娼婦ナリス1
「ありがとうございました♪」
「またエッチなナリスちゃんと遊んでくださいね♪」
今日も娼館で社会の最底辺のような男に乗られるのを耐えて客を見送る。この頭頂部が寂しい男で5人目。今日の稼ぎは2万5000ドゥン。
「ガァーガラッガラッペッペッ!」
「オェ……」
ずっと口に残る言い様のない不快感。さっきの客は口でしかイケないらしく、思っきり口に出された。しかも呑むオプション付きだ。
胃の中にある生涯報われない精子がとても気持ち悪い。金のためだと思っても混み上がってくる吐き気に泣きそうになる。
今日はもう上がろう。私のような人気がない娼婦は長時間娼館に待機して客を待つのだけど、今日はもう無理だ。次の客で吐いてしまう可能性が高い。シャワーを浴びて、1階の女将に今日の給料を貰いにいく。
「女将さん、今日はもう上がります」
「おつかれ。今日は早いね」
「さっきの客で吐き気が凄くて……」
「あんたは何年やっても慣れないねぇ……指名が着くようにそれを売りにすればいいのに」
「慣れませんよ……普通は」
ブスが指名を貰うためとはいえあれは地獄にも程がある。しかも以前女将さんのアドバイスでは呑み込むのを無料にしろってアドバイスだった。無理。死ぬ。ブスというだけで本来有料のものを無料にしろとは最悪だろ。
今日の給料を手渡しで貰い、足早に娼館を去る。今日も地獄のような1日だったけど今日の稼ぎでこの地獄から解放される。
そう。今日の稼ぎで私の貯金は5000万ドゥンを超えた。15年身体を売り続けてやっと貯まった私の全財産。これでミウラージュを買う金が出来た。やっとだ……何度も何度も諦めてもう死のうかと思った事も数えきれない程ある。実際に首吊り用のロープを買った事もある。服も化粧品もブランド品もすべて諦めた。同年代の女がキラキラ輝いてるなか、私はゴミだめのような環境で身体を売り続けた。
「うっ……」
歩きながら思わず泣きそうになった。いつも娼館で身体を売った帰りに同年代の女が彼氏と仲良く歩いてるところ、流行りの服やバッグを持って友人達と遊び回ってのを視界に入れながら俯いて家に帰っていた。
やっとこの惨めな世界から解放される。
「早く家に帰ろ……」
途中で軽く食料と安酒を買って帰宅する。
「ペキッグビグビッ!」
いつものように安酒を煽って一息つき、今日の稼ぎを金庫に入れる。100万ドゥン帯が49個。そしてこの2万5000ドゥンを足せば……
計算が間違っていないように何回も計算して確認して5000万ドゥンを超えているのがわかった。
やった……本当に5000万ドゥンある。
まだ生活費のために少しは娼館で働くとして……いや噂話で聞くような美人になれたのならあんな安娼館で働く事もない。もっと高級娼館でだって……大商会の経営者の愛人にだってなることも出来るはず。これからの自分の人生に夢が膨らむ。さっそく明日ミウラージュを扱っている男に会いにいくとしよう。
「うふっうふふふ」
気持ちが悪い笑みが止まらない。でも仕方ない。私は私の人生をかけた戦争に勝ったのだ。
翌日。私はミウラージュを扱っている都市外れの闇商人の男に会いに行った。
「お金の用意が出来たわ」
「本当かよ?本当に5000万ドゥン貯めたのか?」
右目に眼帯をしてよく鍛えられた身体を大男。年齢不詳で不気味な雰囲気を出している。12歳の頃から知っているこの男にミウラージュの存在を教えられたのだ。私に娼婦の道を進めたのもこの男だ。
「本当よ。いつミウラージュを用意出来るの?」
「本当なのか……1週間あれば用意出来るぜ。ただし、金は先に確認させてもらう」
「なにせ高価すぎる商品だからな」
「お金を見せたらいいって事?ふざけないで。あんたがそのまま持ち逃げする可能性もあるでしょ?」
「おいおい。信用ねーな。俺とお前は長い付き合いじゃねぇか」
「そうね。ミウラージュの存在をチラつかせて12歳の私を強姦したときからの付き合いだものね」そう。ルークという名のこの男はミウラージュと呼ばれる奇跡の薬の存在を教える代わりに12歳の私を無理やり強姦した男だ。信用など出来るものか。
「なんだよ、その後お前でも働ける娼館を紹介して世話してやったじゃねえか」
「重度のロリコンが集まる娼館ね。毎日大人の男に乗られて死んだ方がマシだと思ったわ」
「その後自分で働く娼館を探して働き始めたのだから、あんたにはなんも世話なんかされてない」
「チッ!いちいち過去の事でうるせーな。ミウラージュを欲しがる奴なんかいくらでも居るんだぞ」
「それは……」闇商人の中でもミウラージュを扱っているのはこの男だけだ。機嫌を損ねるのはまずい……
「ごめんなさい、言いすぎたわ」
「まったく人生の恩人とも言える俺によくそんな態度を取れるな?」
「ごめんなさい……」
男が不機嫌そうに私を睨む。
ガチャガチャとベルトを外しズボンを下ろす。
「おい、しゃぶれ」
「最近幼女以外でもしゃぶらすのだけは大丈夫になったんだよ。いやー人間は成長する生き物だな」ニヤニヤと笑いながらしゃぶれと告げてくる。こいつ……重度のロリコンで私が14を超えた頃から関係を迫って来る事は無かったのに……
無言で男の前に膝をつき、パンツを下ろす。
くそっくそっ……
行為が終わり、男の機嫌がいくらか直ったところでもう一度交渉する。
「ねぇ……あなたを信用してない訳じゃ無いけどやっぱり直接交換にしてくれない?お願い……もしもの事を考えると頭が真っ白になってしまう」
「……」
「お願い。貴方には処女を捧げたし、今まで悪事にも手を貸した。12歳の頃から貴方だけが頼りなの……」
「……わかったよ!取引は1週間後だ」
「1週間後に俺の家に来い。そのときに金とミウラージュを交換してやる」
「ありがとう。あなたは神様だわ……」
「けっ!幼女のブスならまだしもババアのブスに言われても嬉しくねーわ」
「さっさと帰れ!俺は取引の準備がある」
「わかった。お願いします」
ミウラージュを直接取引出来る約束を取り付けて、私は男の家を出る。本当に生ゴミのような男だ。風呂に入ってるのかも怪しいくらいあのポークビッツは臭かった。鼻にうんこを詰められたように感じた。でもこれでミウラージュを手に入れられる段取りが出来た。後は1週間後までに金を絶対に盗まれないように注意しよう。
家に帰る途中洋服屋のガラスの前に写っている自分の顔を観察する。細くつり上がった目。奥目だから涙袋もない。鼻筋のない豚鼻に長すぎる人中。歪んでいる太い顎。どこにも可愛い要素なんかないこの顔。この顔に生まれた事でどれほどのものを諦めて苦労してきたことか……
でもこれからの人生は違う。可愛い顔に綺麗な服を着て、まるでこの世界の主人公のような人生が待っている。
「うふふふっ」
そうだ。少し奮発していつもより良いお酒を買って帰ろう。前祝いだ。
「早く1週間後にならないかな」
私はいつも通っている酒屋よりランクの高い酒屋に入っていった。
1ドゥンは大体日本円で1円。
ミウラージュは日本円で5000万円くらいの価値です