷きになっているのを見てからこの調子だ。何か企んでいるのだろう。
「見つけたわ」
真下を見るとカズキを殺したと勘違いしているヤクザの連中がいる。
ヤクザにはふさわしい悪と思わせる漆黒の車で逃走していた。
赤髪の美少女の翼と全く同じ色であり、そちらも悪なのだろうか...
「俺ら実際やってなくないですか!」
「いや、俺らが壊した扉の下敷きになっていたんだぞ、俺らが殺したんだ...」
「借金取りに来ただけなのにどうしてこうなっちまったんだ...」
冷静に考えるものもいれば、後悔しているものも、嘆いているものもいる。
「...もしかして...自殺..じゃない...?」
そのワードを聞いた瞬間、皆の顔は青ざめた。
本職はヤクザを生業としている連中、今回は借金取りという依頼を受けて一ヶ月も押しかけていたのだ。
その結果がこの様だ。
自殺と考えてもおかしくない。
それだとドアの下敷きになってピクリとも動かない少年にも頷ける。
自殺だとしたら自分達の不覚。
もしこの事が組長に知られたら責任を負わされるかもしれない。
「しのぎ先が一件無くなったら組長怒りますかね?」
「何言ってんだ、それ所か命はないと思え」
ヤクザの世界は甘くはない、表の世界と比べてはいけない。
表の世界と違い裏の世界では常識が通じない。
「じゃ、どうすればいいんっすか」
「そりゃ、兄貴分の俺が責任を取るしかねぇだろ。安心しろお前らには危害を加えねぇよう頼んでみるからよ」
「兄貴ー!!」
子分達は兄貴分であるグラサンのおっさんに抱きつき、泣きわめいた。
「お前ら寄せよ」
「いや、兄貴は最高の兄貴っすよ。一生ついて行くっす」
照れくさそうに頬を赤めるも事務所に戻ったらケジメとして何をされるか分からない。
その思考が車を止めないのだ。
法定速度を超えて約130㌔。
漆黒の車は事務所へと向かった。
頭上に死神がいるとは知らず。
■ ■ ■ ■
「さて見つけたし…」
「やめて関係ない人間を巻き込んではいけませんわ」
「お前は出てくるな」
「そんな訳にはいきません、あなたの行動はこの世界に影響を与えかねません」
突如一人で話し始めた赤髪の美少女。
まるで誰かと話してるみたいだ。
いや、これは誰かと話してるのだ。
自分の中のもう一人と。
「何故あなたが出てきましたの、あなたは封印されていたはず」
胸のブローチに手を当て質問を投げかける。
「あー、それね。そのブローチもう意味無いよ」
「どういうことですの」
「この世界はどういう訳か魔力が少ない。魔力が少ない影響でそのブローチいえ正式名称、女神の洞穴は効果を失ったのよ。そういう訳で僕は自由の身!!」
高笑いをしながら自分を封印した忌々しい胸のブローチを破壊した。
「これで僕を封印する神器は無くなった」
「何ということを…」
お父様から貰った唯一残ってる形見。
破壊された。
粉々だ。
下に落ちていく。
拾わないと。
でも体が動かない。
どうして。
私の意識は遠のいていく気がした。
その一瞬の隙をもう一つの人格は見逃さなかった。
「お前の意識は強いからなショックを与えれば意識を支配するのは容易い」
「しまっ…」
遅かった。
(このままでは魔界だけでなく、この世界までもめちゃくちゃに…)
もう一つの人格の戦略にハマった赤髪の美少女は間もなく意識を失う。
「さて、意識は支配した。ここからは僕のパーティショーです」
そして、もう一つの人格が動き出す。
■ ■ ■ ■
「兄貴!あれ何ですか?」
「あ?」
突如として前方現れた謎の円盤
色は黒くこの世とは思えない程禍々《まがまが》しい。
焦りを感じたグラサンのおっさんは運転手に急停止するように促した。
しかし、約130㌔のスピードを急に停められるはずも無く円盤にぶつかった。
■ ■ ■ ■
——高速道路を走っていたはずなのに...
——何故ここに俺らがいる
驚きのあまり口に出すよりも思考が優先され辺りがスローモーションに見える。
――俺は死ぬのか
高速道路で走っていた車は未だ運動エネルギーを持ったままだ。
運動エネルギーを持っているという事はスピードは今もなお持続しているということだ。
このスピードでもし何かに衝突することがあれば助かる確率は低いだろう。
その被害もちょっとでは済まない。
しかし、今回の被害はその車だけですむ。
何故ならば衝突先はあの少年しか住んでいないボロアパートなのだから。
ドォォォン
衝突した瞬間ボロアパートなだけあって崩落し、車は大爆発をおこし火の餌食となった
それと同時に赤髪の美少女のもう一つの人格はテレポートしてきた。
「うん、我ながら上出来ですね」
全てを抹消する事で自分の過ちを無かった事に。
全ては事故。
この漆黒の車がボロアパートに衝突した事故。
僕は無関係。
「これで魔法の痕跡は消えましたね」
手荒な真似だが魔法を使わず直接手を下していない為魔力感知には引っかからないだろう。
「あなたの尻拭いをしてあげましたよ、なんて僕は優しいんだ」
手を広げ決めポーズをとった。
「まて.....よ」
崩落した建物の中から声がした。
奇跡的に助かったヤクザの若頭グラサンのおっさん。
腕やわき腹の骨が折れていて立つのもやっとだ。
それでも立ったのはその男の性格上からであろう。
「おまえ...何者だ..空間から..急に現れやがって..」
「見られてたのか…それならしょうがないですね」
再び手に先程の神器。
正式名称、悪魔のエディ。
形は円盤状で指定した場所へワープが出来るといったS級神器だ。
「それは高速道路で見た謎の円盤」
「そうそう、これでお前達をここにワープさせたんだ」
「お前が俺たちを」
「ククク、ガハハ!しょうがないじゃないですか。見た所あなた達はあの少年と因縁があるようですし、事故現場にあなた達がいても不思議じゃない」
一歩一歩近づいてくる。
グラサンのおっさんはその異様な姿に恐怖を感じた。
相手は人間ではない。
死んだ振りをしていれば…
後悔をした。
(俺はいつでも自分の命優先だ、何故立ち上がってしまったのか)
「俺の人生..ここで終わりか...」
急に胸にぽかんと穴があいたような切ない思いに襲われた。
ヤクザとはいえ自分の家族と同じ扱い、暮らしをしてきた連中だ。
馬鹿だけど大切な仲間を殺された虚しさ、悲しさ、怒りが積もるのも無理はない。
殺されるのならば一矢報いてやろうそうも思った。
しかし、目の前の相手を見て勝てるはずがない...と
「それにしてもほんと人間ってクズだよな、死んだお前の仲間ももちろんお前も」
その言葉を聞いた瞬間何か自分の中で弾ける音がした。
勝てるはずがない、倒せるわけがない。そう思いながらもグラサンのおっさんは仲間を侮辱した目の前の《《奴》》が許せなかった。
拳を握り、大地を踏みしめ殴りにかかった。
「人間のくせに刃向かってくるのか愚かな種族よ。火山の熱で死んどけ」
神器悪魔のリドルを前方に置き、向かってくる相手を補足した。
「やべぇ、またあの円盤に吸い込まれる」
加速した足は停められない
このままだとまたあの時のように吸い込まれてしまう。
円盤に触れるか否か。
あと数秒遅れてたら吸い込まれていただろう
突如横から衝撃が走った。
振り向くとそこには死んだはずの少年カズキが立っていた。
「お、おまえ扉の下敷きになって死んだはずじゃ?」
「えッ扉? 違うよ俺はあの女に殺されたの、いや殺されたならここにいないな。まぁ全部《《奴》》のせいなの」
「魔法を撃っても生きてるじゃないか。心肺停止してたようだったけれど」
カズキはグラサンのおっさんに事情を説明した。
「そういうことか、俺たちはまんまと《《奴》》に騙されたわけだな。おかしいと思っていたんだよな。扉の下敷きになって即死なんてな」
自分が殺していないと分かりホッとした様子で語った。
「騙したというか、お前達が勝手に勘違いしてただけなんだけどね」
「うるせー、それでも俺らに説明したらよかっただろ。このドスケベ女」
「な、僕は男だ。それ以上失礼な事をいうと残酷な死に方をするぞ」
見た目は女性だが中身は男という事なのだろう。
もう一つの人格は自分が男である事を主張したが、相手には伝わらない。
「な〜に言ってんだ、そんな胸を強調した格好をしといて、誘ってんのか?」
「やめとけ、この世には女性でありながら自分を男と思っている方もいるんだぞ」
「お前らー、許せん火山じゃ生ぬるいわ。残酷な死、それも死にたいと思っても死ねない惨い殺し方をしてやる」
神器の悪魔のエディを握りしめカズキ達の元へ駆けた。
そのスピードに付いてこられるはずも無く、あっさりと腕を掴まれた。
「女にこれを使いたくなかったが」
内ポケットから拳銃を取り出したグラサンのおっさん。
「これはな現代武器の中で簡単に人を殺せる品物だ、撃たれたくなかったら腕を離せ」
「撃ってみろよ」
「死んでも恨むなよ」
バーン!!
「女には手を出さないって決めてたのにな」
銃を片手に少し悲しげな表情をした。
「なんだ、そんな威力なのかこの世の武器というものは。この威力なら魔物の火の粉の方が強いぞ」
「な、な、なんで死なないんだよぉー」
「僕は魔王の子だぞ、そんな物でかすり傷一つ付くはずがない」
万策尽きたグラサンのおっさんは諦めた。
大人しく死のう。
「隙を作ってくれてありがとな」
今まで大人しくしていたカズキが感謝を述べた。
(何故今ここで感謝を述べている、俺は何も出来なかった。ここで一緒に殺されるというのに。)
「まだ諦めるな、おれが一矢報いてやる」
銃で通じなかった相手だ。
素手で勝てる訳が無い。
そう思っていた。
「ではこのワープゲートの先で会おう。このワープ先は魔物の巣窟である」
魔物の巣窟その先で待ってるのは魔物の群れ、生きたまま食われ、肉体だけではなく魂も食われてしまう魔界の処刑場。
その場所へ転移させようとしてるのだ。
(お前達は二度と生まれ変わる事は出来ない)
円盤がグラサンのおっさんとカズキの肌に触れた。
ワープするはず。
しかし、ワープしなかった。
「何故発動しない」
悪魔のエディを何度も発動させたが反応が無い
「くそー、役立たずめ故障か」
「それは故障してないよ」
「お前は黙れ、神器の事など知らないくせに」
「あぁ、知らないさ。でもそれ発動しないの俺のせいなんだ」
そう言うとカズキは右手で掴まれていた赤髪の美少女の腕を掴んだ。
そして、右手で赤髪の美少女を吸い込んだ。
その光景を見たグラサンのおっさんは唖然とした。
「転落死でもしとけー」
カズキは左手をかざし手を空にかざした。
すると手をかざした空から赤髪の美少女が落ちてきたのだ。
だが翼を持っている為転落はしなかったものの精神的にもダメージは与えたようだ。
「な、なんだ今のは…もしや」
「そうだよ、これはあなたのその神器とやらの能力ワープ」
「何故お前がワープ能力を使えるのだ」
「教える義理はない」
カズキは瓦礫の破片を右手で吸収し、左手で放出した。
「おっさんあんたは早く逃げろ、ここは俺に任せな」
命を救われた、俺は死から救われたのだ。
男グラサンのおっさんいや大石辰五郎は決めた。
「いや、俺は逃げねぇ。ついて行くぜ兄貴」
「は?何言ってんだ、早く逃げろ」
「男辰五郎あんたに救われた命だ、俺にも戦わせろ」
「んー、ごめん」
そう言い辰五郎を右手で吸収し左手で安全な場所を指定しワープさせた。
「ククク…僕の鱗に傷を付けるとはやるね君」
ワープゲートを超えての攻撃である為、多少の魔力を帯びた瓦礫は鱗を貫いたのだ。
「僕もさ、ここで魔力使いたくないんだ。でもお前危ないからさ使うしかないよね」
大地が揺れ、空も切り、周りから音が無くなった。
「イラついてるから、1発では死なないでよ」
全力で拳を振った。
魔力を帯びた拳の破壊力は凄まじいもので辺りの建物は木っ端微塵だ。
この威力だと本当に殺してしまう。
本来の目的である【選ばれしもの】の候補者を…
continue…
次話は何故カズキが生きていたのかを書こうと思います
次話も見てくれると嬉しいです